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12.火魔術の授業でやり過ぎました

 次の日になった。

 私はエーレンとビアンカと一緒に朝食を一般食堂で食べて教室に向かった。


「おはよう」 

「おはよう」

 皆と挨拶しつつ、教室に入る。

 ライナーが来ていたのでほっとした。ちらっとそちらを見てやると慌てて目をそらしてくれたが……

「おはよう」

 前の席のハンナにも声をかけたけれど、こちらは無視してくれた。

 まあ、別に良いけれど……

 でも、なんか女友達に無視されるのは嫌だ。

 あまりしつこくして嫌われても嫌だから徐々に接していけば良いだろう。


 一時間目は担任の数学の授業でこれはサクッと終わった。


 二限目は魔術の実技だ。

 私は体操服に着替えて訓練室に行った。

 今日は火魔術の授業だ。

「アミは危険だからあまり火魔術は使わない方が良いだろう」

 とヨーゼフ先生にはあまり練習させてもらっていなかったから、どれだけ出来るんだろうとワクワクしていた。


「諸君、おはよう」

「「「おはようございます」」」

「我が輩は二年A組の担任で魔導公国出真のアッヘンバッハである。この国の国王陛下から火魔術の得意な者を派遣してほしいと我が公国に要請があり、我が輩が派遣されてきた。折角派遣されてきたからには手を抜くつもりはないのでその方等も懸命に努力するように」

 なんとも偉そうな態度でアッヘンバッハ先生は挨拶してくれた。

 まあ、口上はどうでもよい。教え方が上手いかどうかだ。

「それではその方等にはまずは火魔術の基本、火の玉、ファイアーボールを作ってもらおう」

「火魔術が得意な者はいるか?」

「はい!」

 ライナーが喜んで手を上げていた。


「よし、名前は」

「ライナーです」

「ではライナー、まずはファイアーボールを作ってくれたまえ」

「はい」

 ライナーがアッヘンバッハ先生の指示で前に出た。

 そして、詠唱を唱えだしたんだけど……

「火の神ヘパイストスよ。我が身に力を貸してくれたまえ。出でよ、ファイアーボール!」

 何なの? この大げさな詠唱は?

 私はあまりの仰々しさというか、前振りの長さに唖然としてしまった。

 吹き出さなかったのを褒めてほしい。こんな恥ずかしい言葉をよく言えたものだ。

 でも、周りを見ても皆笑っていないんだけど、何故に?


 両手を掲げたライナーの中にこぶし大のファイアーボールが出て来た。


「そうです。ライナー君。よく出来ました。頭の中で火の玉を思い描くことが大切です。詠唱もキチンと出来ていました。初心者は特にいい加減に唱えがちですが、神への祈りが大切なのです」

 アッヘンバッハ先生はそう教えてくれたが、今まで詠唱なんてやったことないんだけど……

 ヨーゼフ先生にしても母にしてもえいやっで終わりだった。


「では皆で一緒にやってみましょう」

「「「はい!」」」

「火の神ヘパイストスよ」

「「「火の神ヘパイストスよ」」」

 全員が先生の声に次いで唱えだした。

 私も仕方なしに口パクする。こんなこっぱずかしいことは出来ない。


「我が身に力を貸してくれたまえ」

「「「我が身に力を貸してくれたまえ」」」

「出でよ、ファイアーボール!」

 先生の掲げた手の中にライナーよりも少し大きいファイアーボールが出来た。


「「「出でよ、ファイアーボール!」」」

 皆の手の中も出来たものが半分くらい。大きさはまちまちだ。

「ル!」

 私は適当に最後だけ言うと小さいファイヤーボールが出来た。

 うーん、皆の声を聞いて笑いそうになったから小さいのしか出来ないんだろうか?


「はい、ではもう一度やってみましょう」

「「「火の神ヘパイストスよ……」」」

 全員詠唱を唱えだした。

 私は最後の「る!」

 だけ唱えてファイアーボールを出す。


「ル! ル! ル!」

 でも、全然小さいままだった。


「あれっ、うまく出来ないわね」

 私が首を傾けると


「アミ、詠唱していないからじゃないの?」

 エーレンが指摘してきたけれど、

「ええええ、そんなの恥ずかしいから嫌だ」

「あのね。無詠唱で出来るのは優秀な魔術師だけよ」

 ビアンカまで言いだしてくれるんだけど。

「何だ、平民女は出来ないのか」

 ライナーが馬鹿にしてきた。

「出来るわよ」

 私が叫んで作ったものは少しだけ大きくなっていた。


「ふんっ、そんなろうそくの火みたいなちっぽけなファイアーボールしか出せないなんて、どうしようもないな。あれだけの水魔術の使い手ならばどれほどのものを出すかと期待していたら、とんだ期待はずれだ。所詮平民女には平民女だな」

 と完璧に馬鹿にしてくれた。

 歴史や地理で馬鹿にされたのならばいざ知らず、魔術で馬鹿にされたのではたまったものではない。

 私はむかっとした。


「うーん、君はアマーリアか。ヨーゼフ先生が君にはあまり大きなファイアーボールを作らせてはいけないと注意してきたから、太陽ほどもある巨大なファイアーボールを作るのかと驚いたのだが、所詮ノルトハイムの魔術師の大変が、こんな吹いたら消えるようなファイアーボールだったとは笑止だな」

 そう言うと笑ってくれたのだ。


「判りました。そこまで言われるならやりましょう」

「アマーリア君、無理しなくても良いぞ」

「そうそう、所詮平民女だ。大したことは出来まい」

 あんたらには言われたくないのよ!


「おんりゃーーーー」

「おい、詠唱から違う…………」

 先生が注意してきたが、無視だ。

 私は全ての力を両手に集めて、巨大な太陽を思い浮かべた。


 ダン!


 私の頭の上に巨大なファイアーボールが出現した瞬間だった。


「「「えっ」」」

「「「キャーー」」」

 皆の声と女の子の悲鳴が上がる。


 やってしまった! 魔術を魔力全開で使ってはいけないとヨーゼフ先生にも言われていたのだ。


 こんなのが爆発したら王都とは言わないけれど、学園は確実に吹っ飛ぶ。


「囲え!」

 私は障壁で周りを囲んだのだ。


 ピカッ

 ドカーーーーン!

 ファイアーボールが閃光を発して爆発した。

 凄まじい爆発だ。私の障壁が悲鳴を上げたが、なんとか持ちこたえた。

 でも、上部を囲っていなかったので、訓練場の天井が吹っ飛んだ。


 凄まじい爆発音と悲鳴で大騒動になった。先生や騎士達も飛んで来て大変な騒ぎになった。


 私はその後苦虫を噛み潰したような学園長の前に呼ばれて延々と怒られたのだった。


規格外のアミでした。

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私のお話、ここまで読んで頂いて本当にありがとうございます。

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