440話 次の街へ
街と街を繋ぐ馬車に乗り、カタカタと小さく揺られる。
聞こえてくるのは車輪の音と、鳥の鳴き声。
街道は平和なもので、魔物や盗賊に襲われることなく、旅は順調に進んでいた。
「ねえねえ、フェイト」
さっきまでアイシャと遊んでいたリコリスだけど、今度は僕のところに飛んできて、ぽん、と頭の上に乗る。
「あたし達、次はどこに向かっているの?」
「え、知らないの?」
「知らないわよ。そういう面倒なことは、全部、フェイト任せだし」
たまにだけど、リコリスの人生設計が心配になる。
適当で、勢いに任せすぎではないだろうか?
「目的地は、ソラスフィールですよ」
「そらすふぃーる?」
「知識の街と呼ばれているところですね」
ソラスフィールには、大小合わせて百以上の図書館が建ち並んでいるという。
世界中の知識が集められて。
ありとあらゆる知恵が集結して。
その街で得られないものはないと言われているほど。
それに惹かれ、たくさんの人が訪れて。
冒険者達もやってきて。
そうして発展してきた街なのだという。
……ということを、先日、ソフィアから教えてもらった。
僕と再会する前、色々な街を渡り歩いて、ソラスフィールにも滞在したことがあるらしい。
それはレナも同じで……
「知識の街って呼ばれてるけど、堅苦しい感じはしないかな?」
「そうなの?」
「うんうん。色々な人がやってくるから、そういう人向けの観光業も発展しているからねー。美味しい食べ物とか、綺麗な宿とか、たくさんあるよん」
「おぉ!」
リコリスの目がキラキラと輝いた。
わかりやすい。
「おー!」
アイシャの目も輝いていた。
こんなところは似ないでいいんだけどなあ……
リコリスがいると、教育に悪いのかもしれない。
「ソラスフィールなら、マシュマロのこと、紋章のこと、色々とわかるかもしれませんからね」
今の僕達は、特に目的のない旅をしている。
幼い頃、ソフィアと約束をしたように、冒険者になって世界中を旅したいと思う。
ただ……
マシュマロのことを放っておくわけにはいかない。
もしかしたら、重大な事が隠されているかもしれない。
黎明の同盟の時のように、大事件に発展するかもしれない。
そんな可能性を考えたら、調べないわけにもいかず……
次の目的地をソラスフィールにした、というわけだ。
「ソラノファールまで、何日かかるの?」
「ソラスフィールだよ。えっと……2週間くらいだったような」
「けっこう長いわね……リコリスちゃん、ヒマで退屈死しちゃいそう」
「大丈夫ですよ。ヒマなんて感じないほど、たくさん仕事を与えてあげますからね」
これからも旅を続けるだろう、ということで、思い切って馬車を買った。
五人プラス二匹が余裕で乗れるだけのスペースがあって。
たくましく強い馬で。
さらに、荷物を乗せるスペースもある、豪華な馬車だ。
黎明の同盟の件で、けっこうな額の報酬をもらった。
節約は大事だけど、冒険者を辞めるわけじゃないから、後生大事にとっておく必要はない。
なので、思い切って大きな買い物をしてみた。
御者はいないから、自分達で馬車を操らないといけない。
食料の確保や火の番も同じ。
やることはたくさんだ。
「うっ、お腹が……」
「仮病はダメですよ。そんなことをする悪い妖精は、ごはん抜きです」
「そんなぁ!?」
「というわけで、リコリスはレナと一緒に、食料を集めてきてください」
「ほらほら、行くよ。妖精ちゃん」
「ういー、仕方ないわねぇ」
そろそろ日が暮れる。
夜の移動は危険だから、この辺りで野営かな?
「私は火を起こしたり、魔物よけの結界を構築しておくので、フェイトは水を汲んできてくれませんか? たぶん、この先に川があると思うので」
「うん、了解。でも、よく川があるなんてわかるね?」
「旅に慣れているので、そこは経験ですね。大体のことは、周囲の地形でわかります」
なるほど。
僕も、早くソフィアの域に達したいと思う。
剣の腕はそれなりに、って思っているけど……
その他は、まだまだなんだよな。
「よし、がんばろう!」




