92話 一緒に
ドクトルの事件について、あれこれと事後処理があって……
一週間後、ようやく落ち着きを取り戻すことができた。
ドクトルを始めとした、冒険者協会の幹部の数人が逮捕。
代わりに、クリフとその他数人が幹部へ。
これからどうなるか?
まだ不明なところはあるけど……
でも、クリフなら、今まで以上に組織を良くしてくれると思う。
そう思わせてくれるだけの力と熱意を感じられた。
そして、久しぶりの平穏を取り戻した僕達は……
――――――――――
「うぅ……」
街へ出ると、アイシャが僕の後ろにぴたりとくっついた。
落ち着きなく尻尾を揺らして、あちらこちらに視線を飛ばしている。
「どうしたの、アイシャ?」
「……」
「ピタリとくっつかれると、ちょっと歩きづらいというか……」
「……」
「うーん?」
アイシャの犬耳は垂れ下がり、尻尾も落ち着きがない。
「フェイトってば、ちょっと女心がわかってないわねー」
「女心は、少し違うと思いますが」
ソフィアと、その頭の上にいるリコリスがそんなことを言う。
察しが悪い、ということだろうか?
うーん?
そんなことを言われても……
あ、もしかして。
「人混みが怖いのかな?」
アイシャはひどい目に遭ってきた。
人間不信に陥っていていてもおかしくはないし……
だから、外が怖いのかもしれない。
でも、こういう時はどうすれば?
えっと……
「アイシャ、手を出してごらん」
「?」
「ほら」
ちょっと強引だけど、アイシャの手を握る。
「どうかな? こうして、誰かと手を繋いでいると安心できると思うんだけど」
「あ……」
「じゃあ、私は反対側の手をいただきますね」
そう言って、ソフィアもアイシャと手を繋ぐ。
さらに、リコリスはアイシャの肩に移動する。
「あたしは、さすがに手を繋ぐとか無理だから、こうして近くにいてあげる」
「どうかな?」
「……ん」
ぎゅっと、繋いだ手に力が込められる。
それから、
「あり……がとう」
アイシャは、にっこりと天使のように笑った。
――――――――――
今日、街へ出たのは、アイシャの服を買うためだ。
今はソフィアの服を着せているものの、サイズが合っていないからぶかぶかだ。
それに、アイシャは獣人だから、スカートなどに尻尾用の穴を開けてもらわないといけない。
そんなわけで街の服屋にやってきたのだけど……
「どう……かな?」
「はぁあああ、か、かわいいです! すごくかわいいです! ものすごくかわいいです!」
「あり……がと」
「アイシャちゃん、アイシャちゃん。次は、こちらの服を着てみてくれませんか? こちらは、このアクセサリーとセットで。その後は、このリボンとセットにした服を……」
ソフィアが目をハートマークにして、暴走していた。
そう……アイシャはかわいい。
庇護欲をそそられるというか、天使が降臨したというか……
とにかく、人の心を捉えて離さない。
剣聖であろうと、ソフィアに対抗する術はない。
一瞬でアイシャの虜になったらしく、あれこれと服を着せている。
「えっと……ソフィア? あれこれと選んでも、後で大変になると思うんだけど」
「問題ありません! 全部、買えばいいんです」
「え、全部買うの?」
「もちろんです!」
「……まあ、いいか」
先の事件を解決したことで、それなりにお金に余裕はある。
それに……
アイシャは、今までおしゃれをすることができなかった。
その分、今、たくさん楽しんでもいいと思う。
「じゃあ、僕もアイシャに似合いそうな服を探そうかな?」
「はい、そうしましょう」
「え、と……」
アイシャが困ったような感じでリコリスを見るのだけど、
「諦めなさい。この二人、似た者同士だから、こうなったら止まらないわ」
リコリスは、どこか呆れたような感じで、そう言うのだった。
「それにしても……」
アイシャのための服をソフィアと一緒に選んでいると、ふと、リコリスの声が聞こえてきた。
「こうしていると、まるで家族みたいね」
「家族?」
「ええ。フェイトが父親で、ソフィアが母親。で、アイシャが娘」
「それは……」
アイシャには本当の家族がどこかにいるはずだ。
リコリスの感想は悪いものなのかもしれない。
……でも。
「そう見えたのなら、うれしいな」
僕とソフィアとアイシャ。
その三人が家族に見えると言われて、僕は、素直にうれしいと感じていた。
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