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88話 誤算

 ドクトル・ブラスバンドは己の勝利を疑っていなかった。


 相手は、駆け出しの冒険者と剣聖。


 フェイトの能力は驚くものがあるが、しかし、敵ではない。

 むしろ、脅威は剣聖。

 その力、その聖剣……一対一でやりあっていたら、もしかしたら条件次第では負けていたかもしれない。

 それだけの力を持つ。


 しかし、自分は魔剣を持つ。


 聖剣と対なす存在。

 特定の条件下において、聖剣以上の力を発揮する。


 魔剣があれば、どのような相手でも負けることはない。

 例え、剣聖を上回る存在……剣神であろうと。


 そう思っていた。

 そうでなければならないはずなのに……


「くっ……!?」


 ソフィアが先行する形で、まずはドクトルと切り結ぶ。

 何度も何度も斬撃を交わして……


 時折、フェイトが援護の斬撃を放つ。


 まるで、二人の意思が一つに統一されているかのような。

 それほどまでに絶妙なタイミングだ。


 念話を交わす魔道具でも所持しているのか?

 ドクトルは、ついついそんなことを考えてしまうが、すぐに自分で否定した。


 そのような貴重品を所持しているなんて情報、得ていない。

 仮に所持していたとしても、このような激戦の中でいちいち念話を交わして、攻撃のタイミングを打ち合わせするなんてことは不可能だ。

 そんなことをしても動きがうまく噛み合うことはないし、絶対にズレが生じる。


 だとしたら……


 二人は念話でやりとりすることなく。

 事前に打ち合わせをすることもなく。

 まったくのぶっつけ本番で、これだけの連携を見せているということになる。


 フェイトとソフィアの絆の力と言うべきか。


 予想外の力に、ドクトルは少しずつ少しずつ追いつめられていくが……

 彼を本気で驚かせるのは、これからだった。


「はぁ!!!」


 フェイトの斬撃を受け止めつつ、ドクトルは「なんだ?」と怪訝に思う。


 フェイトの攻撃の回数が増えていた。

 今までは、ソフィアが十回斬撃を繰り出す合間に、一度の攻撃だったのだけど……

 それが二度、三度……と、時間が経つにつれて攻撃頻度が増している。


 最初はソフィアがフェイトのために、攻撃の機会を譲っているのだと思っていた。


 しかし、よくよく考えてみれば、そんなバカなことをするわけがない。

 稽古ならいざしらず、今は真剣勝負。

 殺し合いなのだ。

 そんなことをする余裕があるとは思えないし、そこまでのバカでもないだろう。


 ならば、なぜ?


 ドクトルは二人と剣を交わしつつ、考えて……

 そして、恐ろしい事実に思い至る。


(まさか……成長しているのか!?)


 フェイトは戦いの中で成長している。


 ただの成長ではない。

 ソフィアやドクトルに迫るような勢いで、急速な勢いの成長。


(ばかなっ、ありえない!?)


 戦いの中で成長するという話は聞いたことがある。


 しかし、フェイトのそれは異常だ。

 この短時間で、自分に迫るほどの力を身につけるなんて……


 それを才能と評するのならば、とんでもないものになる。

 数万人に一人の逸材。


 いや。

 数十、数百……

 数千万人に一人の割合の逸材だろう。


 世界で一人だけではないだろうか?


(くっ、私としたことが見誤るとは……!)


 真に警戒するべきは、剣聖のソフィアではない。

 驚くべき速度で成長するフェイトだったのだ。


 そんなドクトルの考えを裏付けるかのように、フェイトは、ソフィアと同じ頻度で攻撃を繰り出していた。

 最初は、合間を見て攻撃するしかなかったのに……

 同じ頻度で攻撃するだけの力を身につけている。


 先に殺すべきはフェイトだったのだ。


(まずいまずいまずいっ……!!!)


 ドクトルは内心で焦る。


 ソフィア一人なら、どうにかする自信があった。

 そこに未熟なフェイトが加わったとしても、なんとかできる自信があった。


 しかし、だ。


 フェイトが急成長するという事態は、まるで想定していない。

 完全な誤算だ。


 二人の猛攻に耐えられなくなり、ドクトルは次第に押され始めた。

 敵の剣撃が重い。

 特に、フェイトの剣が重い。

 一撃一撃を交わす度に手が軽く痺れてしまうほどだ。


(このようなガキ共に、この私が……そんなこと認めん、認められるかっ!!!)


 ドクトルは心の中で吠えた。


 そして、全力のさらに全力……

 限界を超えた力を引き出して、二人を迎え撃つ。


 ……それが失敗だった。


 フェイトは相手の力を吸収するかのように、強敵を相手にすればするほど成長する。

 ならば、ドクトルが全力を超えた全力を出せばどうなるか?


 もちろん、その分成長する。


 そして……

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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