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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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32.誤解?

 とっさに身構えた私に降ってきたのは、公爵の拳でも鞭でもなかった。


 後ろからナリッサが、私を抱きかかえるようにして覆いかぶさってきたんだ。

「ナリッサ!」

 私は悲鳴を上げていた。「だめ、ナリッサ! 離れて!」

 けれどナリッサは力いっぱい私を抱きかかえて離さない。

「ナリッサ!」

 体を丸めるのと同時に筋力強化をした私は、どれだけ殴られようが蹴られようが鞭打たれようが痛くもかゆくもない。だけどナリッサは痛いどころの話じゃないのよ!


 でもだからって、筋力強化しちゃった私が力任せに振りほどいたら、ナリッサを傷つけてしまうかもしれない。

 もうどうしていいのかわからず泣きそうになっていた私に、お母さまの声が聞こえた。

「ルーディ、どうしたの? 何があったの?」

 どうしよう、お母さままで来ちゃった!


 パニックになりかけていた私の体が、ふっと軽くなった。

 ナリッサが、私を離したんだ。

「いったい何事なの? このかたはどなた?」

 再び聞こえたお母さまの声に、私はようやく顔を上げた。

 そして見上げた先では……片手を半ば上げた公爵さまが、茫然とした顔で固まっていた。


 その公爵さまと私たちの間に、お母さまが割り込んでくる。

 お母さまは私とナリッサをかばうように背を向け、公爵に向かい合った。

「わたくしの娘にどのような御用がございまして?」

 気丈に問いかけるお母さまの声が震えている。

 私は思わずお母さまの袖をつかんだ。

「大丈夫です、お母さま! わたくしの勘違いのようです!」


 だって、公爵閣下から不機嫌オーラが完全に消えちゃってる。

 なんだか本当に、ただただ茫然と立ち尽くしているんだもの。少なくともこの公爵閣下には、私に暴力をふるう意図はなかったらしい。


 公爵閣下はそこでようやくハッとしたように、半ば上げていた自分の手をぎこちなく口元へと動かした。

 そしてわざとらしい咳ばらいをして、気持ちを切り替えたように問いかけた。

「貴女が、クルゼライヒ伯爵家未亡人コーデリアどのか?」

「そうでございますが?」

 警戒心たっぷりに答えるお母さまに、公爵閣下は息をひとつこぼした。

「私はエクシュタインだ。姉のレオポルディーネより、私のことを聞き及んではおられぬだろうか?」


 お母さまが目を見張る。

「貴方が? エクシュタイン公爵さま?」

 公爵さまと私の顔を見比べるように、お母さまは慌ただしく視線を動かした。

 またひとつ咳ばらいをした公爵さまは、いくぶん脱力したように言った。

「どうやら、我々には何か誤解が生じているらしい。姉は貴女に助言を送ったと言っていたのだが」


 姉? 姉のレオポルディーネ?

 私はお母さまと公爵さまのやり取りに、ぽかんと口を開けてしまいそうになった。

 待って、公爵閣下の姉って……まさか王妃さま?

 いや、違うわ、王妃さまのお名前はベルゼルディーネさま。そうだ、この公爵さまには確か姉君が2人いて、上のお姉さまが王家に嫁がれ、下のお姉さまはガルシュタット公爵家に嫁いだって図書館の貴族名鑑に……。


「確かに、レオポルディーネさまから助言をいただきました」

 お母さまがすっと背筋を伸ばして答えた。

 私はまたぽかんと口を開けそうになってしまう。

 だって、つまり、それって……あのお手紙の人だよね? お母さまが言ってた学生時代からの本当のお友だちって、ガルシュタット公爵家夫人のレオポルディーネさまなの?



 貴族家には明確な序列がある。

 最高位はもちろん王家。そしてその直下に位置しているのが、公爵家だ。

 公爵家は四家のみと、このレクスガルゼ王国では法律で決まっている。そして、もし万が一王家の後継者に問題が生じた場合は、その四つの公爵家の中から後継を選ぶということも、同じように法律で決められている。


 いや、私も債権者であるエクシュタイン公爵について調べるため、学院図書館の貴族名鑑を読んで初めて知ったんだけどね。なんかこう、この国の公爵家って、江戸幕府における徳川御三家みたいな感じなのかしらって理解したんだけど。

 一方、お母さまの実家である地方男爵家というのは、爵位持ち貴族の中では最下位という位置づけだ。

 その地方男爵家出身のお母さまと、公爵家令嬢であるレオポルディーネさまが学生時代からのお友だち、それもお母さまの窮状を知ったとたんすぐに連絡を寄こしてくれるような本当に仲のいいお友だちだというのは、ちょっとではなくかなり驚きだ。



 公爵閣下は、なんだか脱力したまま、お母さまに問いかけた。

「姉は貴女にどのような助言を?」

 お母さまは背筋を伸ばしたまま答える。

「この機会に、わたくしたち母娘は、殿方に頼ることなく生きていく方法を考えるべきではないかと」

 その言葉に、額に手を当てた公爵さまががっくりとうなだれた。

「まったくレオ姉上は、なんという……」


 なんだかショックを受けているっぽい公爵閣下なんだけど、私は心の中で快哉を叫んでいた。

 だって『殿方に頼ることなく生きていく方法を考えるべき』だよ?

 ナニソレ、レオポルディーネさまってばカッコ良すぎる!


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