14.貴族の令嬢達に囲まれました
「やったなアミ!」
「凄いじゃない!」
皆が駆け寄ってくれて、私はクラスのみんなにもみくちゃにされた。
フェンスに激突したバッヘムは完全に気絶していた。
慌てて一年B組の面々が集まって、看護していた。
「やったわね。アミ、男爵に次いで子爵までやっつけるなんて! 次はついに伯爵令息ね」
能天気なエッダが好きなことを言ってくれるんだけど……
「そんなわないじゃない」
私は否定したが、別に伯爵令息でも問題ないとは思っていたけれど……
「もう一年B組なんて敵じゃないな」
「A組ですらアミなら勝てるんじゃないか」
皆好きに言ってくれるんだけど、私は出来る限りお貴族様と関わるなって母からは釘を刺されているのに!
「アミ、あんまり無茶するなよ」
訓練場を去ろうとしたときに、呆れたリックが声をかけてくれた。
「大丈夫よ、リック。できる限りお貴族様と関わるなってお母様にも言われているから」
私が言うと
「そ、そうか」
リックは少しショックを受けた表情をしていたけれど何でだろう?
「ねえねえ、アミ、あのイケメンは誰なの?」
リックが去って行った後エッダや周りの女の子が興味津々で聞いてきた。
「幼なじみのリックよ」
「幼なじみって、あんなイケメンと知り合いだなんて、何て羨ましい」
「えっ、そうなの。今度紹介してよ」
エッダ達が頼んできた。
「おいおい、俺たちがいるのに、何を言ってくれるんだ」
「そうだぞ。俺達だってイケメンだ」
男達が文句を言い出したが、
「あんた達は全然イケメンではないわ」
「そうよ。あのリック様と比べたら月とすっぽんって感じよ」
女達がたちまち否定したけど、
「まあ、平民のエッダでは中々難しいんじゃない」
ビアンカが一言で言い切ってくれたけれど、
「それはあなたもでしょ」
エッダが斬り返していたけれど……
でも、リックが貴族って本当だろうか?
もしそうならリックのお母様もお貴族サマったことになるけれど、貴族嫌いの私の母がお貴族様のお友達がいるなんて信じられないんだけど……
その後、クラスのみんなは一般食堂で盛大にお祝いをしてくれた。
「これでアミがいる限り、魔術大会は我がC組が制覇するのは確実ね」
エッダが何か言い出してくれた。
「魔術大会って何?」
「えっ、アミは知らないの?」
「もうじきあるクラス対抗魔術大会よ」
皆が魔術大会を説明してくれた。
各学年でやるクラス対抗魔術大会で毎年もうじき開催されるのだとか。魔術を競う大会でいろんな競技があるらしい。
「いわば体育祭みたいなものよ」
後でエーレンが教えてくれた。
「そうなんだ」
そんな大会があるんだ。前世体育祭とか運動会には参加できなかった私は俄然やる気になってきた。
「アミさえいれば一年A組さえ、問題ないぞ」
「そうだ。これでC組の天下取るぞ」
男達が騒いでくれて、一部周りから引かれていたけれど、
「よお、一年、俺達の分まで頑張ってくれよ」
ブックマーカー先輩が声援を送ってくれた。
何でもブックマーク先輩は6年のC組で、いつも魔術大会はA組とB組にボコボコにされているらしい。
「お前らもアミちゃんだけに頼っていては勝てないぞ。もっと訓練しないと」
ブックマーク先輩は親切にもアドバイスしてくれた。
そうか、魔術大会に勝つためにはもっと訓練しないと駄目なのか。
「ようし、明日からはアミを教師に俺達も頑張るぞ」
「えっ、私を教師にって私自身あまり出来ないのに」
私が断ろうとしたら
「アミが出来なかったら皆出来ないわよ」
「大丈夫よ。一年の中では絶対にアミがナンバーワンだから」
皆に言われて、結局私が教えることになったけれど、本当に出来るんだろうか?
皆でわいわい騒いでいる途中で私はトイレに行った。
その時だ。
「ちょっと、そこのあなた、良い気になり過ぎているんじゃありませんこと?」
私は制服を着た令嬢達の集団にいきなり囲まれてしまった。
皆飾りとかで結構着飾っている。これは貴族の令嬢の集団だろう。
な、何なの、一体これは?
これが令嬢達のかわいがりなんだろうか?
そうか、バッヘムの婚約者かなんかのお礼参りなんだろうか?
こんなの前世のゲームで体験しただけだ。現実の初体験で私はワクワクしていた。
「ちょっと、そこのあなた。何か言いなさいよ」
「ふん、良いわ貴方たち。高々子爵家のバッヘムに勝ったくらいでいい気になっているみたいだけど、私達A組に勝てるなんて想わない事ね」
真ん中の女が扇子を出してきた。
ほう、あれが扇子か。母は怒るとお箸やナイフが飛んで来たけれど、お貴族の令嬢は扇子で勝負するんだ。私は感心した。
「ちょっと黙っていないで何か言いなさいよ!」
今度はセンスの女がなんか言ってきた。でも、下手に話したら喧嘩を売ることになるし、あまり喧嘩を売るのは良くないはずだ。今まであまり守れていないけれど……男は一撃で倒せば良いけれど女は攻撃するわけにも行かないしここは黙っていようと思ったのだ。
「あなた、こちらのお方はフランツ・ヨーク公爵家嫡男の婚約者のカサンドラ・ボーゲン伯爵令嬢様なのよ」
取り巻きが説明してくれたが、うーん、なんか長い名前が出た。まあ、どうでも良いところは良いだろう。名前がカサンちゃんだっけ?
「あなた聞いているの?」
私が考えていたら、いらだったそのカサンちゃんが険しい視線を向けてきた。
「聞いてますよ。どこかの婚約者のカサン様でしょ」
「はああああ、どこかの婚約者じゃないわよ。一年A組のクラス委員長をされているフランツ・ヨーク公爵令息様の婚約者よ」
「あなた、一年で一番立場の上のフランツ様を知らないの?」
女達がキーキー言いだしたけれど、知らない者はしらない。
私はきょとんと顔を傾けた。
でも、ここで言うとまた面倒になるから黙っていたけれど……
「ちょっと、あなたおしなの?」
「カサンドラ様、お貴族様に囲まれてこの子も気が動転しているのかもしれませんわ」
「えっ、そんなのありうるの?」
疑り深そうにカサンちゃんは私を見てきたけれど、
私は一応コクコクと頷いてあげたのだ。
「ほら、そう頷いていますし」
「絶対怪しいわよ」
「まあまあ」
「まあ良いわ。あなたと一緒にいたらこちらまで調子が狂うわ。今度は気をつけるのよ」
「判ったわね」
女達はそう言うとケバケバしい女を先頭に嵐のように一団はさあっと去って行った。
何が言いたかったのだろう?
まあ良いか……私はホット息をついた。
「ちょっとアミ、大丈夫だったの?」
「ここで喧嘩を始めるかとビクビクしたわ」
令嬢達が去った後で慌ててビアンカ達が駆けつけてくれた。
「今の誰?」
「今の誰って、カサンドラ・ボーゲン伯爵令嬢でしょ。そう言っていたじゃない」
ビアンカが教えてくれたけれど、
「長すぎて」
「彼女は一年に一人だけいるヨーク公爵家の嫡男のフランツ様の婚約者よ」
「ふーん、そうなんだ」
私は全く関心がなかった。
「ちょっとアミ、ついに公爵家まで叩き潰すときが来たのね」
エッダが喜んで言いだしてくれたけれど、私はその時は全然そんなことは考えていなかった。
お貴族様は雲の上の人だから関係無いと端から決めていたのだ。
フランツとカサンドラとは長い付き合いになるなんてその時は全く思いもしなかったのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございます
アミの前に次々に現れるお貴族様
さて、どうなるのか?
続きは今夜です。








