296.アレの処遇
本日1話だけですが更新します。
明日も1話だけなら更新できるかな?(;^ω^)
「では、スヴェイはこのまま、いずれルーディちゃんの専属になるということで、陛下にも申し上げておくわね」
「よろしくお願いいたします」
コレもまた流されたというかなりゆきだけど、ありがたいことには違いない。
私は素直に公爵さまに頭を下げた。
「あと、わたくしからルーディちゃんに報告することがいろいろとあるのよ」
公爵さまは額に片手を当ててから、ちょっと息を吐いた。
「そうね、まずあの侯爵家の屑息子のことだけれど」
あー、はい、あのDV確実クズ野郎ですね?
私はちょっと身構えちゃったんだけど、公爵さまがさくっと言った。
「廃嫡が決まったわ」
えっ、ええっと、廃嫡?
あのDV確実クズ野郎、跡継ぎから降ろされちゃうんですね?
さすがにびっくりして目を見張っちゃった私に、公爵さまが教えてくれる。
「今回のことだけではないのよ。あの屑息子、いままでにもかなり余罪があるようでね」
それはまあ……あのくらい幼稚で横暴なクズ野郎なんだから、これまでにもイロイロやらかしてきてるだろうな、くらいの想像はつきます。
思わずうなずいちゃった私に、公爵さまはさらにとんでもないことを言ってきた。
「その上で、ブーンスゲルヒ侯爵家は降爵されて伯爵家となり、領地も3分の1ほどを国が没収することになります」
こ、降爵……降爵って!
そこまでするの?
しかも領地の3分の1を没収?
ナニそのすんごい強気な処罰は?
「まだ陛下が内々に裁定されていることなのだけれど、おそらくその通り評議会でも承認されると思うわ」
公爵さまがうなずく。「決め手は、ブーンスゲルヒ侯爵家が長年にわたって脱税をしてきた、その証拠の裏帳簿よ」
裏帳簿!
脱税の証拠の裏帳簿って! なんですか、あの、東京地検が段ボール箱をいっぱい持って一気に踏み込んだみたいな?
そんなとんでもないことになっていたなんて!
ひぇーーっとばかりに、私はさらに目を見張っちゃったんだけど、公爵さまはさらにさらにとんでもないことを言ってきた。
「これは本当に内密のお話なのだけれど……その裏帳簿を提出してくれたのは、ホーフェンベルツ侯爵家のメルグレーテ夫人なの」
は?
え、えっと……メルさま?
あの、メルさまがなんで……そんな凄腕検察官のごとく証拠の品を手に入れるとか……!
「メルグレーテ夫人は、ご自分の離婚のさいにご自分の要望が通らなかった場合に備えて、その裏帳簿を入手しておられたようね。ほら、夫人の離婚相手って、ブーンスゲルヒ侯爵家の直下の分家でしょう? 本家のほうを完全に押さえるおつもりだったらしくて」
メ、メルさま、すごすぎる!
私はなんかもう完全に呆気にとられちゃって、なんでそんなすごいことができちゃうのメルさまってば、とばかりに内心で拍手しまくっちゃったんだけど。
だけど、公爵さまは私の驚きの、さらに上乗せをしてくれちゃった。
「離婚にさいしては、陛下と王妃殿下のお力添えもあって、その裏帳簿を持ちだす必要なく済んだのだそうよ。もちろん今後のことを考えて、夫人はその裏帳簿を極秘に抱えておられたのだけれど……今回、ルーディちゃんのこともあって裏帳簿を提出してくださったの、メルグレーテ夫人は」
「は?」
「ほら、ホーフェンベルツ侯爵家からルーディちゃんの情報が流出しちゃったでしょう?」
「は?」
「それによって、あの屑息子がルーディちゃんに危害を加えようとしたから」
「は?」
私、は? としか言えてない。
いや、言えないでしょう!
だってそんなとんでもない駆け引きのための決定的証拠を、メルさまってばなんで私のためなんかに!
い、いや、確かになんか、メルさまも対策をするようなことを、おっしゃってくださっていたような気はするんだけど……!
「本当に、ホーフェンベルツ侯爵家の夫人はとんでもない切り札を出してくれた、と陛下も非常に感心し、また感謝されていたわ」
公爵さまはいたって満足そうに言ってる。
でも、国王陛下も本当に本気らしいってことを、公爵さまはさらに言い出した。
「それでもまだ陛下は、完全にあのブーンスゲルヒ侯爵家を取り潰してしまえないか、余罪を追及されているのよ。できれば、あの屑息子を廃嫡するだけでなく、跡継ぎは国が指定した、つまり王家の息がかかった者を養子に入れて、跡継ぎにしてしまわれたいの」
「えっ、あの、親族から養子をとる、とかではなくて?」
思わず訊き返しちゃった私に、公爵さまははっきりとうなずく。
「ええ、領主一族のヘプスバウト家の者ではなく、完全に別の家からの養子よ」
公爵さまはさらに説明してくれる。「本来は、あの屑息子の姉の嫁ぎ先から、その姉の子を養子に迎えるか、あるいは直下の分家であるベックイーズ子爵家から養子を迎えるか……ベックイーズ子爵家というのが、メルグレーテ夫人の離婚相手の家なのだけれどね、それらの養子は禁じてしまわれたいのよ。それによって、現在のヘプスバウト一族によるブーンスゲルヒ侯爵家を完全に取り潰し、他の一族によるブーンスゲルヒ伯爵家として立て直しを図られるおつもりなの」
な、なんか……めちゃくちゃとんでもないことに、なっちゃってる気がするんですけど。
だって、侯爵家っていま九家だっけ? そのうちの一家が完全になくなっちゃうんだよ?
そういうことだよね、単純に侯爵家が伯爵家になるっていうだけでなく、現在の跡継ぎを廃嫡してしかも親族からの養子を禁じるっていうことは……完全に領主一族が入れ替わる、いまある侯爵家が完全に消滅するってことだもんね?
お母さまの実家のような地方男爵家では、領主一族が入れ替わるのもままあることだと聞いているけど……侯爵家が丸ごと一家消滅なんかしちゃったら、なんていうか、その、いわゆる国内の勢力図が書き換えられるとか、もうそういうレベルのお話なのでは……?
「それにしても本当にさすがよね、メルグレーテ夫人は」
感心したように公爵さまが言って、アーティバルトさんやトラヴィスさん、マルレーネさんもしきりにうなずいている。
「そのような切り札を確保しておられたことも、本当にすばらしいですが」
「いま、まさにこの機を狙って、その切り札を出してこられるというのがもう」
トラヴィスさんとマルレーネさんの言葉に、公爵さまもやっぱりうなずき返しちゃう。
「本当にね。これで、侯爵位を継いだ一人息子の立場を盤石にしたわ。不安要素だった父方の勢力を完全にそいで、同時に王家に貸しを作ったことで最強の後ろ盾を得たのですものね」
「これで次の世代の侯爵家筆頭は、ホーフェンベルツ侯爵家ということになりそうですね」
って、アーティバルトさんの言葉に、みなさんうなずいていらっしゃいます。
そんでもって公爵さまは、私に言ってくれちゃう。
「もちろん、ルーディちゃんの情報を漏洩してしまった償いの意味も、間違いなくあるのでしょうけれど、メルグレーテ夫人の手腕は本当に見事だわ」
いや、あの、えっと……つまり、メルさまはユベールくんの父方の親族が不安要素だった……そりゃあんなDV確実クズ野郎が跡継ぎだなんていう侯爵家が、ユベールくんのお父さんの親族だからって口出ししてきたらたまったもんじゃないよね?
いくら離婚してるっていっても、その人がユベールくんのお父さんであることに変わりはないわけだから。
それで今回、メルさまはその不安要素の親族を取り除くチャンスだとばかりに、すでに入手してあった裏帳簿をシュバッと勢いよく国にご提出なさったと。それによって、今後頭痛のタネになること間違いナシであろう親族をその地位から追い落とし、なおかつ国というか王家にしっかり貸しを作っちゃったと。
それでなくてもユベールくんは、すでに王太子殿下の側近になることが決まってるし、そこで貸しまで作ってあればもう王家が全面的に後ろ盾になってくれて勝ったも同然、ってことだよね?
うん、私の情報漏洩への償いとか、そういうのはもうオマケだよね?
むしろ、あのDV確実クズ野郎が私に対してアクションを起こしたおかげで、それをきっかけにメルさまが切り札を使って、排除したかった相手をきっちり排除できたのであれば、それはもう完全に結果オーライでしょ。
それならいいです、納得です。
あ、でも、まだ跡継ぎになる養子を国が指定できるかどうかまでは、決まってないのか。
陛下が余罪を追及されてるって、公爵さまはさっき言ってたな。
でも、あんな幼稚で傲慢で暴力さえふるえば誰もが自分にひれ伏す、なんて思ってるに違いないDV確実クズ野郎なんだから、叩けばいくらでもホコリは出そうだもんね。ここで徹底的に追い詰めて完全に取り潰しちゃおうってことなんだな。
国王陛下も……ちょっと本気で国内の勢力図の書き換えを考えていらっしゃるってわけか……。
しかしメルさま、本当にすごすぎる。
ヨソのお家の裏帳簿を手に入れたっていうだけでも、私には想像もつかないアレやコレやがありそうなんだけど、それをまたこういう使うべきところで最も効果的に使えるって……うーん、メルさまは爵位持ち娘の先輩なんだけど、なんかもう私が見習えるレベルじゃない気がするー。





