320.頑張ってるみなさんは応援します
昨夜更新できなかったぶんを1話更新です。
今夜か明日にでもまた更新できるよう頑張ります( *˙ω˙*)و グッ!
その通りだったようで、アルトゥース先輩が毎度のごとく一言添えてくれちゃった。
「宮廷伯家っていうのは国ではなく、王家に仕えている貴族家だからね。ゲゼルゴッド宮廷伯家のご嫡男はもちろん、キッテンバウム宮廷伯家の嫡男であるこのペテルヴァンスも、ほぼ官吏としての道が確定してるようなものさ」
なるほど、と私がうなずいたところで、当のペッテ先輩が驚くべきことを言い出した。
「いや、確定してるわけじゃないよ。宮廷伯家は世襲じゃないから」
「へっ?」
私はまたもや思いっきり間抜けな声を漏らしちゃった。
だって……世襲じゃない?
ええと、あの、ペッテ先輩が嫡男なら、キッテンバウム宮廷伯家の跡継ぎじゃないの?
私のその反応に、その場の誰もが気が付いたらしい。私が『知らない』ということに。
だからペッテ先輩が説明してくれた。
「ゲルトルード嬢、宮廷伯家の跡継ぎは、評議会で認められないと正式に爵位を継げないのです」
マジっすか? 自動アップデートじゃないの?
「けれど、もうずっと評議会で認められなかった嫡男はいないだろう」
アルトゥース先輩がすかさず突っ込んでくる。「体裁としてはほかの中央貴族のように自動的に嫡男が跡を継ぐわけではないけれど、実質的には嫡男であるペッテが跡継ぎだ」
「いや、でも……嫡男が跡継ぎにふさわしくないと宮廷伯当家が判断して、自主的に廃嫡することもあるからね。そもそも認めてもらえないような跡継ぎは、最初から評議にかけないから」
「きみは優秀なのだから、廃嫡されるようなことはないだろうが」
「いやあ、どうだろうねえ」
ペッテ先輩は苦笑しながら頭を掻いてるけど……なんかこれもまた、私にとっては結構衝撃の事実だったかも。宮廷伯家って、そんなにいろいろ、ほかの中央貴族家と違いがあるんだ……単に領地がないっていうだけの話じゃなかったのね。
だから私は思わず、言ってしまった。
「でも、それはつまり……ペテルヴァンスさまは幼いころからずっと、ご自分が跡継ぎとして周囲の方がたから認めていただけるのかと、そういう圧力を感じていらっしゃるわけですよね。それはとても大変なことだと思います」
だってそんなの、めっちゃプレッシャーでしょ。評議会っていうほかの領主たちの胸ひとつで、家を継げるかどうか決められちゃうって。ヘタなことはできない、周りから認めてもらえるよう優秀でいなきゃいけない、って……絶対そういうこと感じちゃうと思う。
でもそういう状況でペッテ先輩は、こういう算術エリートクラスに在籍してすでに先生の助手的ポジションにいるわけだもんね。めっちゃ優秀だよ。
いやもう、努力なんかこれっぽっちもしてなくても自分は特等席に座るのが当然なんだとばかりにふんぞり返ってる上位貴族家のご嫡男たちには、ペッテ先輩の爪の垢を煎じて飲んでほしいわ。
で、当のペッテ先輩はなんか目を丸くしてる。
「いや、まあ……確かにそういうことは、感じないわけではないですけどね」
そう言ってペッテ先輩は笑う。「特に我が家は、私が言うのもなんですが、上の姉のトルデリーゼが本当に優秀で……周りの方がたからはよく、トルデリーゼが男性であればよかったのに、と言われていますし」
えー……それって最悪。
トルデリーゼお姉さまにはどれだけ優秀でも女だからダメだって門前払いしてて、ペッテ先輩には男のくせに情けないって言ってる、そういう意味じゃんね。
ペッテ先輩は笑ってるけど、そういうの本当によくないと思う。
いや、私がどれだけよくないって思っても、実際問題として男性しか爵位を名乗れないルールになっちゃってるからさ、この国は……仕方のないことだと言えばそうなのかもしれないけど。
それでもさすがに、ペッテ先輩ご本人にとってもあまりいい話題ではなかったようで、するっと話をもとに戻してくれた。
「それでその、男性の官吏もこの表の勉強会に参加してもらえないか、という話なんだけど」
「難しいか?」
即座にアルトゥース先輩が反応してくれちゃって、ペッテ先輩が苦笑する。
「うん……やはり、男性官吏の場合、その、学院の1年生で、しかもご令嬢に教えを乞うというのは……望まない人がほとんどだと思う」
それかー。
官吏っていうか男性文官もまた、この国のトップレベル人材さんたちだろうからね、そりゃ私みたいな小娘に教えを乞うっていうのは、プライドがじゃましちゃうわけだ。
だからトルデリーゼお姉さまも敢えて、女官の希望者っていうことでファーレンドルフ先生に申し出てこられたのか。
私が納得しちゃった横で、ガン君もハッとばかりに声を上げちゃった。
「そういうことですか。だから女性の、女官のかたからしか、この表を学びたいという声が上がらなかったというわけですか」
「いや、この表の有用性が理解できれば、ぜひ学びたいと望まれる男性官吏もいらっしゃると思うよ」
ペッテ先輩は穏やかに言う。「だからまず、最初に興味を覚えられたほんの数人でも勉強会に参加していただければ……そういう意味では、ゲルトルード嬢が少人数の勉強会方式を提案してくれたことも、ドラガン君が男性官吏の参加を促すことを言い出してくれたことも、私はとてもありがたいと思う」
「それではやはり、何がなんでもゲゼルゴッド秘書官どのには勉強会に参加していただかなければだな。国王陛下の個人秘書官どのが参加されたとあれば、ほかの男性官吏も参加を検討されるのではないか?」
すかさず言っちゃったアルトゥース先輩の言葉に、ペッテ先輩もうなずいてる。
「俺もそう思うよ、アル。だからレイ兄上には近日中にお時間をいただいて、この表の有用性について話をさせていただこうと思う」
「そうしてくれ。頼んだぞ、ペッテ」
アルトゥース先輩がちょっとホッとしたように言った。「俺みたいな三男坊は武官か文官になる以外に身を立てる方法がないからな。俺はどうあがいても武官は無理だし、現役の、それも陛下の個人秘書官どのと直接言葉を交わせる機会がもらえるのならば、これほどありがたいことはない」
なるほど、アルトゥース先輩はアルトゥース先輩で、いろいろと考えているわけね。確かに、文官になるつもりなのであれば学生のときから現役文官の、それもかなり地位の高い人と面識を得られる、直接自分をアピールできるってかなり大きいもんね。
家督を継げない男子っていうのも、いろいろたいへんなんだな。でもそのぶん、いろいろと努力してるのなら、とっても好ましいと思う。
で、同じく嫡男ではないエルンスト先輩も、横で聞いていらしたようで言ってこられちゃった。
「私からもお願いいたします、ペテルヴァンスどの。本当に、学院在籍中に陛下の個人秘書官どのと直接お話しできる機会が得られるというのは、通常ならあり得ないほどの幸運ですから」
そんでもってエルンスト先輩は、私にも思いっきり笑顔を向けてくれちゃった。
「もしそのような機会が実現すれば、これまたゲルトルード嬢のおかげですね。本当に貴女には感謝に堪えません」
う、うん、とりあえず実現するかどうかもまだわかんないし、ということで、私はちょっとひきつった笑顔であいまいにうなずいておきましたわ。
でも、もしホントにアルトゥース先輩やエルンスト先輩の就活に、ちょっとでもお役に立てるのだとしたら、私としてもとっても嬉しいな。
教室を出て私を個室棟へ送ってくれる間も、テアはとっても上機嫌だった。
「本当にルーディとお友だちになれてから、毎日楽しいことばかりだわ」
いやーもう、私もそうだと言いたいんだけど、やっぱちょっとビミョー。もちろんテアとガン君のおかげで楽しいんだけど、とにかくあのゲス野郎のやらかしが次々と判明しちゃって。
でもってガン君は、歩きながらずっと九九の表とにらめっこしてる。
ガン君や、歩きスマホ、じゃなくて歩き九九暗記は危ないから止めたほうがいいですよ。
「ルーディは、明日からのお休み、何か予定はあるの?」
テアの問いかけに、私はちょっと苦笑しちゃった。
「お休みの間は、家でゆっくりするつもりなの。このところずっと、バタバタとして忙しかったものだから……」
「そうなのね……」
テアちゃんってば、そんなちょっぴりしょんぼりした顔してくれちゃって、もしかして私と一緒にどこかへ遊びに行きたいとか、そういうこと考えてた?
いや、でも、お友だちと休日にどこかへ遊びに行く!
なんか考えただけで、テンションが上がっちゃわない? この、ずっとぼっちだった私が!
ええもう、できるだけ早く隣接領地のお茶会をクリアして、テアとガン君を我が家にお招きしたい。お2人にはもうたーっぷりと、美味しいおやつをごちそうしまくってあげちゃうから!
それに、お母さまとリーナにも紹介したい! 私のお友だちです、って!
なんて思っちゃった私の横から、ガン君がぼそっと言ってきた。
「そりゃそうだろ。父君が急逝されて、ルーディ嬢はいきなり伯爵家のご当主になったんだ。いくら女子は正式には家督を継げないとはいっても、やらなきゃいけないことは山積みだよ。しかも、領主教育をまったく受けてないって話だし……それを立派にこなしてるんだから、ルーディ嬢は本当に偉いよ」
ガン君……!
ありがとう、ホンットになんていい子なの、ガン君ってば。
「そうね、確かにその通りよね……」
テアちゃんも納得してくれちゃってます。
そうなの、ホンットに怒涛の日々だったのよ。てか、いまも結構怒涛の最中なの。その中でようやく、本当にようやくゲットした休日なのよ。ここはもう、美味しいおやつでお母さまとリーナと一緒にまったり和みたいのよー。
そのために、マルゴとキャラメル作りをすることにしてるし!
一緒に楽しくお出かけという休日案にも思いっきり心惹かれながら、私たちは『じゃあまた、連休明けにね』と言いあって、今日も個室棟の前でお別れしたのでした。





