1.母に引っ叩かれて前世の記憶が蘇りました
幾多の物語の中からこのお話見つけていただいて有難うございます。
パシーン!
私は母に思いっきり頬を張られた。
でも、母としては手加減したつもりだったのだろう。
母が本気になったら熊も一撃だって他の冒険者達が言っていたから。私は今なんとか立っているし……
でも、母に叩かれた事なんて今まで無かったのに!
私はとてもショックだった。
しかし、それどころではないことが起こったのだ。
引っ叩かれた瞬間、凄まじい量の前世の記憶が私の頭の中になだれ込んできた。
私は莫大な記憶の雪崩に巻き込まれて意識を失ってしまった。
私はアマーリア・フルフォード、12歳の平民だ。父はゲオルク、母はクリスティーネ。父も母もこの国境近くの街アンハームでは名の知られた魔術師だった。私が生まれるまでは2人で冒険者として活躍していたのだが、私が生まれてからは主に父が冒険者として生計を立ててくれていた。
そんな父は2年前に冒険に出て、魔物に襲われて死亡した。それ以来、今度は母が冒険者として生計を立ててくれていた。
私は母の代わりに家の中の料理・洗濯・掃除等全ての家事を1人でやっていた。
その日も食事を作って母の帰りを待っていたが中々帰って来ないので、心配して冒険者ギルドに迎えに行った。母が魔物にやられたかもしれないと心配したんじゃないわ。母はこの辺りでは無敵なの。古代竜くらいでないと母は苦戦しないと思う。
そんな母は何故か無性にブライドが高い。新参者が来て生意気なことを母に言って、ボコボコにされていたら可哀想だと心配して冒険者ギルドに見に行ったのよ。
そうしたら、隣の飲み屋にいると聞いて私は少しむっとした。
私が遅くなるときは必ず連絡するようにと言っておきながら、自分の時は連絡してこないなんてどういう事よ!
そこで飲み屋に行くと母のパーティーの面々が父のゲオルクが私の実の父だったならなあと仲間達と言い合っているのを聞いたのよ。
「アミちゃん!」
「いやこれは……」
固まる私を見て、メンバーは私に聞かれたのを知って慌てふためいた。
「どういう事なの? 私のお父様が実の父ではないって」
「いや、そのう……」
戸惑ったジムが口を閉ざした。
「どうかしたのかい、アミ?」
そこに席を外していた母が帰ってきた。
「お母様、2年前に亡くなった私のお父様が本当のお父様ではないって、どういう事なの?」
私は母に聞いていた。
「アミ、なんて事言うのよ。そんな訳ないでしょう。ジム、何てことを娘に吹き込むのよ!」
バシン!
「ギャッ」
次の瞬間私の前にいたジムさんは母に殴られて吹っ飛んでいた。
「キャーーーー」
ジムさんは隣の席に飛び込んで机ごとひっくり返っていた。
机の上に置かれていた食べ物が四散したが、私はそれどころではなかった。
「絶対にあなたの父親はゲオルクだから」
「でも、私が詳しく聞こうとしたら、皆急に黙り込んでくれたのよ。絶対に変じゃない?」
私がメンバーを見たら、
「いや、アマーリアちゃん。冗談だって」
「姉御、申し訳ありません。俺たち口が滑ってしまって」
「おい、ヨハン、何を言うんだ!」
ヨハンさんが、隣の男につつかれて、蒼白になる。
母の目は釣り上がっていた。これは後で母に殴られるなと私は思ったが、今はそれどころではなかった。
お父様はとても私に優しかった。私が何をしても怒らなかったのだ。いつも母に怒られていた私はそれがとても不思議だった。でも、それが今カチリとつながったのだ。
「そっか、やっぱりお父さんは私と血が繋がっていなかったんだ」
その瞬間だ。
「なんて事を言うんだい」
パシーン!
私が母に引っ叩かれた瞬間だった。
凄まじい前世の記憶が私の頭になだれ込んできた。
私はそれから高熱を発して三日三晩寝込んだのだ。
「アミ、アミ!」
と何故か泣き叫ぶ母の声や、
「アミちゃん大丈夫か?」
母のパーティーメンバーの声が頭の中をこだましたがそれどころではなかった。
私は前世、日本という国で本城亜美として生活していた。共働きの明るい母と真面目な父のもと育ったが、病弱でほとんど学校にも行けなかった。病院に入院しているか、家で一人でゲームをしているかのどちらかだった。病院は小学校の傍にあって病室からは元気に遊び回る子供達の姿がよく見えた。私もあんな風に遊びたいと子供心に思っていた。
私がいつ死んだのか判らなかったけれど、その辺りから先の記憶は無かったから、おそらく中学卒業できたか高校生くらいの年齢で死んだんだと思う。
私が目を覚ましてから、母は私にとても過保護になった。
まあ、今世、私は体だけは丈夫で風邪で寝込んだこともなかった。そんな私が三日三晩も寝込んだのだから、さすがの母も驚いたのだと思う。その原因も自分が私を張り倒したことだから、さすがの母も良心の呵責に耐えられなかったのだろう。冒険にも行かずに私に付きっきりになってくれた。でも、母の作るおかゆは何故か焦げていたし、焼いてくれた肉も焦げていて食べられたものではなかった。
私は単に知恵熱で寝ていただけだから、体自体は全く問題はなかった。目覚めたお昼から、早速家事に動き出した。私が家事出来るのも前世で一人で簡単なご飯くらい作れるようになっていたからだと思う。体が覚えていたのよ。カレーとかシチューとか……
家には母のパーティーメンバーや周りの住民からのお見舞いの魔物の肉や野菜やパンで山のようになっていた。
それを適当に選んで見舞いに来てくれて家事を手伝ってくれていたヨハンさん達の分も含めてスープを作る。
私は前から王都に出て魔術を教えてくれる王立魔術学園に行きたいと母に希望を伝えていた。
でも、母は許してくれなかった。小さい時から私に魔術を教えてくれて、家庭教師までつけてくれた母が反対してくれるとは私は思ってもいなかった。
「魔術なら私が教えるから十分でしょう」
母はそう言ってくれた。確かに母はこの辺境の地では随一の魔術師だったが、王都に行けばもっと凄い魔術師もいるはずだ。それに私は学園に行って、友達を作って切磋琢磨したかったのに!
なのにいくら頼んでも母は頷いてくれなかったの。何でここまで頑ななんだろう?
私は不思議だった。
私は魔力量も多いし、魔物も倒したことがある。学費にしても私が持っている魔石を金に変えればおそらく学費くらいにはなるはずだ。
貴族に絡まれたら大変だって言うけど、絡まれたら怒りが過ぎるまで我慢していたら良いと思うのだ。いきなり無礼討ちにされることもないと思う。いざとなったら逃げ出したら良いと思うし。私は鬼ごっこなら自信があった。
更に、私は前世の記憶が甦った。前世は学校に行きたくてもほとんど行けなかった。だから友達もほとんどいなかった。運動会とか遠足とか学芸会とか皆と一緒にやりたかったのに!
だから、今世では、ジムさんとかヨハンさんのような年上の知り合いじゃなくて、同い年の友達がほしかった。
私は皆にスープを出した後、私が元気になってほっとした母にもう一度頼んでみようと思った。
いくら母でも、高熱を出して寝込んだ後の私の頼みは聞いてくれるだろうともくろんだのだ。
ここまで読んでいただいて有難うございます。
今日は全部で3話更新しようと思います。
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