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74話 ごめん

 広い部屋の奥に壇が設けられていて、そこに明かりが集中していた。


 照らされているのは、ボロ布だけを着せられた女性や幼い子供達。

 首輪と手枷、足枷をつけられた状態で並ばされている。


 その手前に、椅子に座り、ニヤニヤと笑う人達が。

 いずれも宝石などを身に着けていて、自分はお金をたくさん持っているぞ、とアピールしているかのようだ。


「二万!」

「二万五千!」

「いや、私は五万だ!」


 ここがオークション会場で間違いないだろう。

 歪な熱気に包まれていて、欲望が渦巻いていて……

 吐き気を催すほどにおぞましい、と感じる。


 壇上にいる人は、僕達と同じ人間なのに……

 それなのに、物のように扱い、踏みにじろうとする。

 かつての自分の境遇を思い出して、胸の奥から熱いなにかがこみ上げてくる。


「っ……!!!」


 奴隷らしき女性の人は、声を出すことなく静かに泣いていた。

 子供達は怯えて、涙目になっていた。


 それを見た時、僕の中でなにかがキレた。


「……ソフィア、リコリス」

「はい」

「クリフへの連絡は?」

「もうしておきました」

「確か、準備があるから、突入まで三十分くらいかかるのよね?}

「そうですね、そう聞いています」


 事前の打ち合わせでは……

 クリフ達の突入に合わせて、僕達も内部から攻撃を開始。

 アイシャや他の人達の安全を確保しつつ、ドクトルやファルツの確保、という流れだった。


 そういう計画になっていたのだけど……


「……ごめん。僕は、三十分も我慢できないかも」


 こんな光景を見せつけられて、じっと耐えることなんてできない。

 一分でも一秒でも早く、あの人達を助けたい。

 自由にしなければならない。


 そんな使命感と……

 こんなものを企画するドクトル達と、参加する客達に対する怒りと……


 色々な『熱』がこみ上げてきて、心を強く突き動かす。


 雪水晶の剣の柄に手をかける。


「僕は、今すぐにあの人達を助けるよ」

「それでいいの?」


 リコリスが厳しい顔をして問いかけてきた。


「計画を乱すようなことをしたら、ドクトルに逃げられちゃうかもしれないわよ? そうしたら、また同じことが別の場所で起きるかもしれない。それなのに、いいの?」

「……リコリスの言うことは正しいよ」


 考えて考えて考えて……

 それから、答えを出す。


 僕の答えは、やはり変わらない。


「でも、女性が泣いているんだ。子供が泣いているんだ。それを見過ごすことはできない。大義のためだから、もう少し苦しい思いをしてほしい、我慢してほしいなんて、そんなこと言えるわけがないよ」

「……ふふんっ」


 その答えを待っていたと言うかのように、リコリスがニヤリと笑う。


「良い返事ね。そういうの、あたしは嫌いじゃないわ」

「それじゃあ……」

「あたしはフェイトに賛成。協力してあげる。人間のことは、まあ、どうでもいいんだけど……この光景は、さすがのあたしもムカつくわ」

「ソフィアは……」

「私の答えなんて、最初から決まっていますよ」


 ソフィアも剣の柄に手を伸ばした。


「私は、フェイトが望むことに力を貸して、全部を叶えます。それが、私がやりたいことですから。使命と言ってもいいですね。それに……」


 ソフィアの目尻が吊り上がり、殺気をまとう。


「このような非人道的な行為、断じて見逃すことはできません。即座に叩き潰さないといけません。全員、叩き切りたいです」

「お、落ち着きなさいよ? 許せないのはあたしも同じだけど、皆殺しはさすがに……」


 ソフィアが放つ殺気に、リコリスがちょっと引いていた。


「冗談です。証言なども必要でしょうから、殺しはしません」

「ほ……」

「半年、入院コースですね」

「それはそれで、どうなのかしら……?」


 バイオレンスな幼馴染だった。


 まあ、気持ちはわかるというか、同じなのでなにも言わない。

 止めることもしない。

 むしろ、やっちゃえ、という気持ちだ。


「リコリスは僕と一緒に。あの人達を助けた後、保護することはできる?」

「んー……たぶん、平気よ。あたしは、なんでもできる万能ミラクルアイドルリコリスちゃんだもの。結界を張ることもできるわ。ただ、フェイトやソフィアみたいなのが出てきたら、さすがに持ちこたえられないけど」

「そちらは、私に任せてください。警護や用心棒など、全て斬ります」

「……さっきも言ったけど、手加減はしなさいよ?」

「気が向けば」


 ソフィアの機嫌が少しでも良くなることを祈ろう。


「まずは、すぐにこの場を制圧。それから、アイシャの救出。余裕があれば、ドクトルとファルツの確保。それでいいかな?」

「はい」

「いいわ」

「よし、それじゃあ……」


 アイコンタクトを交わす。

 それから、心の中でカウントダウンスタート。


 3……

 2……

 1……


「今っ!」


 合図を口にしつつ、僕は間の通路を一気に駆け抜けて、壇上に乱入した。

引っ越しの影響で、少し作業が追いつかず……

金曜日の更新はお休みさせていただきます。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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