298.食い気だけじゃなかったの?
本日1話だけですが更新です。
来週末は連休でもありますし更新がんばります( *˙ω˙*)و グッ!
だって、やっぱりおかしいでしょう。
きちんと収支の計算もしないで、まっとうに領地の経営なんかできるわけがない。
それなのに、お金の計算をすることが卑しい? だから自分は領地の収支なんて計算しない?
それだけじゃない、お金の計算がきっちりできる貴族が増えたら、自分の怠慢やごまかしがバレちゃうかもしれないから、そういう連中は片っ端から蹴落とす?
そんな連中が国の中枢で、権力も富も握ってるってさ……冗談抜きで国が亡ぶわ。
もうホンットに、真面目に努力してまっとうに勉強しようとする人たちを、どんどんサポートしなきゃダメだよ。
ドラガンくんやドロテアちゃん、それにペテルヴァンス先輩みたいな人たちをどんどんサポートして、きちんと領地を経営し、まっとうに国のために働いてくれる人を増やしていかなきゃ。
もちろん、貴族だけじゃなく平民の人たちもよ!
ああもう、なんか鼻息が荒くなっちゃったわ。
そんな私のようすに、なぜか公爵さまは嬉しそうです。
「わかったわ。カルヴァン・ファーレンドルフ先生ね? 陛下にはそのように伝えます」
「よろしくお願いいたします!」
うむ、コレでドラガンくんにもしっかり九九の表が届くはず。丸暗記だからね、丸暗記するだけで暗算がとっても速くなるからね!
それに、ドラガンくんが熱心に九九に取り組んでくれたら、算術選抜クラスのほかの生徒も絶対興味を持ってくれると思うの。そこから九九の表を広げていけるはず!
でもホンット、計算大好き理系男子のドラガンくんはいい領主になりそうだよね。間違いなく自分できっちり領地の収支計算をするだろうから。
私が満足していると、公爵さまがある意味今日いちばん言いたかったと思われることを、ようやく言い出した。
「それでね、ルーディちゃん、その、陛下にお届けするハンバーガーなのだけれど……」
わかってますってば。
「すでに我が家の料理人に伝えました」
私が答えると、公爵さまがあからさまにホッとした表情を浮かべる。
だから私は、ちゃんと釘も刺しておく。
「昨日お約束しました通り、20個ですので」
「え、ええ、それはもう、陛下にも王太子殿下にも、そのように伝えたから」
「では、料理人はおそらく今日のうちに材料をそろえてくれたと思いますので、明日にでも、ハンバーガーを20個ご用意できると存じます」
それならば、明日でも明後日でもハンバーガーができ次第公爵邸に連絡をしてほしい、そしたらすぐにアーティバルトさんが我が家まで引き取りに行くから、とのこと。
アーティバルトさん、時を止める収納魔道具ご持参だそうです。ハンバーガー20個をできたてほかほかの状態で、宮殿まで運ばれるんだそうです。
ハンバーガー20個、どのように山分けされるかはそちらでご相談ください、だわ。
そんでもって、ようやく今日もお開きです。
ホンットに毎日毎日が長いよー。
お暇する私とナリッサに、公爵さまを始めアーティバルトさんもトラヴィスさんもマルレーネさんも、私たちと一緒に玄関まで下りてくれる。
玄関前の車寄せには、ちゃんとゲオルグさんが御者を務める馬車が停まっていて、スヴェイさんが待っていてくれた。
「伯爵家には、本日もゲルトルードお嬢さまのお帰りが遅くなることを、お伝えしておきました」
「ありがとうございます、スヴェイさん」
ホンットに気が利くよね、スヴェイさんは。
と、思ったところで、本日ついさっき公爵さまと話したことを思い出した。
視線を感じて目を上げると、私の横に立ってる公爵さまが、両の口角をちょっと上げて横目で私を見おろしてる。
もー、わかりました、自分で言いますってば。
「ええと、スヴェイさん?」
「はい」
にこやかに答えてくれるスヴェイさんに、私も頑張って笑顔を浮かべる。
「あの、貴方が我が家に直接仕えたいと希望を出してくださっていると、先ほど公爵さまからうかがいました」
「さようにございます。叶うことでございましたら、私はぜひ、ゲルトルードお嬢さまに直接お仕えしたく存じます」
うーん、なんかスヴェイさんの笑顔もうさんくさく感じちゃうようになっちゃったよ。
「貴方のような非常に優秀なかたが、我が家に仕えてくれるというのは、本当にありがたいです」
「それでは、よろしいのでございますか?」
スヴェイさんが嬉しそうに笑顔を深めてくれちゃう。
えーホントにそんなに乗り気なの?
「ただ、公爵さまともご相談したのですけれど、現在我が家は使用人の数が非常に少なく、その、貴方のような独身の貴族男性を従者として迎え入れるには、少々準備が足りません」
ちょっと眉を上げてからうなずくスヴェイさんに、私は説明を続ける。
「我が家は今後領地から使用人を呼び寄せ、従者や護衛など男性の使用人ももっと増やしていく方針です。その準備が整うまで、貴方には申し訳ないですが、いまと同じ通いの形を続けてもらおうと思うのですが、いいでしょうか?」
「それは、ご尊家でのご準備がお済みになれば、私も正式にゲルトルードお嬢さまの従者として、常にお側近くで仕えさせていただけるということでしょうか?」
「そのつもりです」
私がうなずくと、スヴェイさんも嬉しそうにうなずいた。
「かしこまりました。ありがとうございます」
そしてスヴェイさんはその場に膝を突くと、私の片手を取ってその甲に自分の額を当てた。
「私ことフォルツハイム騎士爵スヴェイ、これからはゲルトルードお嬢さまの従者として存分に働き、末永くお仕えさせていただきたく、なにとぞよろしくお願い申し上げます」
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますね」
私、頑張って笑顔で答えたよ。
内心はもう、ひぇぇぇーーー状態だったけどね。
だって国王陛下直属の、国家トップレベル人材さんだよ? そんな人が私の前に膝を突いて忠誠を誓ってくれるとか……フツーに考えてあり得ないシチュエーションでしょーが。
でも私の周りでは、公爵さまは眉間にシワモードながらうんうんとうなずき、アーティバルトさんもトラヴィスさんもマルレーネさんもにこにこ顔だ。なんかナリッサまで、ちょっと笑顔になってるような気さえする。
いやもう、私ゃ中身は小市民だからね、やっぱりどうしても腰が引けちゃうよ。
だからスヴェイさんが立ち上がったところで、私は思わず訊いちゃった。
「あの、本当にいいのですか?」
「なにが、でございますか?」
スヴェイさんがコテンと首をかしげたので、私は再度問いかけた。
「本当に我が家の……わたくしの従者になってしまわれても?」
「もちろんでございます。ゲルトルードお嬢さまには、私のたっての希望をお聞き届けくださったことに、心より感謝申し上げております」
そんな満面の笑みで答えないでよ、スヴェイさん。
国王陛下直属から、一応伯爵家とはいえこんな貧相な小娘の従者に転職だなんて、フツーに考えてめちゃめちゃキャリアダウンじゃない? ちょっとばかし我が家のごはんやおやつが美味しいからって、やっぱそんな一時の気の迷いで道を踏み誤っちゃいけないと思うの。
そういうことをどう確認すればいいのか……私は頭を悩ませちゃったんだけど、お約束のようにアーティバルトさんがちょっと肩をひくつかせながら言ってくれちゃった。
「それはもう、クルゼライヒ伯爵家にお仕えすれば、毎日美味しいものが食べられますからね」
ド直球ですやん、アーティバルトさん。
「ええ、もちろんそれも非常に大きな魅力ですね」
スヴェイさん、やはり満面の笑みです。
でも、スヴェイさんは続けてとんでもないことを言い出した。
「けれど、それだけが理由ではありません。私は何よりゲルトルードお嬢さまのお人柄に惹かれたのです。ゲルトルードお嬢さまは、誠を以てお仕えすれば誠を以て報いてくださる主であると、ゆるぎない確信を得ましたので」
「それは……どのようなことから、其方は確信を得たのだ?」
公爵さまがちょっと驚いたように、ええ、ちゃんと公爵閣下モードで問いかけられました。
スヴェイさんはにっこりと……いや、なんかこう、にんまりと笑って答えてくれる。
「それはもう、ゲルトルードお嬢さまが閣下に対してどのようにお考えでいらっしゃるのか、実に明確に述べておられたことからです」
へっ?
あの、閣下に対してどのようにお考えで、って……私が? 公爵さまを? どのように?
きょとんとしちゃった私に、スヴェイさんはそのにんまり笑いを向けた。
「ゲルトルードお嬢さまのあの『反論』につきましては、王太子殿下も非常に高くご評価なさっておられたほどですし」
って、ま、ま、待って!
待ってスヴェイさん、も、もしかしてあの、あの、私がDV確実クズ野郎に対して切った啖呵の話をしてる?
「いやあ、ゲルトルードお嬢さまのあの『反論』にはしびれました。あれほどのことを、あの場面で、あのようにきっぱりと明言できるようなご令嬢は、ほかにはおられませんでしょう」
ぎぇぇーーーやめて、スヴェイさん!
だ、だって、スヴェイさん、あのときアナタ、真顔で固まってたじゃん!
それをなんで、しびれたとかなんとか……!
「『反論』とは? それに、王太子殿下が高く評価、とは?」
公爵さま、そんな思いっきり不審そうな顔で私を見ないでください!
「ゲルトルード嬢、きみはいったいどのように私のことを考えているというのだ?」
ってだから公爵さま、そんなこと私が面と向かって本人に言えるわけないぢゃないですか!
アレはホントに、売られたケンカをつい買っちゃっただけなんだってばー!
遅ればせながら、みなさまには5巻続刊決定へのお祝いの言葉を本当にありがとうございます!
さらに6巻7巻8巻~~~と続刊していけるよう、頑張ってまいります!





