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51話 不審な影

「よし、なんとか倒すことができた」


 これでスタンピードも収まるはず。

 ソフィアなら心配はいらないと思うんだけど……

 それでも、気になるものは気になる。

 早く戻ろう。


「ふらひれはらぁ……」

「どうしたの、リコリス?」

「フェイトが速く動きすぎるから……酔ったわ。おぇ……」

「ご、ごめん!?」


 慌ててリコリスを下ろして、その小さな背中を指先でさする。


「大丈夫?」

「やばい……マジでやばいわ……おぇ」

「水、飲む?」

「今、そんなものを飲んだら……うえっぷ」


 うわぁ……

 リコリスが、とても人様には見せられない顔に。


 困ったな。

 早く街に戻りたいけど、でも、リコリスに無茶はさせられない。

 ここで少し休憩をして……


「……うん?」


 ふと、違和感を覚えた。


 周囲を見回す。

 ゼフィランサスとの戦いで、あちこちが荒れている。

 ただ、普通に考えて、違和感を覚えるようなものは見当たらない。


 見当たらないのだけど……


「……」


 針で刺されるような感覚。

 見られている。

 それと、敵意をぶつけられている。


 わずかなものだから、勘違いとか気のせいとか思ってしまいそうだけど……

 間違いない。

 過去の経験から、危機感知能力には長けているので、この敵意を見逃すことはない。


「そこだ!」


 ブーツに仕込んである投擲用のナイフを放つ。

 ナイフは少し離れたところにある木に刺さる。


「ひっ!?」


 見つかるとは想っていなかったらしく、驚きの声が。

 そのまま、ダダダッと足音が遠ざかっていく。


 うーん、外したか。

 まだまだ精進しないと。


「追いかけたいところだけど、リコリスを置いていくわけにはいかないし……うん?」


 ひとまず声がしたところを調べてみると、誰かの足跡が。

 大きさからして、たぶん男のものだろう。


 それと……


「なんだろう、これ?」


 手の平サイズの水晶球が落ちていた。

 占い師がよく使うような、アレだ。


 ただし、澄んだ色ではなくて、黒一色。

 夜の闇を凝縮したかのようで、禍々しささえ感じる。


「うーん? さっぱりわからないけど……でも、どう見ても大事なものだよね。今回の事件に関わっているかもしれないし、持ち帰ろうかな」


 水晶球を荷物袋にしまう。

 すると、


「うぅ……ふぇ、フェイトぉ……」

「リコリス?」


 とても弱々しいリコリスの声。

 もしかして、さっきの怪しい人影がリコリスのところへ!?


 慌てて戻ると、


「あたし……もう、ダメ……えろえろえろ」

「うわぁ!?」


 リコリスがどんな結末を迎えたか?

 それは、本人の名誉のために口にしないことにした。




――――――――――




 街の手前に戻り、唖然としてしまう。


「え? なに、これ……」


 魔物の死体、魔物の死体、魔物の死体。

 あちらこちらに魔物が倒れていて、とんでもない惨状になっていた。


 ただ、街がピンチかというと、そういうわけではないらしい。

 魔物は全て討伐されているらしく……

 たくさんの人が魔物を解体して素材を集めて、残りを順次、焼却処分している。


 スタンピードの跡なんだろうけど……

 でも、魔物の数は五千くらいのはず。

 これ、どう見ても五千は超えているんだけど……


「フェイトっ!!!」

「うわっ」


 聞き慣れた声に振り返り……

 直後、ドンッ、とした衝撃があり、そのまま押し倒されてしまう。


「フェイト、大丈夫ですか!? 怪我はしていませんか!? 気持ち悪くないですか!? 無茶はしていませんか!?」

「えっと……ただいま、ソフィア」

「おかえりなさい、フェイト」

「僕なら大丈夫。ちゃんと女王は倒したよ」

「はい、それはわかりました。途中で、一気に魔物の勢いが衰えたので。ただ、怪我などをしていないか心配で……本当に大丈夫ですか? 無理をしていませんか?」

「心配いらないよ。ただ……」

「やはり、どこか怪我を!?」

「……リコリスが大変なことに」

「え?」


 ソフィアが勢いよく抱きついてきた衝撃で、リコリスがぽーんと放り出されて……


「おぇ……」


 ぐったりとした様子で地面に転がっていた。

 酔っているせいで、飛ぶことができなかったらしい。


「あっ!? す、すみません。大丈夫ですか、リコリス?」

「あんた……今のあたしを見て、大丈夫とか……目、悪いんじゃないの……?」

「本当にごめんなさいっ!」

「やあやあ、なにやら賑やかだけど……無事に戻ってきたようでなによりだ。それと、女王の討伐、おつかれさま」


 クリフが姿を見せた。

 朗らかな笑みを見せているのだけど、あちらこちらに魔物の返り血がある。

 きっと、ソフィアと一緒に激戦を潜り抜けたのだろう。


「大丈夫だったかい? 怪我はしていないみたいだけど……まあ、見た目で判断するのは危険だからね。治癒師を手配するから、後で診てもらうといいよ」

「ありがとう。ところで、ちょっと気になるものを拾ったんだけど」


 暗闇の水晶球を取り出す。

 ギルドマスターのクリフなら知っているかもしれない。


「これ、クリフはなにか知らない?」

「コイツは……」


 クリフの表情が険しいものになる。

 それを見て、また厄介事が舞い込んできたのかな? と、今後の展開を想像して困ってしまう僕だった。

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