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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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299.ちゃっかりしすぎ

本日2話更新です。

まずは1話目です。

 ホントにホントに勘弁して!

 と、ばかりに私は赤くなったり青くなったりしちゃってたんだけど。

 そういう私をにんまりと見守っていたスヴェイさんが、ちょっと表情を改めて言ってきた。

「ゲルトルードお嬢さまは、相手がどのような人であれ、その人の身分や地位や肩書や、あるいはほかの人々による評価などに惑わされることなく、ご自身で考えご自身で判断されているのだということが、あのとき私には本当によくわかったのです」


 そう言ってスヴェイさんは、もう一度私の前に膝を突いた。

「それにクルゼライヒ伯爵家の厨房に入らせていただいて、そこで働く者たち全員がゲルトルードお嬢さまのことを尊敬し信頼し、誇りを持ってお仕えしているのだということも、ひしひしと感じました。使用人の誰からも、あれほどまでに慕われている主というのは、そう多くはいらっしゃいません」

 なんだろう、私の後ろに控えているナリッサが、めっちゃどや顔をしてる気がする。

 いや、使用人の誰からも、って言われても……我が家はいまめちゃくちゃ使用人が少ないから。


 膝を突いたスヴェイさんは、再び私の手を取った。

「そのような主であるゲルトルードお嬢さまにお仕えできるというのは、私にとってほまれです。どうかよろしくお願い申し上げます」

 誉れ、とかー!

 スヴェイさん、ホントに本当に本気なのね?


 また私の手の甲に額を当ててくれちゃって、しかもその状態で私の言葉を待ってくれてるスヴェイさんに、私が何も答えずに済むわけがない。

「よくわかりました」

 スヴェイさんが顔を上げる。

 私はものすごーく頑張って笑顔を浮かべた。

「これからずっと頼りにします。スヴェイさん、いえ、スヴェイ」


「ありがとう存じます、ゲルトルードお嬢さま」

 スヴェイさんが満面の笑みを浮かべてくれたので、どうやら私は正解を言えたらしい。

 なんか私の周りの、公爵さまたちもすごくホッとしてくれたのが伝わってきちゃうし。

 はー、こんなことで自分を試されちゃうとは思ってもみなかったよ……。

 今日もまた完全にぐったり状態で、私ゃ帰りの馬車に乗り込みましたわ。


 お家に帰りつくと、今日もやっぱりお母さまが玄関で出迎えてくれました。

 そりゃもう高校生な娘が毎日毎日こんなに帰宅が遅くなるなんて、ホントに心配かけてごめんなさい、お母さま。

「ルーディ、貴女の身に危険が及ぶような問題がおきたわけではないからと、スヴェイさんから聞いてはいたのだけれど」


 私をハグしてくれるお母さまに、スヴェイさんがサワヤカに言う。

「コーデリア奥さま、今後私のことはスヴェイとお呼びください」

 眉を上げてスヴェイさんと私の顔を見比べるお母さまに、私も正直に申告するしかない。

「お母さま、スヴェイは正式にわたくしの従者になることが決まりました」

「まあ!」


 ええ、びっくりですよね、なにしろこのヒト、国王陛下直属の国家トップレベル人材さんですからね。そのことは、お母さまには話してあったからね。

「ただし、当面は現状通り、通いで毎日わたくしを送迎してくれます。スヴェイには、我が家の使用人をもう少し増やして環境を整えてから、我が家に入ってもらいますので」

「そうなのね?」


 スヴェイさん、ええと、スヴェイはにこやかに腰を折ってくれる。

「さようにございます、コーデリア奥さま。なにとぞよろしくお願い申し上げます」

「わかりました」

 お母さまも姿勢をただして、きちんと答えてくれた。

「それではゲルトルードをよろしく頼みます。スヴェイ、貴方のような優秀なかたが娘に仕えてくれるのは、本当にありがたいです」

「過分なお言葉、ありがとう存じます」


 それからスヴェイはにこやかにヨーゼフにも声をかけ、しかも腰を折ってくれた。

「ヨーゼフさん、そういうことになりましたので、よろしくお願いします」

 そうなの、タウンハウスの使用人の中でいちばん地位が高いのは執事なのよね。だから、スヴェイは貴族だといっても、家の中ではヨーゼフの下に付くことになるの。

 ヨーゼフも、当然そのことは理解してる。

「承知いたしました。スヴェイさん、どうぞゲルトルードお嬢さまのお力になって差し上げてください」

「はい、存分に働かせていただきます」


 かくしてスヴェイはサワヤカに去って行きました。

 ええ、もちろん明朝も我が家に私を迎えにきますと言って。


「本当に、いいのかしら……」

 公爵家の馬車を見送ったお母さまがちょっと心配そうにつぶやいて、私もちょっと、いや、だいぶくたびれた声で答えちゃった。

「わたくしもそう思って、念を押したのですけれど……本当に、いいそうです」

「そうなのね?」

「はい」


 うなずいてから、私はとりあえずソレについてだけ申告した。

「明日からは、お夕食についても、スヴェイには何か持たせてあげたほうがいいかもしれません。マルゴに相談しないといけませんね」

「あ……」

 お母さまの目が見開いて、それから片手を額に当てちゃった。

「ええ、まあ、そうね、それは、してあげたほうがよさそうね……」

「はい」


 私はヨーゼフにも声をかけた。

「ヨーゼフ、スヴェイが我が家に入ることで、貴方に負担をかけてしまうかもしれないけれど」

「とんでもないことでございます、ゲルトルードお嬢さま」

 にこやかにヨーゼフは答えてくれた。

「スヴェイさんは……そうですね、さすがにまだ呼び捨てにするには少しばかり抵抗がございますが、実に気さくなお人柄ですし、当家にもすでになじんでいますから」


「そうなの?」

「はい、今朝も厨房で、トマスがすっかりスヴェイさんになついてしまって」

「えっ?」

 いや、私が厨房に下りていくまでにナニをしてたの、スヴェイってば。

 ヨーゼフが笑ってる。

「ヨアンナもノランも恐縮していたのですが、スヴェイさんは自分にも同じ年ごろの甥がいるからと言って、トマスを膝にのせていたほどですよ」


 なんというか……スヴェイ、根回しがよすぎるというか、ちゃっかりすぎかも。

 そりゃもう、公爵家からお借りしている従者、だったからね、お母さまとヨーゼフにしか詳しく説明はしてなかったけど、みんなやっぱりスヴェイが貴族であることは気がついていたはず。だいたい、私もお母さまもスヴェイのことは『さん』付けで呼んでたんだし。


 それに、ハンバーガーが大量に必要になった、そのいきさつを昨日厨房でマルゴにざっくり説明しちゃったから……みんな知ってるよね、私が学院からの帰宅時に危ない目に遭っちゃって、そこでスヴェイが私を守ってくれたことを。

 あの小柄で童顔な外見と裏腹に、スヴェイが実はめちゃめちゃ腕の立つ護衛でもあることも、みんな理解してると思うんだ。


 そのスヴェイが、もう間違いなくにこにこしながらトマスを膝にのせてくれちゃって、みんな安心しまくっただろうし、マルゴだって朝食を出してあげるしかなかっただろうし、さらにはお弁当だってサービスしてあげちゃうしかなかったでしょうよ。

 ええ、まあ、そのコミュ力と愛想のよさで、するっと誰の懐にも入れちゃうっていうのは、ものすごく優秀な情報収集者ではあると思うんだけど。

 なにより、我が家の使用人たちとトラブルなくなじんでもらえるなら、それはもう確実にありがたいことだからねえ。


 厨房へ行くと、今日もマルゴたちがまだ待っていてくれた。

「お帰りなさいませ、ゲルトルードお嬢さま」

「みんな、遅くまでありがとう」

 いつものように、もう流れるように、私は厨房のテーブルに着いて、お料理が出てくるのを待っちゃう。


「リーナも、いまさっきまでルーディの帰りを待っていたのだけれどね」

 一緒に席に着いたお母さまは、リーナと一緒に夕食は済ませたそう。

 私はマルゴが用意してくれていた、ベーコンとお野菜たっぷりの熱々シチューをいただく。今日も美味しいよ、マルゴ。ホンットに美味しいごはんは幸せの素だよ、明日への活力だよ。


 そして私は、ハンバーガーの件をマルゴに話した。

 マルゴは頼もしくうなずいてくれる。

「はい、必要な食材は本日手配いたしました。丸いパンも、あたしの息子たちに言えばすぐに焼いてくれます。ハンバーガー20個、明日にでもご用意できますです」


「ありがとう、マルゴ。では明日のお届けということで、お願いしますね」

 そう答えてから、私はちょっと付け加えてしまった。

「それと……もし可能であれば、少し多めに渡してあげてもらえる?」

「ええ、かしこまりましてございます、ゲルトルードお嬢さま」

 マルゴは笑ってうなずいた。「それでは25個ほど、ご用意いたしますです」


 うん、あんまり公爵さまを甘やかしちゃうのはアレだけどね、このくらいはサービスしてあげましょう。

 王家にお渡しするのは20個、余分に5個ほど渡しておけば、公爵さまだけじゃなくマルレーネさんやトラヴィスさんにも食べてもらえるんじゃないかなって思うしね。

 そのうち、精霊ちゃんにも届けてあげたいな。


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