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89話 絆の力

「バカなっ……バカなバカなバカなバカなぁあああああっ!!!?」


 ドクトルが狂ったように叫び、魔剣をでたらめに振るう。


 音を超えるような速度。

 しかも、一撃でも喰らえば即死という威力。


 かなりの脅威ではあるのだけど……

 不思議と、僕は負けるイメージが思い浮かばない。


 それはやはり、ソフィアと一緒だからだろうか?


「フェイト!」


 ソフィアが僕の前に聖剣を割り込ませて、ドクトルの攻撃を防いでくれる。

 かと思えば、


「ソフィア!」


 僕がソフィアの肩を軽く押して、ドクトルの攻撃範囲から逃がす。


 互いが互いのことをフォローする。

 その上で攻撃のタイミングを重ねて、連撃を叩き込み、押し込んでいく。


 一人でドクトルと対峙した時は、なんていう強敵だと、恐怖した。

 もしかしたら負けるかもしれないと、諦めかけた。


 でも、今は違う。


 ソフィアがいれば、なんでもできるような気がした。

 彼女と一緒なら、どこまでも手が届く。

 ドクトルでさえ敵じゃない。


 さあ……彼女と一緒にいこう!


「いいわよ、その調子よ! 二人共、やっちゃいなさい……ストレングス、その2!」


 リコリスの声援と共に、再び身体能力強化魔法がかけられた。

 再び体が軽くなる。

 それは、ソフィアも同じ。


 僕達は攻撃の手をさらに加速させて、ドクトルを追い込んでいく。


「ぐっ、うぅ……おおおおおぉっ!!!」


 ドクトルも負けじと魔剣を振る。

 さらに黒い霧を展開させて、多面攻撃をしかけてきた。


 でも、それはもう何度も見た。


 剣聖であるソフィアに、そんなずさんな攻撃、何度も通じるわけがないし……

 その弟子のような立場である僕も、そんな攻撃にいつまでも引っかからない。


 魔剣は受け止めて、黒い霧は避けて……

 そして、カウンターを叩き込む。


 ドクトルがぐらりとよろめいた。

 その隙を逃すことなく、追撃を叩き込む。

 ソフィアもまた、強烈な一撃を叩き込む。


 なんていうか……

 不思議な感覚だ。


 言葉を交わしていないし、目も合わせていない。

 それなのに、ソフィアが次になにをするか、なにを考えているか、手に取るようにわかる。

 僕は、それに合わせて剣を振り……

 そして、的確に攻撃が決まる。


 幼馴染だからこそなせる技だろう。


 僕はニヤリと笑う。

 ソフィアもニヤリと笑う。


 共に確信していた。

 この戦い……僕達の勝ちだ。


「この私が、こんな、こんなところでぇえええええっ、ふざけるな、ふざけるなぁあああああっ!!!」


 絶叫のような怒声と共に、ドクトルは魔剣を高く掲げた。

 今までにない黒い霧があふれだして……

 そして、それらが再び魔剣に戻る。


 いや。

 吸収しているのだろうか?

 黒い霧が収束されて、魔剣が巨大化する。


 数倍のサイズになり……

 そして、それを一気に叩き落とす!


「フェイト!」

「了解!」


 対する僕達は慌てることなく、冷静に行動した。

 あれだけの攻撃を防ぐことは難しい。

 かといって、回避したらリコリスとアイシャが巻き込まれてしまう。


 ならば……力を合わせて迎撃するのみ!


「神王竜剣術……」

「壱之太刀……」

「「破山っ!!!」」


 再びの合体攻撃。

 しかし、今度はリコリスの魔法がかけられている状態なので、威力は桁違いだ。


 二つの斬撃が、巨大な漆黒を打ち砕く!


 さらに、


「そこからの……」

「もう一撃!」

「「神王竜剣術・壱之太刀、破山っ!!!!!」」


 連撃。

 タイミングは完璧。

 そして、剣を失ったドクトルに防ぐ術はない。


「このようなことでぇえええええっ!!!!!」


 ドクトルは諦めることなく、なおも悪あがきを続けようとするが、


「いいや、終わりだよ!」

「私とフェイトの大事なものに手を出した報いを受けてもらいます!」


 ソフィアと一緒に剣を押し込んだ。

 必死に防ごうとしていたドクトルだけど、完全に詰んでいた。


 どうすることもできず、僕とソフィアの合体攻撃をまともに受けて……

 その身にまとう鎧を粉々にしつつ吹き飛び、壁に叩きつけられた。


 ビシリ! と、壁に蜘蛛の巣状のヒビが広がる。


「がっ!!!?」


 肺の空気、全部を吐き出すかのような悲鳴。


 ドクトルは白目を剥いて……

 そのまま、ガクリと全身の力をなくし、床に倒れた。


「……」


 もしかしたら、こちらを油断させるための演技かもしれない。

 そう思い、剣を構えたまま様子を見るのだけど……


「大丈夫……かな?」

「はい、そうですね」


 ソフィアが剣を収めるのを見て、僕も雪水晶の剣を鞘に収めた。

 小さな吐息を一つこぼして、


「やったね、ソフィア」

「はい、私達の勝利です!」


 ソフィアと笑顔でハイタッチを交わした。

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【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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