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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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311.意外な一面

本日2話目の更新です。

「あ、そうだ、ルーディちゃんにお礼を言わなきゃ」

 なんだかぐったり疲労感が漂っちゃった空気を換えるように、アーティバルトさんが明るい声で言い出した。

 そしてアーティバルトさんは、公爵さまの収納魔道具を取り出す。

「まさか、余分をいただけるとは思ってなかった。本当にありがとうございます」

 そう言って彼が取り出したのは……ええ、マルゴが多めに渡してあげたハンバーガーです。


「そうだわ、陛下も王太子殿下も本当に喜ばれて」

 公爵さまも言い出した。「お2人とも、その場で1個ずつ召し上がってしまったほどよ」

 お、おおう、陛下も王太子殿下も、そんなに喜んでいただけたのであればよかったです。でも後で、誰がいくつ食べるかの問題が生じなかったのかちょっと心配。


「なんだかんだ言っても、ルーディちゃんはちゃんと数を用意してくれるのよね」

 なんて公爵さまとアーティバルトさんが顔を見合わせてにこにこしてるけど、コレってほぼトラヴィスさんとマルレーネさんにあげるぶんですからね?

 って、そのトラヴィスさんとマルレーネさんは、余分があったなんてまったく聞いてなかったっぽい。お2人ともすごいびっくりした顔で、蜜蝋布に包まれたハンバーガー5個を見てる。


「あの、こちらは……その、噂の『はんばーがー』でございますか?」

「そうよ、ルーディちゃんが王家にお渡しするぶんのほかに、これだけ渡してくれたの」

 トラヴィスさんの問いかけに、公爵さまがどや顔で答えてくれちゃってます。

 マルレーネさんは、ちょっとおずおずという感じで私に訊いてくれました。

「よろしいのですか? その、わたくしたちもいただいてしまって……」

「もちろんです」

 私は笑顔で答える。「公爵さまとアーティバルトさんにはすでに召し上がっていただいていますが、マルレーネさんもトラヴィスさんもまだでしたので」


「まあ、ありがとうございます!」

 マルレーネさん、大喜びです。なんかトラヴィスさんも、ウキウキしちゃってるし。

「5個もいただけるのですか。それでは、テッドにも1個渡してやりますかな」

「それがいいですわ。昨日の『ぱうんどけーき』も、テッドに食べさせてやったら本当に驚いていましたもの」

 テッドさんって、公爵さまの料理人さんだよね?


「そうね、テッドにもしっかり本物の味を覚えてもらわないといけないわね」

 公爵さまが思案してる。「テッドには『新年の夜会』までに、しっかり美味しくルーディちゃんのレシピを再現してもらえるようにならないと」

 とりあえず5個、余分にお渡ししたのは正解だったらしいです。


「じゃあこれは、夕食にいただくことにして……」

 アーティバルトさんがいそいそと、時を止められる収納魔道具にハンバーガーを戻してます。そうだよね、時が止められちゃうんだもん、そこに収納しておけばずっとできたて状態のまま、ハンバーガーをキープしておけるんだよね。

 うーん、ヒューバルトさん、本当に我が家の収納魔道具を取り返してきてくれるのかなあ?


「それから……あの計算の表よね」

 公爵さまが言ってきた。「本日、ルーディちゃんご推薦のファーレンドルフ先生に、直接お渡ししてきたわ。ファーレンドルフ先生は興味津々だったわよ」

 おっ、やっぱり本日先生がお呼び出しを受けてらしたのって、ソレでしたか。

 でもって公爵さまが直接、九九の表をファーレンドルフ先生に渡してあげちゃったのか。

「それに、あの表を全校でいっせいに使用しない……使用できないことについても、ファーレンドルフ先生はすぐに理解されて。陛下も、あの先生であれば、あの表を上手く活用してくれるに違いないとおっしゃってくださったわ」


 って、あの、もしかして……?

「あの……公爵さまから直接、あの表をファーレンドルフ先生にお渡ししてくださっただけじゃなく、もしかして陛下も、その場に立ち会われていらっしゃった、とか……?」

「ええ、そうよ」

 うわあああ、大丈夫でしたか、ファーレンドルフ先生!

 いきなり呼び出しくらったと思ったら、その相手が国王陛下って、めちゃくちゃビビらない?


 だけど公爵さまは、なんかにんまりと笑っちゃってる。

「わたくしは知らなかったのだけれど……あのファーレンドルフ先生って一部では有名なかたらしいわよ」

「そ、そうなのですか?」

 一部では有名って……あっ、もしかして絶対買収されない先生として、とか?

 と、私は思っちゃったんだけど、公爵さまのお話ははるか斜め上でした。


「カルヴァン・ファーレンドルフ……あの先生は、とある侯爵家のご出身でね」

「は?」

「ご次男でいらっしゃるそうだけど、侯爵家の男子が学院の教師になるというのは、本当にめずらしいことだから……それも、ご実家の援助はいっさい断って、ほかの教師と同じく学院の職員寮で暮らしていらっしゃるのだとか」

 な、なんか、意外過ぎる。

 でも侯爵家のご出身なら、陛下ともすでに面識があった可能性が高いよね? そこまでビビるほどじゃなかったとか? うーん、実はすごい人だったんだな、ファーレンドルフ先生……。


 そして公爵さまは、ちょっと苦笑しながら言った。

「そのようなかたなのだから、ご本人としては不本意かもしれないけれど、それでもルーディちゃんも参加している算術選抜クラスを創設したりなど、ファーレンドルフ先生だからできた部分もかなりあるらしいわよ」


 あー……そうか、そうだよね……確かにご本人は不本意かもしれないけど……バックに侯爵家がついてると周りが勝手に判断してくれちゃうと、ねえ。

 それに、成績に関して絶対買収されないっていうのも……それだけ強気でいても、上位貴族家から圧力をかけられて学院をクビになったりせずに教師を続けていられるのは、その辺の影響があるんだろうなあ。たとえ、ご本人はどれだけ不本意であっても。

 やっぱえぐいな、貴族間の階級差とか力関係って。


 で、私はそこで思い出した。

「公爵さま、わたくし本日、その算術選抜クラスに初めて出席したのですけれど……」

 そうなのよ、あのDV確実クズ野郎の余罪をゲットした話をしておかなければ。

 私はあのエルンスト先輩の話をした。エルンスト先輩のハインヴェルン領で、あのDV確実クズ野郎がとんでもない無体を働いていたらしい、っていう話を。


 はい、公爵さま以下、みなさんまたもや頭を抱えてしまわれました。

「そうね、わたくしも多少噂を小耳にはさんだことはあったのだけれど……そこまでひどいことをしていたとは。侯爵家の報復を恐れて、どこのご領地も詳しい被害を言い出せなかったのね……」

「エルンストさまはすぐに、ご領地に連絡してご領主からの陳情書を手配すると言われました。その陳情書が届き次第、わたくしに託してくださることになっていますので」

「ええ、ありがとう、ルーディちゃん」

 公爵さまのため息が重い。「陛下にもすぐにお伝えするわ。本当にそのお話を聞く限り、あの屑息子はほかのご領地でもそうとうなことをしてきていそうですものね」

「はい、これに関して余罪はいくらでも出てくるのではないかと、わたくしも感じました」


「しかし、国軍による正規の派遣で、そのような無理無体がまかり通っているのだとしたら、本当に大問題ですよ」

 アーティバルトさんもげんなりした顔で言い出した。

「まったくですな。これは陛下から軍部に対し詳しい調査をお命じいただく必要がありそうです」

 トラヴィスさんもそう言って、公爵さまとうなずきあってる。

 その公爵さまも、眉間にしわを寄せて言うんだ。

「討伐に関してそのような状況になっているのであれば、地方の領地が国軍への討伐依頼をためらうようになってしまうわ。そうなれば、我が国内でますます魔物が増えてしまって、国土が荒れてしまうということすらもわからないのよね、そういう連中は」


 本当にそうだわ。

 エルンスト先輩のハインヴェルン領は、また魔物が出ても討伐依頼を出すことをものすごくためらわれたと思う。でも自前で討伐できないのであれば、討伐依頼を出さない限りずっと魔物が出て領民が困るという状況が続くことになる。

 そうすれば、領地の経営だってすぐに立ち行かなくなっちゃう。

 ご領主だってそんなことくらい当然わかっているでしょうに、それでも討伐部隊を呼んで冬を越せなくなりそうなほど領内を荒らされるのとどっちを選ぶのかって……ほとんど究極の選択じゃないの。


「本当に、すべての討伐部隊が公爵さまほど完ぺきではなくても、最低限の仕事はしていただきたいですよね」

 思わず、私はそう言っちゃったんだけど。

 公爵さまが、目を見開いて固まっちゃってる。

 アーティバルトさんがにんまりと笑って言ってきた。

「あれ? ルーディちゃん、もしかしてフィーの討伐のようすとか、誰かに聞いたの?」


「はい、その算術選抜クラスにはトードマウアー子爵家嫡男のバルナバスさまもいらっしゃって、討伐に来てくださったエクシュタイン公爵閣下に、いまも領地を挙げて感謝しているというお話をうかがいました。わたくしに、公爵閣下にお会いになる機会があれば、ぜひお礼を伝えてほしいともおっしゃっておられて」

 おっと、公爵さまが挙動不審です。なんか視線を泳がせながら、そわそわしちゃってます。

 なんだろうな、これ。公爵さまってもしかして、褒められ慣れてない?


「ああ、トードマウアー領ね、覚えてるよ」

 アーティバルトさんがにやにやしちゃってる。「大型の魔物で少々てこずったんだけれど、しっかりフィーが討伐して……そうか、そんなに感謝してもらってるのか」

「はい、考え得る最短の時間で討伐していただけたと、バルナバスさまはおっしゃっていました。それに公爵さまは、ご領主に対して食料も宿泊も何ひとつお求めにならず、それどころか討伐後はご領地内にお金を落としていってくださったと、それはもう本当に感謝されていました」


 おお、公爵さまがますます挙動不審です。

 本当に褒められ慣れてないのね、公爵さまってば。


ただいま4巻の書き下ろしSSを書いております。

本編に関してはおそらく2本のSSをお届けできると思います。2本とも我ながらなかなかいい出来になったのではないかと( *˙ω˙*)و グッ!←自画自賛

4巻の発売については、詳細が決まり次第お知らせしますね!

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― 新着の感想 ―
褒められ慣れてなくてそわそわ挙動不審になっちゃうフィーさんかわいいね…… 公爵さま(外面)の時なら眉間にギュッと皺を寄せて顔に出すのを堪えてるんだろうな……
[一言] 楽しみです。 ピッコマで1日1話無料などで読んでましたが、結局続きが気になってあがっているのを全部課金して読んで、まだ出版されていない分を読みに「なろう」に来たら、最初から読み直してしまいま…
[一言] 収納魔道具の問題かぁ・・・ 中のブツが問題なんだろうなぁ、例えば脱税の為の裏帳簿とか・・・
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