309.頼むから勘弁してほしい
本日1話更新です。
諸般の事情で今週はこの1話だけの更新になりそうです<(_ _)>
本日も、下校してまず向かうのは公爵邸です。
またもや私に、大至急公爵さまに相談案件ができちゃったからなんだけど、なんかそれだけじゃないっぽい。だってスヴェイが言ってきたの。
「ゲルトルードお嬢さま、公爵さまからご連絡がありました。本日もお帰りのさいに公爵邸にお寄りいただきたいとのことです。何か公爵さまからご相談されたいことがおありだそうです」
ええもう、どんなご相談なのかわかんないけど、イヤな予感しかいたしませんとも。
ごめんなさいお母さま、私は今日も帰りが遅くなりそうです。
公爵邸に到着すると、トラヴィスさんとマルレーネさんが迎えてくれた。
「本日もお越しいただくことになってしまいまして、本当に申し訳ございません」
「いえ、あの、実はわたくしもまた、至急公爵さまにご相談させていただきたいことができましたので……」
私の言葉に、トラヴィスさんもマルレーネさんも眉を上げちゃってる。
そりゃそうですよねー、昨日も一昨日もご相談させていただきに来たんだもの。
今日も私は公爵さまの居間に通されることになったんだけど……私はスヴェイに言った。
「スヴェイ、申し訳ないけれど、当面貴方には公爵さまの居間へ通していただくことを遠慮してもらいます」
一瞬だけ眉を上げたスヴェイが、にこやかに腰を折った。
「承知いたしました、ゲルトルードお嬢さま。それでは私は、本日もゲルトルードお嬢さまのお帰りが遅くなりそうだと、伯爵邸へお伝えしてまいります」
「ええ、ありがとう。お願いしますね」
トラヴィスさんに案内されて、私は公爵さまの居間へ向かうべく階段を上がる。
うん、トラヴィスさんもマルレーネさんもホッとしてるのがなんとなくわかるよ。
スヴェイのことを信用してないわけじゃない、でもできるだけこの秘密が漏れてしまうことを避けるためには、必要なことだものね。
「若さま、ゲルトルードお嬢さまがご到着にございます」
トラヴィスさんが声をかけ、もうすっかりおなじみになってしまった公爵さまの居間へ入ると、公爵さまとアーティバルトさんが顔を突き合わせて何か話し合っていた。
「ああ、呼び立ててしまって申し訳ないわね、ルーディちゃん」
今日も安定のおネェさんモードの公爵さまです。
勧められたソファーに腰を下ろして、私も切り出した。
「公爵さま、実はわたくしもまた、至急公爵さまにご相談させていただきたいことができてしまいまして……」
うっ、という感じで一瞬固まっちゃった公爵さまが、軽く片手で頭を抱えちゃった。
「ではどうしましょう、ルーディちゃんの用件から話す? それとも、わたくしのほうから先に話しましょうか?」
「では、公爵さまからお話しくださいますか?」
ええもう、悪い予感しかしないけど、それでもあのゲス野郎の尻拭い魔物討伐の話よりはマシじゃないかと思うよ。
なんて、思った私が甘かった。
公爵さまがしばしためらい、それでも言い出してくれた内容に、私はまた仰天し崩れ落ちそうになっちゃったんだから。
「あのね、ルーディちゃん……その、貴女の固有魔力なのだけれど」
「はい」
「貴女の固有魔力について、国に登録がなかったのよ」
「は、い?」
国に登録がない?
私の固有魔力が?
ええっと、私は自分では【筋力強化】だと思ってたのに、どうやら違うらしいって、精霊ちゃんが判定してくれたんだけど……登録がない?
意味がわからなくてきょとんとしちゃった私に、今度はアーティバルトさんが言ってくれる。
「昨日、ルーディちゃんの固有魔力をヴィールバルトに見せてもらったわけなんだけれど……それでヴィールバルトが念のため、ルーディちゃんの固有魔力の申告内容を確認しようと思ったらしくて。その、ヴィールバルトは職務上、すべての貴族の固有魔力の詳細について閲覧する権限を持っているので……」
うん、そりゃまあ、魔法省魔道具部の職員であるだけでなく、人の固有魔力を魔法陣の状態で視ることができる精霊ちゃんだもん、そのくらいの権限はあるでしょう。
うなずいた私に、公爵さまが言う。
「それでね、ヴィーが調べたところ……ルーディちゃんの固有魔力については何も申告されていないことがわかったの」
公爵さまとアーティバルトさんが顔を見合わせる。
「ルーディちゃんが魔力を発現し、同時に固有魔力を顕現させた状況については、先日貴女から直接説明してもらったわけだけれど……その後、ルーディちゃんの固有魔力について、どなたも国への申告をされていない、ということのようなのよね」
どなたも国への申告をされていない……されていない、って……。
「あーっ!」
思わず、私は声を上げちゃったわよ。
そうだよ、あのゲス野郎があんなに嫌ってた私の固有魔力を、わざわざきちんと国へ申告なんかするわけがない!
お母さまにはもちろん、私の魔力発現と固有魔力については話したけど、自由に手紙を出すことすらできなかったお母さまに、国への申告なんかできるわけがない。ヨーゼフに頼もうにも、当時はすでにヨーゼフも下働きに落とされてたはずだし。
さらに、私が魔力を発現し固有魔力を顕現させたときって、すでにベアトリスお祖母さまはお亡くなりになってたから……誰も、誰1人として、私の固有魔力を国に申告する、申告できる人がいなかったんだー!
なんてこった!
いや、ちょっと考えればわかることだわ、あのゲス野郎が私のことで自分の手を煩わせるなんて絶対にあるはずがないんだもん。
ホンットに、本当に、どこまでもやらかしまくってくれちゃってるよ、あのゲス野郎は。
頼む、お願いだからもう本気で勘弁してほしい。
なんかもう私、あまりのことにその場にがっくりと崩れ落ちそうになっちゃったわよ。
そんな私に公爵さまは、気遣うように言ってくれた。
「ルーディちゃん、国への申告自体はいまからでも大丈夫よ。事情を説明する書類も、わたくしが作成して添えればいいのだし。ただ、ね……」
そこでちょっと公爵さまはためらった。
ためらって、公爵さまはアーティバルトさんと顔を見合わせ、それから言った。
「ただ、やはり一度、貴女の固有魔力について、貴女は自分のお母さまと話し合ったほうがいいのではないかと思うのよ」
あー……うん、そうですよねえ……。
私はずっと【筋力強化】だと思ってたけど、お母さまにもそう言ってあったけど、どうやら違うらしいってわかっちゃったことだし。
お母さまの親族で、私と同じような身体系の強化魔力を持っていた人はいなかったのか、お母さまが何かご存じないのか、やっぱり一度ちゃんと話してみないとダメですよねえ……。
「どうする、ルーディちゃん?」
公爵さまはやっぱり気遣うように言ってくれる。
「貴女の固有魔力が顕現したときの状況については、詳しく話す必要はないと思うの。それでも貴女の固有魔力が【筋力強化】ではなかったらしいということなど、そういう説明が必要だと思うので、よければわたくしも立ち会うわよ?」
「そうですね……」
私は大きく息を吐きだしちゃった。「一度、母と話してみます。もし必要があれば、公爵さまにもお立合いをお願いするかもしれません。そのときはよろしくお願いいたします」
「ええ、そうしてちょうだい。必要であれば、いつでも言ってもらっていいですからね」
「ありがとうございます」
そして、私の固有魔力について、精霊ちゃんの見解をアーティバルトさんが教えてくれた。
「弟によると、ルーディちゃんの固有魔力は、おそらく【全身防御】だろうということです。弟も初めて見る魔法陣だったのでどう判別していいか迷ってるようなのですが、おそらく自身の体を補強しあらゆる攻撃から身を守ることができる魔力で、身を守るために全身の筋肉を強化することから結果的に膂力も強くなる、いわばそちらは副産物ではないかと」
えええええ、あの火事場の馬鹿力って副産物なの? アレがメインじゃなくて?
つまり、どんだけ叩かれても蹴られても痛くも痒くもない、身を守るほうがメインなの?
いや、不本意ながらいままでずいぶん役に立ってくれた固有魔力ではあるんだけど。
「ヴィールバルトが言うには、自身を守るための魔力であると同時に、筋肉を強化することで攻撃にも使える魔力であるわけですから、防御と攻撃の両面を併せ持つ非常にめずらしい固有魔力であることは間違いないとのことです」
アーティバルトさんがさらに言ってくれたんだけど……そんな、エースで四番の二刀流みたいなことを言われちゃっても。
それに、攻撃にも使えるとか言われても……どうやって攻撃するの? 単なる馬鹿力だよ?
そりゃ単純に殴り飛ばすだけでも結構な威力はありそうだけど……私は武術とか体術とかなんにもできないし、なんかでっかい岩でも投げつけるとか?
そう思って、私はハッとしちゃった。
も、もしかしてコレって……私が自分で魔物を討伐しなきゃいけない、なんてフラグが……?
いや、ない! ないよね? お願いだから勘弁してー!





