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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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324.元商業ギルド幹部の実力

本日も1話更新です。

「ゲルトルードお嬢さまからご依頼いただいておりました品々です。まずこちらが深さのある大型の鉄鍋、鍋肌はご依頼通りかなり厚めにしてあります。そしてこちらが金属製の網を取り付けた、鍋から具材を掬いとるための道具に……」

 エグムンドさんが順番に説明してくれる。

 ええもう、揚げ物に必要な道具がひとそろい!

 揚げ物用の大きくて深くてしかも厚みのある鉄のお鍋に網杓子、油切りを敷いた四角いバットにお鍋にひっかけておける天ぷら網、それにもちろん油こしのついたオイルポットに、油跳ね対策に天ぷらガードまでお願いしてあったんだよね。さらに加えて菜箸も!


 いやー、お願いしたのがあの大ピンチになっちゃった、秋試験を受けなきゃいけない問題が発覚したときだったんで、結構バタバタだったんだけど。でもエグムンドさん、私がお願いした通りの道具をずらっと用意してくれてるー!


 これは……! これはもしかして、明日からの連休の間に、揚げ物の試作ができるかも……!

 いきなり唐揚げはちょっとハードルが高そうだけど……フライドポテトやポテトチップスなら、油とお芋さえあればすぐ試作できる!


 期待に胸をふくらませまくっちゃってる私に、当然のごとくチェックが入りました。

「ゲルトルード嬢、これらは調理のための道具なのだな? いったいどのような調理に使用するつもりなのだ? また何か新しい料理を考えているのだろう?」

 はい、おしゃれ番長なだけでなく、食い意地はりまくり番長でもある公爵さまが、身を乗り出して訊いてこられました。


 ええもう、想定通りではあるんだけど、どうやって回避すればいいんだろう? 公爵さまが我が家の厨房に突撃してくるっていう事態をどうやって?

「公爵さま」

 私はめちゃくちゃ頑張ってめちゃくちゃ笑顔を貼り付けた。

「もし、何か新しいお料理を試作いたしましたら、また公爵邸にお持ちします」

「いやそれでは――」

 と、公爵さまが不服そうに口を開きかけたその瞬間に、私は思いっきり圧をかけた。

「そうすれば、マルレーネさんやトラヴィスさんにも、召し上がっていただけますから!」


「む……それは、確かに、そうなのだが……」

 ダメです公爵さま、そんな不服そうな顔をしちゃってもダメなものはダメ!

 と、私は笑顔で押し切ろうとしたんだけど、あらぬ方向からとんでもない突っ込みが来た。

「ゲルトルードお嬢さま」

 にこやか~に、エグムンドさんが言い出したんだ。

「これは私の想像なのですが……もしやゲルトルードお嬢さまの新しいお料理には、こちらのものが必要ではございませんでしょうか?」


 こちらのもの?

 って、ナニ?

 私が顔を向けた先で、クラウスがドンッと大きなツボを置いた。

 そんでもってエグムンドさんが、めちゃくちゃイイ笑顔で言ってきた。

「ひまわり油でございます」


 ひまわり油ーーーー!

 大量のひまわり油って、あの、カラッとさっくり天ぷらを揚げられるひまわり油!

 も、もしかしてエグムンドさん、私が揚げ物をしようとしてることが、わかっちゃったの?

 なんで、いったいなんでまた?

 てか、用意してもらったのが揚げ物のための道具だってわかったってことは……やっぱりこの世界にも揚げ物料理がある、ってことだよね? エグムンドさんはそれを知ってる?


「大陸の西ではひまわりがさかんに栽培され、ひまわり油が大量に生産されています。そしてその大量に生産されたひまわり油で作る料理、『揚げ物』を、ゲルトルードお嬢さまはお試しになるのではないかと思いまして」

 お、恐るべし、エグムンドさん……!

 そんでもってあるんだ、やっぱり、揚げ物がー!


 でもマルゴですら知らなかったのに、なんでエグムンドさんが知ってるんだろう? 大陸の西って……やっぱ商業ギルドの幹部だった人だから、異国の文化や産物に関する知識や情報が豊富だってこと?

 やっぱそういうことだよね、エグムンドさんってルイヒール……トゥーラン皇国にあの形のヒールがあるってことも知ってたくらいなんだし。


「『揚げ物』だと? どのような料理なのだ?」

 公爵さま、そんな興味津々な顔をされても困ります。

 なのに恐るべしなエグムンドさんが、ちゃんと説明してあげちゃうの。

「閣下、『揚げ物』と申しますのは、大量の油を熱して肉や魚、野菜などをその油で茹でるように調理する料理だそうです。私もそのような料理があると耳にしたことがあるだけで、実際に口にしたことはないのですが」


 だから公爵さま、そんな興味津々な顔で……って、エグムンドさんまでめっちゃ眼鏡キラーンな状態で私を見てくれちゃわなくても。

 うううう、これはもう私もなんか言わなくちゃダメだよね……?

「あの、わたくしも、その、書物でそのようなお料理があることを知りまして……」

 ごにょごにょと言っちゃった私に、公爵さまが身を乗り出して訊いてきちゃう。

「ではその『揚げ物』の料理を、きみは試してみるつもりなのだな、ゲルトルード嬢?」

「ええ、はい……その、本当に実際にやってみないと、どんなお料理になるか、わたくしにもまだよくわからないものですから……」


 やっぱりごにょごにょとしか私には言えなかったんだけど、公爵さまもエグムンドさんもなんかめちゃくちゃ期待しまくってくれちゃってませんか?

「ふむ、どのような具材を『揚げ物』にしてみるつもりなのだ? 肉や魚、野菜などと先ほどエグムンドが言っていたが」

「はい、さまざまな食材が油によって調理できると、私は耳にしております。特にひまわり油を使うと、大量の油による料理であってもべたべたした状態にはならないのだとか」


 ええもう、ひまわり油なら間違いなくカラッと美味しく揚げられますとも。私はとりあえず、ありあわせの油で試してみるつもりだったんだけどね。

 ホントになんなのエグムンドさんの、そのやたら詳細な知識は。

 それでそういう、期待のこもりまくった目で私を見ないで。

 って、イケメン兄弟やスヴェイまで、すっごく期待のこもった目を私に向けてきちゃってるじゃないのー!


「あの、本当に、実際に、調理してみないとわからないのです!」

 私はもう押し切るしかないと決めた。「だって大量の油ですよ? 魔石焜炉であれば直接火にかけるわけではないですから多少は安全ですが、考えてもみてください、お野菜やお肉を熱した油に入れれば、具材に含まれる水分が激しく跳ねてしまうのではないですか? 跳ねた油で火傷を負う恐れがありますよね? もし誤って熱した油をこぼしてしまったら、本当にたいへんなことになります。揚げ物は細心の注意が必要な、とても危険なお料理だと考えて間違いありません。我が家の料理人も揚げ物の経験はないと言っておりますし、試作してみてもすぐに上手く美味しいお料理が作れるかどうか、本当にわからないのです!」


「むむ、それは確かに……大量の油で調理するというのは危険かもしれぬが、それでもゲルトルード嬢、きみならば――」

「もし揚げ物の試作を行うのであれば、わたくしは母も妹も厨房から遠ざけます!」

 公爵さまがナニ言ってきても、押し切っちゃうからね!

「それくらい危険だと考えておりますし、本当に実際にやってみないとわからないのです! とにかく我が家の料理人と相談し、対策を立てた上でなければ試作は行いません!」


 ふんす! とばかりに、鼻息も荒く私はまくしたてた。

 そんでもって、こういうときはさくっと話題を変えるに限る!

 私はビシッと貼り付けた笑顔を、エグムンドさんに向けた。

「エグムンドさんは本当に異国のお料理や産物について詳しいのですね。先日はトゥーランヒールについても教えてもらいましたし。トゥーラン皇国といえば、わたくしは以前、かの国の少しめずらしいお茶をいただいたことがあるのですが、エグムンドさんはトゥーラン皇国のお茶についてご存じでしょうか?」


 そう、揚げ物といえば烏龍茶!

 あの惨敗お茶会で、デルヴァローゼ侯爵家ご令嬢のデズデモーナさまが出してくださったのが烏龍茶だったのよね。

 その烏龍茶を、デズデモーナさまがナゼか我が家にだけ売ってあげるって言い出されちゃって、私はその意味がまったくわからなかったんだけど。まさか烏龍茶をネタに、デルヴァローゼ侯爵家が我が家のあのゲス野郎に呼び出しをかけていたとは、なんだけどねえ。

 ええ、でももういまはソレについてはいいの。重要なのは烏龍茶。デズデモーナさまは間違いなく、トゥーラン皇国から取り寄せてるって言ってたわ。


「あ、ええ、はい」

 めずらしくエグムンドさんが目をぱちくりしてる。

 それでもさすが元王都商業ギルド幹部、ちゃんと知ってたようです。

「トゥーラン茶でございますね? 紅茶とは少々味わいが違うお茶ですが、我が国にもいくらかは輸入されておりますので」


「では、我が商会でもトゥーラン茶を扱うことは可能でしょうか?」

 私の問いかけにも、エグムンドさんは冷静に答えてくれる。

「ゲルトルードお嬢さまがお望みでございましたら、すぐにお取り寄せいたします。ただし、商会で販売できるほどの数をそろえられるかどうかは、現時点では明言は致しかねます」

「それで構いませんから、まずはトゥーラン茶を取り寄せてもらえますか?」

「では早急に手配いたします」


 よっしゃー!

 烏龍茶ゲットだ! 揚げ物っていったらもう烏龍茶よね!

 いやもう、唐揚げだけじゃないわ、ポテチだってフライドポテトだってコロッケだって、烏龍茶を飲みながらであれば口がさっぱりした状態でもりもり食べられちゃうよ。

 あと、餃子! 餃子も試作しよう。あああああ、揚げ餃子も食べたくなってきちゃった。

 そうだよ、精霊ちゃんのハンドブレンダーが完成すれば、我が家でも手軽に挽き肉が作れちゃうはずだし、餃子だって作り放題!

 ホントになんとか公爵さまの厨房突撃をかわして、揚げ物の試作をせねば!


もうすぐ総合評価ポイントが150,000を超えます!

みなさま本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
早くフィーにフリフリのエプロンつけさせてお料理させてあげたい
[一言] そもそも紅茶自体が、中国から西洋に流通する間に発酵がすすんでしまった結果できたものだしな。むしろ重要なのは、輸送技術。
[一言] 公爵様の食い意地に関しては、今まで公爵様自身が置かれていた状況を考えれば仕方が無いんじゃないかな? 警戒する必要も無く安心して食べられる料理や菓子なうえに「美味しい」んだもの、暴走しかけて…
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