434話 自らの手と足で
戦いは終わり。
屋敷の一部が壊れたり、庭が吹き飛んだり……
色々と大変なことになっていたけど、なんとか穏便に済ませることができた。
周囲の住民には、調理用の魔石が暴発した、と説明をしておいた。
兵士が出動した件は、賊が現れた、ということにしておいた。
偽装のため、兵士は賊を探しに行くことになるけど……
まあ、それでなんとかなるのならよし。
手間をかけてしまうけど、そこは我慢してもらうしかない。
そうやって、ひとまずの後処理は終わり……
翌日。
改めて、僕達はナナカと話し合いをすることになった。
「どうぞ」
メイドさんが淹れてくれた紅茶を飲む。
「……」
「……」
互いに言葉はない。
ちょっと気まずい。
話し合いをすると決めたものの……
改めて場を設けると、なにから話していいかよくわからないのだ。
昨日まで本気で争っていたから、尚更、気まずい。
とはいえ、黙っていても仕方ない。
「えっと……ナナカは、怪我とかしていない?」
「え? ……あ、はい。魔力を消費したので、少し体がだるいですが、それくらいでしょうか」
「そっか、よかった」
「……なぜ、私の心配を?」
「え? それは……なんでだろう?」
「……ふふ」
ナナカがくすりと笑う。
「やはり、フェイトさまは優しいのですね。そんな方だからこそ、私は負けた。ですが、負けてよかったのでしょうね……」
「なぜ、あのようなことをしようとしたのですか? 教えてください」
ソフィア達には、昨夜のうちにあらかじめ事情を説明しておいた。
ただ、ナナカの動機などについてはわからない。
その部分は、今日、改めて突き合わせるしかない。
「……私の先祖は、偉大な領主でした。元々、オーシャンホエールは、なにもない街でした。漁業で生計を立てていたものの、常に一定量の収穫があるわけではなくて、貧しい方だったと聞いています。それを憂いた先祖は、他の収入を確保しようとしました」
「それが……もしかして、観光業?」
「はい。港を整備して、他に、観光客を呼び込むために海岸を整備して……宿や遊興施設も増やしました。それと、様々な宣伝も行いました。最初は、借金をしていました。本当にうまくいくのだろうか? 不安に思う人はたくさんいましたが……」
「でも、うまくいった」
今や、オーシャンホエールは国内外に名を響かせる一大観光地だ。
年中、観光客がやってくる。
その足が途絶えることはない。
領主の仕事は詳しくないけど……
なにもかもうまくいっているような気がした。
それなのに、今更、なにをするというのだろう?
「うまくいっている。それは、とても嬉しいことなのですが……しかし、それは先祖の功績であって、私のものではない。私はなにもしていない。ただ、偉大な先祖が作り出したものを守っているだけ」
「それは、とても立派なことだと思いますが……」
「……そのようなことはありませんよ。守ると言えば聞こえはいいですが、それは実質、なにもしていないのと変わりありませんから」
ナナカは自嘲気味に言う。
そんなことはない、と思うけど……
でも、それは外野の意見なのだろう。
ナナカにしかわからない苦悩があるんだと思う。
「それに、オーシャンホエールも常に安定しているわけではありません。災害などに見舞われた場合、どうしても減衰してしまいます。そういった時に備えて、もっと発展させる必要がありました。余裕が欲しかったのです」
「それで、聖獣を……?」
「……はい」
聖獣を贄とした結界。
それを展開すれば、オーシャンホエールはさらなる発展を遂げるだろう。
災害などに見舞われることもないだろう。
でも、それは……
「気持ちはわからないでもないけどさー。それ、また魔獣を生み出すことになるよ? 王都の事件、知らないわけじゃないでしょ」
「……」
ナナカは気まずそうに視線を落とした。
「わかっていました。わかっていたのですが……それでも私は……」
「……ナナカ……」
「人は、どうしてこんなに弱いんでしょうね……?」
寂しそうに。
悲しそうに。
悔しそうに。
ナナカは、ぽつりと呟いた。




