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45話 作戦開始

 翌日の早朝。

 陽が登ると同時に作戦が開始された。


 魔物であろうと、基本的に夜は寝る。

 ただ、スタンピードとなると、ほぼほぼ全ての魔物が興奮状態に陥り、日夜関係なく暴れ続ける。

 そのため、時間帯による奇襲は無意味だ。


 奇襲を考えることなく、こちらが万全の状態で戦える時間帯を選んだ。

 故に、早朝。

 太陽の光を背に戦い……

 長時間の戦闘になったとしても、問題がない。


「はっ、はっ、はっ……!」


 僕は森の中を駆けていた。


 今、街は大量の魔物が迫り、最大のピンチを迎えている。

 でも、心配はしていない。


 あそこにはソフィアがいる。

 最強無敵の剣聖がいる。

 彼女の守りを突破して、街に害を及ぼす魔物なんているわけがない。

 安心して任せることができる。


 だから……

 僕は、僕の役目をきちんと果たさないといけない。


「そこっ、右! それから五分くらいまっすぐ進んだ後、左へ!」

「了解!」


 肩に乗るリコリスのナビゲートで、森の中を進む。

 彼女によれば、この奥にスタンピードの元凶となる、女王がいるらしい。


 みんなが持ちこたえている間に、女王を倒す。

 絶対に失敗はできない。

 必ず成功させてみせる!


「最後よ、ここをまっすぐ、五百メートルくらい進んだところに女王の反応があるわ。他に魔物はいないと思うから、まっすぐに駆け抜けなさい」

「オッケー!」

「それと、あまり気負わないように」

「え?」

「あんた、めっちゃ気負って緊張してるじゃない。どうせ、失敗したらどうしようとか、そんなこと考えてるんでしょ?」

「それは……」

「やめやめ、そういう暗い考えはやめましょ。失敗しても、まいっか、ってくらい気楽にいかないと。じゃないと、とんでもないところでミスするわよ」

「……」


 なんていうか、目からウロコが落ちた気分だった。

 大役を任されたのだから、それ相応の責任感を持たないといけないと思っていたのだけど……


 でも、リコリスはそんなものはいらないという。

 それよりも、気負わずいけという。


「うん、ありがとう」

「ふふん、良い顔になったじゃない」


 リコリスのおかげで緊張がとれた。

 これなら、うまくやることができそうだ。


 残り三百メートル。

 僕はまっすぐな足取りで、一気に駆け抜けた。




――――――――――




 スタンピードの核となる魔物は女王と呼ばれているが、その魔物が産卵などをしているわけじゃない。


 魔力を含む鉱石を偶然口にした。

 過酷な生存競争を勝ち抜いた。

 他者の介入で力を得た。


 ……などなど。

 特別な要因により力を得た魔物のことを、女王という。 


 女王は他の魔物にはない、強烈な魔力と闘気をまとっていて……

 その力に惹かれてやってきた魔物を、圧倒的なカリスマで従える。


 魔物の頂点に立つ。

 故に、女王。


 調査班の報告によると、今回のスタンピードの核となった女王は、ラフレシアという魔物らしい。

 見たことはないけど、知識はある。

 植物タイプの魔物で、巨大な花に無数の蔦が生えているとか。


 その力は圧倒的。

 Sランクに分類される魔物で、毒を使いこなし、たくさんの冒険者が犠牲になってきたという。


「この辺りよ」


 リコリスの案内で、森の中にぽっかりと空いた広場に出た。

 魔物の姿は見えないけど……


「うん、間違いなくここにいるね」


 魔物が放つ瘴気が満ちていた。

 ちょっとでも気を抜けば気絶してしまいそうなほど濃厚な瘴気で、長く留まっていたら、病気にかかったり体調を崩してしまうかもしれない。


「どこにいるのかしら? 反応は、確かにここからするんだけど」

「うーん……隠れているのかな? 隙をうかがっているとか?」

「女王なのに、ずいぶん小心者なのね」

「女王だからこそ、慎重になっているのかも」


 女王は強いだけではなくて、賢い。

 自分が生き延びるために、囮を用意したり人質をとるなど、普通の魔物は絶対にとらないような行動を取る。

 今回も、なにかしら罠があるのかもしれない。


「……」


 自然と緊張感が増していく。

 ピリピリと空気が張りつめる。


 僕は雪水晶の剣を抜いて、いつでも動けるように構えた。


「リコリス、絶対に僕から離れないで」

「大丈夫よ。ちゃんと紐でくくりつけて、落ちないようにしているから」


 それは、大丈夫なのかな……?

 僕と魔物の間に挟まって、押しつぶされてしまうこともあると思うんだけど。


 でも、空を飛ぶ魔物もいるし、上空が安全地帯というわけじゃない。

 そのことを考えると、やっぱり、僕の傍が一番安全なのかな?


 ただ……


 危険を犯してでも僕についてきて、サポートしてくれたリコリスには感謝しかない。

 スタンピードを解決したら、なにかおいしいものをごちそうしよう。

 確か、妖精ははちみつが好きだったはず。

 こんな甘い匂いがするはちみつを探して……


「って、甘い匂い?」


 いつの間にか、濃厚な甘い匂いが周囲に漂っていた。

 突然のことに驚いて、最大限に警戒をする。


 すると……


「っ!?」


 ガァッ!!! と地面が爆発して、そこから巨大な魔物が姿を見せた。

 その魔物はラフレシアに似ているものの、しかし、違う魔物だった。

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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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