7.粋がった男爵令息と決闘しました
「何だと!」
ライナーが私に目を剥いた
「アマーリア!」
「お前、平民のくせに、ライナー様に文句があるのか?」
取り巻き達が文句を言って来たが、
「私はクラスメートとして大の男が3人で束になって一人の女の子を虐めていて、恥ずかしくないのかと聞いているだけですけど」
私は周りを見渡しがら話した。
廊下を通る生徒達がこちらをチラチラ見ていた。
こんな人通りの多いところでは大事にならないだろうと忠告を兼ねて教えてあげたのだ。
ところがライナーには通じなかったみたいだ。
「おい、アマーリア、お前、いつもいつも生意気だな。太陽の周りをこの星が回っているなんてガリレイ並みにいかれた頭をしているくせに」
「ビレヌーブ先生に散々馬鹿にされたあなたに言われたくないわ」
そう言われて思わず私は言い返した。
「何だと貴様、やるのか?」
「別にに良いわよ。やるの?」
売り言葉に買い言葉だった。
「よし、判った、決闘だ」
ライナーが言いだしてくれた。
「えっ、今、あなた、何て言ったの?」
「決闘だって言ったんだ。今さら受けないなんて……」
「決闘だなんて素敵!」
私は有頂天になっていた。前世病院で、西部劇の中でクリントイーストウッドが、決闘するシーンを映画のDVDで見て感激した記憶があった。まさか、今世決闘できるなんて思ってもいなかったのだ。
「おいおい、こいつ大丈夫か?」
「普通の女の子なら決闘って聞いただけで悲鳴をあげるはずなのに、変じゃないか?」
取り巻き達は呆れていたが、いいじゃない、別に!
「おいおい、アマーリア、良いのか?」
「ライナー様は火魔術の使い手だぞ」
取り巻き達の方が心配してくれたが、私は魔術だけは自信があった。
「放課後17時に訓練場だからな。くれぐれも逃げるなよ」
私はライナーの言葉をよく聞いていなかった。
ついに私も決闘出来るんだ。
前世はどれだけ決闘のシーンを何回も見たことか!
わくわくした私は早速、出来た友達に報告したくなった。
「おい、17時だぞ! 忘れるなよ」
「大丈夫よ」
私は慌てて、教室に帰った。
「ちょっと、アマーリア、あなた何故、お貴族様と決闘するなんて事になっているのよ。貴族相手にあれほど気をつけなさいと言ってあげたじゃない」
「いやあ、成り行きで」
帰ってきたら早速エーレンに怒られてしまった。
「えっ、アマーリア、ライナー様と決闘するの?」
エーレンの前のビアンカが驚いて振り向いてくれた。
「おい、アマーリア、決闘なんて大丈夫なのか? 何だったら俺が替わってやろうか」
親切な騎士志望のアーベルが申し出てくれたけれど、
「えっ、折角の申し出だけど、私、ずっと決闘してみたかったの!」
私の返事に皆唖然としてくれたんだけど……
今世、まさか、決闘が出来るなんて、思ってもいなかった。
決闘って響きもとてもロマンチックだ。
西部劇みたいだし、背中合わせになって10歩、歩くのかな?
私は前世病弱だから、決闘なんてしたことなかったのだ。
「あんたね。普通の人は元気でも決闘なんてしないわよ。あなた何時代に生きていたのよ」
エーレンに馬鹿にされた。
「えっ、そうなの? 前世病室から見ていたら男の子達が決闘だ決闘っていって喜んでいるのを見たから、てっきり皆よく決闘しているのかと思ったわ」
「前世って何?」
「何でもないわ」
ビアンカが聞いてきたのでエーレンが慌てて誤魔化してくれた。
「まあ、死なない程度に頑張れよ」
「そっか、決闘って死ぬこともあるんだ」
「まあ、やばくなったら止めに入ってやるから」
「そうなのね、有り難う」
ライナーはお貴族様だし、この世界は貴族ほど魔力が多いと聞いたことがあった。
まあ、私の方が弱いことはないと思うけれど、最悪の状態になったらアーベルに助けてもらおう。
私はワクワクして放課後を迎えた。
私はエーレンとアーベルとビアンカと一緒に訓練場に行った。
3人がいないとどこに訓練場があるか判らなかったし、親切に三人は色々と私に注意してくれた。最も私は生まれてはじめてする決闘に興奮してほとんど聞いていなかったけれど……
折角庇って上げたハンナはライナーの陣営にいた。
「おい、ハンナ、アマーリアはお前の為に戦ってくれるんじゃないのか?」
アーベルがハンナに対して話してくれたが、
「私は庇ってほしいなんて一言も頼んでいないわ」
迷惑そうにハンナが反論してくれた。
私の独りよがりだったらしい……まあ良いけれど……
「何か一人で粋がって馬鹿みたいね」
エーレンの言葉がグサグサ胸に突き刺さったけれど、良いのよ。私は決闘が出来れば!
訓練場には人だかりがしていた。
100人くらい見物人がいるんだけど。
そんな大勢の観衆の中に私は懐かしい顔を見たような気がしたんだけど、次の瞬間、見えなくなっていた。気のせいだろうか?
「さあさあ、男爵家のライナー対、辺境の田舎からヨーナス先生に見いだされてやってきた田舎娘のアマーリアの対決だよ。どちらが勝つかさあ張った張った」
いきなり賭けを始める奴らまでいる始末だし……
「えっ、あの子ヨーナス先生の弟子なの?」
「そんなのあの子が勝つに決まっているじゃない」
「いやいや、ライナー様は火魔術の使い手だぞ」
「絶対にライナー様が勝つって」
ライナーの取り巻き達が必死に言っている。
でも、私の入学試験を見ていた者もいたのか多くの人間が私の方に賭けているみたいだ。
「お前、ヨーナス先生の弟子なのか?」
噂を聞いたライナーまで慌てて私に確認してきた。
「うーん、弟子じゃないわよ。昔少し魔術を教えてもらっただけよ」
私は否定したが、
「おいおい、聞いたか? あのヨーナス先生が教えたことがあるって」
「あの先生、能なしには教えるだけ時間の無駄じゃとか言って、授業もほとんどしないのに」
「あの子の口先だけだって」
「でもあいつ、転入試験の時、確かに水晶を破壊していたぞ」
「えっ、あの水晶を破壊したってどれだけ魔力量が豊富なのよ」
「そんなの嘘に決まっているだろう」
「でも、俺は見ていたぞ」
「私も」
なんか周りの言葉にどんどんライナーの顔に汗が浮かんできたように思えたのは私の気のせいだろうか?
「じゃあ、二人とも準備は良いか?」
審判役のアーベルが聞いてきた。
「背中合わせになって10歩歩いたら振り返って魔術を打ち合う。どちらかが降参するか俺が勝ち負けを判断したときに勝負は決定する」
「判ったわ」
「10歩歩けば良いんだな」
私達は頷いた。
そして、背中合わせになる。
「では行くぞ」
「一歩、二歩、三歩」
私は審判の声に応じてわくわくしながら一歩一歩を歩いた。
ついに夢にまで見た決闘だ。
昔見た映画のクリントイーストウッドみたいに格好良く銃ならぬ魔術を打ち出すんだから。
ライナーが火魔術なら、私は水魔術だ。指を水鉄砲のようにして人差し指の先から水を吹き出したら良いかな?
「キャッ」
「アマーリア、後ろ」
「ライナー、卑怯だぞ」
何か皆の叫び声が聞こえた。まだ8歩のはずだ。
皆必死に私の後ろを差しているんだけど、何故?
私はルール通り、10歩歩いて振り返った。
その時だ。火の玉が飛んで来た。
「あれ、何故、こんなに早いの?」
私は目を見張ったが、次の瞬間、手ではたき落とした。
ドカーン!
横で大きな爆発が起こった。
「えっ?」
「信じられない!」
「あの子、手ではたき落としたわ!」
皆が騒然としていたが、あれくらいのファイアーボールなんて母のに比べたらおもちゃみたいな物だった。
「なんかよく判らないけれど、今度はこちらから行くわよ! プシュー」
私は様にならない、効果音を出して右手の指先から水鉄砲を発射した。
ダーーーーン!
消防車の放水並みの水が私の指から飛び出した。
「ギャーーーー」
放物線を描いたそれは次の瞬間ライナーに当たって一瞬でライナーを訓練場の壁に叩きつけていた。
「勝者、アマーリア!」
アーベルの声とともに
「「「ウォーーーー」」」
歓声が上がった。
「凄い!」
「さすがアマーリア」
「ヨーナス先生の弟子は実力も伴っていたぞ」
皆の声援が聞こえた。
「そ、そんな馬鹿な」
「ライナー様がずるしたのに一瞬でやられてしまった」
取り巻きの二人は唖然としていたし、水まみれになったライナーは壁に叩きつけられたショックで気絶していた。
まあ、王都のお貴族様って言っても大したことはないのはよく判ったわ。
ここまで読んで頂いて有り難うござました。
ついにアマーリアは学園での覇権を得るための第一歩を踏み出した?
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