495話 大所帯の移動は楽しいけど大変
「今日はこの辺りで休みましょう」
陽が暮れ始めたところで、隣を走るフェンドリックさんの馬車から、そう声をかけられた。
御者台に座る僕は頷いて、馬車を止める。
それから中にいるみんなに声をかけて、野営の準備を始めた。
――――――――――
「はい、みなさん、できましたよ」
「「「おおおぉーっ!!!」」」
ソフィアが料理を作り、それに目をキラキラと輝かせて喜ぶのは、フェンドリック商会の人達だ。
料理ができる人がいないらしく、一番上手なソフィアが担当をすることが多い。
「嬢ちゃん、あんたの料理は最高だ!」
「こんなうまい料理、食べたことないわ!」
「後でコツを教えてちょうだい!」
ソフィアは料理が上手。
商会の人達の胃袋を掴んだらしく、一気にみんなの人気者に。
褒められて悪い気はしないらしく笑顔だ。
「フェイトは美味しいですか?」
「うん、すごく」
「アイシャちゃんは?」
「おかーさんのりょうり、好き!」
「リコリスとレナは?」
「ふふん。この天才美少女グルメレポーターのリコリスちゃんを満足させるなんて、なかなかね!」
「うん、美味しいね! これ、ハマっちゃうかも」
「……」
「どうしたの? ぽかーんとして」
「あ、いえ……まさか、レナに素直に褒められるとは思っていなかったので」
「心外だなー。ボクだって、褒める時は褒めるよ。料理に罪はないからね。あーん♪」
レナは笑顔で料理を食べる。
こういう素直なところは、正直、可愛いと思う。
……この調子で、二人は良い友達になれないかな?
なんて、そんなことを期待してしまう。
――――――――――
ご飯を食べた後は片付けだ。
商隊の人がお礼に片付けをすると言ってくれたものの……
人数が人数なので、さすがに任せるのはどうかと思い、みんなで一緒にやることにした。
食器を洗い。
生ゴミは、動物が近寄ってこないように地中に埋めておいた。
言葉にすると簡単だけど……
商隊の人達を含めると、数十人。
それだけの人数の後片付けは大変で、かなり時間がかかってしまった。
「はふぅ……」
「リコリスちゃん、限界ぃ……」
お手伝いをしてくれたアイシャとリコリスは、疲労からかとても眠そうにしていた。
ソフィアが馬車の中に連れて行ってくれる。
僕とレナは外に残り、火の番と、獣や魔物などの警戒だ。
商隊の人達も一緒なので、わりとのんびりできる。
「へえ、そうなんですか」
「ああ。俺等は、北へ南へ、商売のために大陸中を旅しているのさ」
「なら、色々な美味しいものを知っていそうだよねー」
「おいおい、気になるところはそこなのか? まあ、知っているけどな」
話が盛り上がる。
今日、知り合ったばかりだけど……
でも、不思議と楽しく、旧来の友達のように話すことができた。
商人だから、話術が得意なのかな?
「でも、これだけの大人数だと大変じゃないですか?」
「そうだな。すごく大変だ。でも、楽しいからな」
「そうですね、ちょっとわかります」
「ボクらも、こういう旅をしてみたいね」
一人じゃなくて。
複数でもなくて。
大人数の旅は、大変だけど楽しい。
そんな経験をして、新しい発見をした日だった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
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『おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~』
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