300.お母さまにご報告
本日2話目の更新です。
連休中は少しずつでも更新していけるよう頑張りますね( *˙ω˙*)و グッ!
それから私は、スヴェイが我が家に入ることを厨房のみんなに伝えることにした。
厨房にはマルゴのほかに、モリスもロッタも残ってくれていたし、もちろんカールもいる。ヨーゼフとナリッサ、それにヨアンナもいる。
これまでスヴェイは公爵家から派遣してもらっている状態だったけれど、本人の希望で正式に我が家の、というか私の従者になること、ただ当面はいまと同じ通いでの勤務とし、いずれ我が家に住み込みになることなどを、私は一通り説明した。
「さようでございますか」
マルゴがうなずいて、ほかのみんなもうなずいてる。
なんというか、みんなもうそうなるって思ってたんだよね? って感じの反応だわ。
案の定、ヨアンナも安心した顔で言ってくれる。
「スヴェイさんでしたら、トマスのことも疎んだりされておられませんし」
「私やハンスにも、気軽に声をかけてくださっていますから」
カールも、なんの不安もありませんとばかりに言ってくれた。
ホントになんの問題もなくスヴェイは我が家になじんでくれる、いやすでになじんでくれちゃってるようです。
このさいなので、私はついでに説明することにした。
「それに今後、領地から何人か使用人を呼び寄せる予定です。侍女を増やす必要がありますし、新居に移ってからは護衛も必要になります。御者も現在は公爵家から派遣していただいている状態ですから、そちらも必要になりますね」
私の言葉に、みんなうなずいてくれる。
「もう少ししたら、領主館の家令がわたくしを訪ねてきます。家令と相談してどの程度人を呼ぶのかを決めます。これから我が家も人がどんどん増えていくので、みんなもそのつもりでいてね」
「かしこまりました、ゲルトルードお嬢さま」
とりあえず、みんなに話しておく必要があるのはこれくらいかな。
食事を終えて、私はもうベッドにダイブしたい気分ではあったんだけど、お母さまにはまだ話がある。
居間にお茶を運んでもらい、私はお母さまと一緒に腰を下ろした。
「お母さま、わたくし、お友だちができました!」
そうよ、これをちゃんと報告しないと!
お母さまは大喜びしてくれた。
「まあ、お友だちができたの? どんなかたかしら? どういうきっかけで、お友だちになったのかしら? どうしましょう、ルーディにお友だちだなんて、本当に嬉しいわ!」
私は、今日学院であったことをざっと説明した。
お母さまはさらに喜んでくれちゃった。
「おとなり領地のご令嬢とご子息ですって? それならば、隣接領地のお茶会にご招待できるじゃない! それにお2人とも、とっても優秀でいらっしゃるのね!」
「そうなのです。それになにより、ドロテアさまもドラガンさまも、本当にさっぱりとしたご気性で、なんでも気兼ねなくお話しできそうなのです」
「それは本当によかったわ。これからはルーディも、学院で楽しくすごすことができそうね」
「はい、授業も一緒に受けてもらえますし」
そんでもって、なんで私が今日も公爵さまのところへ寄ってきたのか、いったいナニについて相談してきたのかをお母さまに説明した。
その内容に、お母さまもちょっと青ざめちゃったよ。
「では、ベアトリスお義母さまがお亡くなりになってから、おとなりのヴェルツェ領とのお取引が完全に止まってしまっていた、ということなの?」
「そのようです」
「それは、なんと申し訳ないことを……」
ああ、ちょっとマズったかもしれない、お母さまがまた自分を責めてしまわれるかも。
私は慌てて話を続ける。
「ドラガンさまもドロテアさまも、我が家の事情を汲んでくださっているようで、このお話をしていただいたときも、跡継ぎであるわたくしのことを責めるようなことは、一言もおっしゃいませんでした。わたくしとしては、早急にヴェルツェ領とのお取引を再開したいと思い、急ぎ公爵さまにご相談したく、本日も公爵邸に寄せていただいたのです」
お母さまが自分を責めるようなことを考えてしまわないよう、私はどんどん話を続けていく。
「公爵さまは、領主館の家令であれば、ベアトリスお祖母さまが行われていたお取引を承知しているだろうと教えてくださいました。ちょうど家令から手紙も来ていて……現在、この秋の収支計算などをしているそうで、それがまとまり次第わたくしに会いに王都へ来ると言っています。ですからそのさいに、当時の記録や参考になる資料を持ってくるよう、わたくしも手紙を書いて公爵さまのお手紙に同封していただきました」
「そう……そうなのね……では、その家令が来れば、詳しくわかるということね」
お母さまがちょっと安心した表情になったので、私もホッとしちゃう。
「はい、明日また学院でお2人にお会いしたさいに、そのように伝えようと思います。それに、お2人からお聞きしたのですが、ヴェルツェ領では作物の品種改良に取り組まれているそうで……」
ここからちょっと話を逸らせて、私は品種改良されたお芋の話、それにその品種改良を主導されているのがお2人のお母さま(ドラガンくんにとっては育てのお母さまだけど)について、できるだけ楽しげに話した。
「それは、とってもすてきなお母さまね。作物の品種改良に取り組まれて、しかも実績をあげていらっしゃるなんて、本当にすばらしいわ」
ほら、私のお母さまはやっぱり私と同じ感想よ。
「そうですよね、わたくし、ぜひその品種改良されたお芋を分けていただいて、新しいお料理を試してみたいのです」
「あら、それはまた、とっても楽しみね!」
ええもう、コロッケやフライドポテトやポテトチップスを、ぜひ早めに作りましょう!
本当はほかにも精霊ちゃんの話……蜜蝋布の加工についてなんかも、お母さまに報告したかったんだけど、さすがに時間が遅すぎる。
私は明日また朝から登校だしねえ。
だから今日はここでお開きに。私もお母さまも居間を出て寝室へと向かった。
「でも本当によかったわ」
一緒に寝室へと向かいながら、お母さまがつぶやく。
「ルーディにお友だちができて……毎日一緒に過ごすことができるお友だちよね」
「そうです、わたくしも本当に嬉しいです」
私も正直ににこにこしちゃう。「ドロテアさまは本当に感じのよいご令嬢で……ご令息のドラガンさまも気さくにお話しできるかたなんですよ」
「ええ、ええ、本当によかったわ」
私もお母さまも安心させてあげられて、本当によかったですー。
寝室ですでに眠っているアデルリーナを起こしてしまわないよう、私はささっとお風呂を済ませてベッドにもぐりこんだ。
はー……今日もホンットにテンコ盛りだったわ。
お母さまに精霊ちゃんの話もしたかったけど……うーん、硬化布のサンプルをもらえたときでもいいかな、アレは実際に手に取って試してみたら、本当にそのすごさを実感するもの。
ただねえ……九九の表1枚が、そんなとんでもない話になっちゃうだなんて、想像もしてなかったわよ。
本当にこの国は、いろいろやばい状態なのかもしれない。
だって、こんな惨憺たる我が家が特殊な例じゃなくて、ほかの貴族家にも似たような話が転がってるんだとしたら……なんかもう、本当に転がっていそうなんだよねえ……。
学院でファーレンドルフ先生だって言ってたもん、『家庭の事情』で自分の成績をわざと下げてる女子は、それほどめずらしくないって話を。
それにドロテアちゃんが、成績がトップクラスだってことで可愛げがないだの生意気だの言われちゃうって……本当に、努力して頑張ってる人を蹴落とすとか、その足を引っ張るとか、そういうことしか考えてない人が、生徒の中にも多いってことだよね。
公爵さまは、あのDV確実クズ野郎とその侯爵家に対して陛下がめちゃくちゃ厳しい処罰をされるのは、ほかの貴族家へのけん制の意味もあるって言ってた。
それもつまり、ああいう……暴力さえふるえば相手を思い通りにできるって思い込んでるような輩が、支配者階級である貴族にいっぱいいるって意味だよねえ……。
しかも、自分の領地の収支さえもまともに計算してないって、ホンットに信じらんないわ。もう衝撃って言っていいレベル。自分に最初から地位や財産を与えられてることの意味を、何ひとつ考えもしてない、ってことだもん。
そんなレベルで、領主だとかいってふんぞり返っていられるって……冗談抜きで国が亡ぶわ。
私、本当にとんでもない状況の国に転生しちゃったのかも。
せっかく魔法のあるファンタジーな世界に転生したのに、ここんとこずっとお金の計算ばっかりしてるこの世知辛さってなんなのよ、って思ってたけど……うん、もう間違いなく、これからも、ずーっとお金の計算だわ。
はぁーーー……。





