6.気の弱い生徒に予習させていた男爵令息はその授業で大恥をかいてくれました
「アミ、不味いって。すぐに謝りなさいよ」
慌てたエーレンが私を注意してくれた。
「えっ、でも……」
私は躊躇した。
魔術学園には『学内で学ぶ生徒においては身分は関係なく、皆平等に接すべし』という校則があるにはあったのだ。
そんなの建前よって、エーレンはそれを否定してくれた。でも、建前は大切だ。
「今は良くても後々根に持つわよ」
後でエーレンは忠告してくれたけれど、将来的に冒険者になる私は別に貴族に睨まれても、どうということはなかった。
それに校則を盾にすれば学園長も何も言えないはずだ。
「アマーリア、貴様、平民のくせに男爵家の俺様に逆らうのか?」
小柄なライナーが必死に背伸びして私を見下ろそうとしてくれた。
なんか馬鹿みたいだなと思って私はなんとか我慢した。
一応、首を振ってやったわ。
「そうだ。アマーリアはまるっきり馬鹿って訳ではないようだな。貴族の俺様に逆らっても勝てないからな」
勘違いしたライナーは笑ってくれた。
本当に馬鹿みたい。お貴族様だからってこんな理不尽な馬鹿が将来民を治めていくなんて絶対に無理だと思う。
まあ、しかし、学園一日目から目立つことはないだろう。私は我慢することにしたのだ。
ハンナは二度と宿題を忘れるなよとライナーに凄まれて青くなっていた。
「大丈夫なの?」
ライナーが粋がって腹を突き出して去って行った後で私がハンナに聞くと、
「大丈夫よ」
全然大丈夫でなさそうな声でハンナが答えてくれた。
次の帝国語の授業ではそのライナーが当たって大変だった。
一年B組の担任で帝国語の先生のビレヌーブ先生は帝国出身の先生らしい。
皆は見ただけで帝国人と判ると言っていたけれど、欧米人が十把一絡げに見える私には全く判らなかった。
「グドアフタヌーン、エブリワン」
ビレヌーブ先生は入ってくるなり帝国語で話し出したが、私には帝国後は英語のように聞こえた。そして、嬉しいことに転生者のチート能力なのか私は帝国語を理解できたのだ。
ビレヌーブ先生は私を見つけると
「ファット ユア ネーム?」
といきなり私の名前を聞いてきた。
「マイネーム イズ アマーリア・フルフォード」
「おー、ユアネーム イズ アマーリア、そんな馬鹿な……あり得ない」
私がそう答えると、何故か一瞬私をまじまじと見て固まってくれたんだけど……驚いて呟いていたし、私が新入生だから判らないと思ったのかもしれないけれど、チート能力で私は先生の言葉は全て判った。私は先生の知り合いか何かなの? でもあり得ないってどういうことなんだろう?
「オー、ユアネーム イズ ビューティフル」
我に返るとビレヌーブ先生は必死に褒めてフォローしてくれたけれど、何か変だった。
「ハーイ、ライナー、スタンドアッププリーズ」
ビレヌーブ先生は話題を変えるためか早速ライナーを当てていた。
教科書を読んで訳せよと指示してくれたんだけど、
「ノー」
ライナーは何故か首を振った。
「オー、ノー。ライナーさん。あなた予習を忘れましたか」
いきなりビレヌーブ先生は私達の言葉を流ちょうに話してくれた。
知っていたら話しなさいよ! まあ帝国語は私は全て判るけれど
「イエス。プリーズ」
ライナーは都合の悪くなった日本人みたいにヘラヘラ笑って答えてくれた。何を忘れていて喜んでいるのよ!
私が思ったことをビレヌーブ先生も思ったみたいで、
「オーノー、ユーアーフーリッシュ?」
「イエス」
あんたは馬鹿なのって言われて頷いている馬鹿がどこにいるのよ。
先生が笑って皆どっと笑ってくれた。
でもライナーは馬鹿にされたのが判らなかったのだ。
私もここぞとばかりに一緒に笑ってやったのだ。
私の馬鹿にしたような笑みで初めてライナーは皆が自分を馬鹿にしたのが理解できたみたいだ。
ライナーは私を射殺しそうに睨んでくれた。
「ミスタービレヌーブ。ミス アマーリアチェンジ」
変な帝国語を使って私に代わろうとしてくれた。
「おー、ミズ、アマーリア。プリーズテルミー」
「ジスイズアペン、これは一本のペンです……」
私は教科書を読んで日本語に訳した。中学英語なんて簡単だったし、私は転生者だからギフトがあったみたいで、帝国後の読み書きは完璧に出来たのだ。私がすらすらと帝国語を読んで全訳していくのをライナーは唖然として見ていたのだった。
「ミズアマーリアイズエレガント」
手放しでビレヌーブ先生が褒めてくれた。
それに比べて、ライナーは何回も当てられていた。
果ては私に続いて教科書を読まされた。
「オーノー、ユウアーフーリッシュ! ミズアマーリアイズエレガント」
その度にビレヌーブ先生はライナーをけなして私を褒め称えてくれた。
ライナーの射殺しそうな視線が私に突き刺さってきたんだけど……
授業が終わって私はほっとした。
授業が終わると怒り狂ったライナーは取り巻きを連れて教室の外に出て行った。
「アミ、大丈夫なの? ライナーに睨まれるかもよ」
「えっ、私は先生の質問に答えただけよ」
エーレンが心配してくれたが私は問題はないと思った。
「ライナーは根に持つタイプよ」
「大丈夫よ」
エーレンが忠告してくれたが、もしなんかしてきたら返り討ちにすれば良いだけだから問題はないと私は思ったのだ。
「アマーリアは凄いな」
前の前の席のごついいかにも騎士志望ですという男が振り返って私に声をかけてきた。
「えっ、あなたは?」
「俺はアーベル。騎士志望だ。何かあれば俺も少しは手を貸すぜ」
アーベルと名乗った男はそう申し出てくれた。
「ええ、有り難う。その時は助けてもらうわ」
自分1人でもやれるとは思ったが、前世病弱ボッチで友達も全くいなかった私は助けてくれるという申し出は大切にしたかった。
そんな中、そそくさと私の前のハンナが教室の外に出て行った。
「大丈夫かな?」
そう呟くと私は慌ててハンナを追って外に出たのだ。
「ちょっとアミ、待ちなさいよ!」
エーレンの声を無視して慌ててハンナを探す。
そうしたら男達に囲まれているハンナがみえた。
「おい、ハンナ、お前ライナー様に恥をかかせてどういうつもりなんだ?」
「お前、お館様にここへ来るお金を一部出してもらっているんだろう」
「親父がこれを聞いたらどうするだろうな」
なんか男3人で震えるハンナを虐めてくれていた。
「申し訳ありません」
ハンナは必死に謝っていた。
「謝って済むなら騎士はいらないんだよ」
なんかヤクザみたいな事をライナーは言いだしてくれたんだけど。
もうハンナは震えているし涙目だった。
本来は関係のない私は黙っているべきだった。なんかハンナはライナーの関係者みたいだし……私がしゃしゃり出る幕でもないことも。そう、理性では判っていたのだ。
でも、私の感情がというか、私の良心が黙っていることを許さなかった。
「ちょっと、貴方たち、大の男3人で、何をか弱い女の子一人を虐めているのよ!」
私は思わず声をあげてしまったのだ。
平民の私が貴族の令息に!
ここまで読んで頂いて有り難うございます
正義感の強いアミは思わず叫んでしまいました。
貴族に逆らってただで済むのか?
早くも母の心配が当たってしまった……
続きは明朝です。
お楽しみに








