9.街に買い物に出たら幼なじみに出会いました
翌日は休みの日だった。
私はエーレンとビアンカと一緒に王都に買い物に出た。
「ねえねえ、あのキラキラした建物は何?」
「あれは教会の大聖堂よ」
「キラキラ光っているのは大聖堂のステンドグラスなのよ」
「そうなんだ。凄いね、あんな大きな教会があるんだ」
田舎の教会はこじんまりしていた。こんな大きいのは初めてみた。
私は初王都に感激していた。
「あれよりも王宮の方が大きいけれどね」
「えっ、そうなんだ。王宮って絶対に行くことは無いけれど、一度は見てみたい……ねえ、それより、これ可愛い」
私はいきなり、可愛い雑貨やさんの店頭で、物を物色し始めた。
決闘の後、私はクラスの面々から手荒い祝福を受けた。
「やったな、アマーリア!」
「アマーリア凄いじゃない!」
「あの威張ったライナーを叩き潰してくれて清清したよ!」
皆はそのまま学食になだれ込んで私を囲んで盛大な祝いをしてくれた。
学園の食堂は二つあって、私達平民御用達のセルフサービスの学生食堂とお貴族様用の給仕付きの高級食堂に分かれていた。ちなみに寮も基本伯爵以上のメイド付きの寮と下級貴族でメイドなしの寮、一般学生用の寮に分かれていてそれも男女別になっていた。平民の私達は当然一般寮だ。
私は一般食堂で学園生活の初日からクラスの多くの者に歓迎されて楽しかった。
そのまま寮の私の部屋になだれ込んで、一部の女の子だけで二次会をしたんだけど、その中で私が衣装をほとんど持っていないのが判明した。それで急遽エーレンとビアンカが一緒に買い物に連れ出してくれることになったのだ。
女友達と買い物に出るなんて前世も含めて初めてだ。私は本当にウキウキしていた。
「ちょっと、アミ、待ちなさいよ。先に服買いに行かないと」
次の店に駆け出そうとした私はエーレンに捕まった
「ええ、でも……」
「ええもでもも関係無いわ。先に服だけ見るわよ」
「ええええ! 別に私はこのジャージだけでいいわよ。楽だし」
そう、私はおしゃれな格好をしたエーレンやビアンカと違って、黒いなんの変哲もないジャージを着ていた。これならそのまま、ダンジョンに潜っても問題ないし、いきなり母の無理難題が降りかかって来ても対処できるから、家ではいつもこの格好だった。
「何言っているのよ、あなた女の子でしょ!」
「あなた見た目は可愛いんだけど、そんな地味な格好していたら男は誰も寄ってこないわよ」
「見た目は普通だし、別に男はどうでも良いし……」
「あんた、この年で女辞めているの?」
「そうよ、このまま行くと、オールドミス一直線よ」
礼儀作法の厳しき先生がいて、その先生がオールドミスなのだ。男いない歴50年だそうでその方面では筋金入りだ。
さすがにそれは私も嫌だ。
まあ、それに出来たら私も一生に一度でいいから格好良い男の人にエスコートなんかされてみたい。
でも、地味な私には中々難しいと思うのよね。
「そんなことないわよ。アミは可愛いから絶対にちゃんとした服着たらもてるから」
「そうよ。王都は逃げないから、服見た後は付き合って上げるから」
「本当に? 終わったら王都見物に付き合ってよね」
「判ったから」
王都観光したい私を強引に二人して平民用の小洒落な既製品を売っている店に連れて行ってくれた。
でもそこから私の地獄が始まった。
エーレンとビアンカと女店員が揃って私を着せ替え人形にしてくれたのだ。服なんてなんでも良いのに、三人はあーでもないこーでもないと言ってくれて、服を10着も見繕ってくれた。試しに着させられた服なんて20着を越えた。支払うのは私なのに、私の意見は全て却下されてしまったんだけど……私は地味な服が良かったのに!
「あなた、おばあちゃんじゃないんだから」
「どういう趣味しているの? 本当にあなたは!」
「お嬢様、素地が良いんですから、これはさすがに無いと思います」
三人に拒否されてしまった。
そして、その中の一着のワンピースに強引に着替えさせられたのだ。
スカートは動きにくいから嫌いなのに!
「文句言うと王都観光に連れていかないわよ」
「判ったわよ」
二人にそう言われたら、王都初めての私は何も文句が言えなかった。
「本当に歩きにくいんだから」
靴もスニーカーじゃなくて低い底のパンプスを履かされて、私はご機嫌斜めだった。
折角2人に手伝ってもらって服を買ったので、その衣装を全て収納ボックスに入れたら、二人とも目を見開いていた。
「凄く便利じゃない。これからはアミを買い物に連れてくれば荷物を持つ苦労も無くなるのね」
「今度から一緒に買い物に行こうよ」
「ええええ! なんか面倒臭い」
私は2人の言葉に反抗したんだけど、
「ええええ! あなた友達を見捨てるの?」
「えっ、私達友達なの?」
エーレンは無理矢理転生仲間で友達にしたけれど、ビアンカまで私の事を友達だと思ってくれているなんて思ってもいなかった。
「当然じゃない」
ビアンカにそう言われて、私はとても嬉しくなった。
「そうか、友達なんだ」
「当たり前でしょ。友達でもなかったら、わざわざ休みの日に一緒に街に出てこないわよ。だから、良いでしょ」
「まあ、たまには」
「やったー。じやあ、次の休みね」
早速ビアンカのアッシーならぬ荷物持ちに決まったんだけど……
そして、ブティックを出て皆でわいわいやっていたときだ。
「アミ、久しぶり」
私は知らない男の人に声をかけられた。
「えっ?」
私はその男の顔を見た。男はとても整った顔をしていた。私は知らない男から声をかけられたら、結婚詐欺を疑えと母に言われていた。私の年で結婚詐欺はないと思うけど……何か他の詐欺かもしれない。前世では私はおれおれ詐欺に引っ掛かりそうになったから、決して他人事ではないのだ。
「アミ、あなたみたいながさつで女らしくない者に声をかけてくる男なんて、絶対に結婚詐欺か何かよ。絶対についていったら駄目だからね」
と母には念を押されていたのだ。
「ちょっとアミ、誰なのこのイケメンは?」
「こんな見目麗しい知り合いが王都にいるなんて初めて聞いたわよ」
エーレンとビアンカが嬉々として聞いてきたけれど、でも、私は見覚えがなかった。
「えっ、知らない人よ。詐欺師じゃないかしら」
「「えっ、そうなの」」
私たち三人の冷たい視線を浴びて男は一瞬戸惑ったみたいだった。
私は無視して通り過ぎようとしたのだ。
「おい、それはないだろう。リックだよ、リック、小さいとき一緒に遊んだだろ?」
男が主張してきたんだけど、
「えっ、リックってこんな小さな子供で」
「アミはもっと小さかったろう」
「うそ、あの時の泣き虫リックがこんなに立派になったの」
私はまじまじとリックの顔を見たのだった。良く見たら顔形がその時の面影を残していた。








