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58話 突き進む

 でたらめな軌道を描きつつ、リコリスが宙を飛び、こちらに迫る。

 時折、魔法を使い、攻撃をしかけてきた。


「敵を正気に戻すはずが、自分が操られて戻ってくるなんて!?」

「というか、リコリスがテイムされるなんて、彼女は魔物なのでしょうか……? 腹黒いところもあるから、そこで同じものと判定された……?」

「とにかく、なんとかしないと!」


 リコリスは洞窟内の高いところを飛んで、散発的に攻撃を繰り返している。


 さっき、彼女自身が言っていたことだけど、強力な魔法は使えないらしく、その攻撃はあまり脅威じゃない。

 ただ、こちらから手を出すことはできないし……

 下手に手を出しても、手加減できず、バッサリ……なんていうことになってしまうかもしれない。


 これは、どうしたら?


「キャキャキャ!」

「腹の立つ笑い声ですね……操られているとはいえ、モヤモヤします」

「リコリスに悪気はないから……」

「ええ、わかっています。なので、すぐに終わらせることにします」

「え?」


 ソフィアが駆けた。

 ……地面ではなくて、壁を駆けた。


 そのままの勢いで、逆さになり、天井を駆けて……


「はい、終わりです」

「ピャ!?」


 リコリスをキャッチして、再び地面に戻る。


「ムキャー! キキャー!」

「暴れないでくださいね。下手に動いたら、うっかりと握りつぶしてしまいそうです」

「ピッ……!?」


 ソフィアが脅しをかけると、リコリスはおとなしくなる。

 操られていても、生存本能的なもので危機感は覚えるらしい。


「それにしても、冗談でも握りつぶすなんて言うと、ちょっとびっくりしちゃうよ」

「え?」

「え?」


 ……


「リコリスの洗脳、いつ解けるんだろう?」


 聞かなかった、見なかったことにして、話を先に進める。


「テイマーを倒せばてっとり早いのですが……おそらく、最深部にいるでしょうから、すぐにというわけにはいきませんね。時間経過でも元に戻るかもしれませんが、それなりの時間がかかると考えていいかと」

「うーん……安全を優先したいところだけど、あまり時間をかけると、もしかしたら逃げられちゃうかもしれないね」


 非常時の脱出通路が他にないとも限らない。

 盗賊団なんてもの、逃がすわけにはいかないし……

 そもそもの話、討伐に失敗したら、ドクトルに接触する機会を失ってしまう。


 二度と機会がないわけじゃないと思うけど、できることなら、敵に余裕を与えないためにも、あまり時間はかけたくない。


「このまま突き進もうか。ソフィアは、リコリスをお願い」

「はい、わかりました。私なら、片手が塞がっていても、大して問題はありませんから」

「頼もしいね」

「ふふっ、フェイトのために鍛えた力を褒められるのは、とてもうれしいです」

「そんなソフィアの期待に応えるために、僕も精一杯がんばるよ」


 雪水晶の剣をしっかりと構えて、いつでも動けるように警戒しつつ、僕が前衛に立つ。

 ソフィアは後衛だ。


 前衛を務める僕が失敗をすれば、ソフィアにも危害が及ぶかもしれない。

 そう思うと緊張するのだけど……

 でも同時に、がんばらないと、というやり甲斐も感じた。


 大好きな女の子のために、男を見せる時。

 そう考えると、絶対に奮闘しなければ、という気持ちになる。


「よし、行こうか!」

「はい」


 世界で一番頼りになるパートナーと共に、ダンジョンの最深部へ向かう。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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