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431話 どうにかこうにか

「リコリス、あれは……」

「無理!? 無理無理無理っ、あんなの防げないからね!?」

「だよね……」


 魔法に詳しくない僕でも、やばい、と本能で理解できる代物だ。

 防ぐとなると、相当に厳しいだろう。


 かといって、避けることも難しい。

 あれだけの巨大な火球となると、攻撃範囲はとても広い。

 初見の魔法なので、どこまでが効果範囲か見極めることも難しく……

 ここなら大丈夫だろう、というような賭けに出るようなことはしたくない。


「フェイト、どうするのよ!? このままだと、あたし、黒焦げ美少女リコリスちゃんになっちゃう!」

「リコリスは、リコリスだねえ」


 こんな時でも、しっかりと美少女を外さないリコリスの言葉に、どこか安心感すら覚えた。


「大丈夫」

「え?」

「僕の作戦……っていうほど作戦じゃないんだけど、それは、うまくいったみたいだから」

「なによ、それ? どういう……」

「散ってください」


 ナナカが魔法を放つ。


 巨大な火球が迫る。

 それは、太陽が落ちてくるかのようで……


「「はぁあああああっ!!!」」


 力強い声。


 ザンッ!


 宙をなにかが駆けて……

 そのなにかが繰り出した斬撃が、巨大な火球を一刀両断した。


「なっ……!?」


 まさか、魔法を『斬る』人がいるなんて思っていなかったのだろう。

 ナナカの動揺した声が響く。


「フェイト、大丈夫ですか!?」

「怪我してない!? ボクがぎゅーって抱きしめてあげようか!?」

「こらっ、どさくさに紛れてなにを言っているんですか!?」

「ボクは本気だよ! ボクの愛の力で癒やしてあげるのさ」

「ぐぐぐ」

「むむむ」


 うん。

 ソフィアとレナはいつも通りだった。


 二人なら、ナナカが差し向けた兵士をほどなくして片付けて、援軍に来てくれる。

 そう信じていたので、僕は、それまで耐えるだけでいい。


 本音を言うと、僕だけでなんとかしたい、という思いもあったけど……

 そこはプライドの問題。

 そんなものよりも、事件解決を最優先にしないと。


「おとーさん!」

「オンッ!」

「にゃん」


 アイシャが駆け寄ってきた。

 スノウとマシュマロもすり寄ってくる。


 最初は、マシュマロが可愛がられて嫉妬もしていたスノウだけど……

 今ではすっかり仲良しだ。


「どうして、剣聖がここに……? あなた達には、百を超える兵士を差し向けたはずですが……」

「あれくらいで私達を止められるとでも? 十倍は欲しいところですね」

「3分でのしてあげたけどねー。甘い甘い、激甘だよ」


 ソフィアとレナは得意そうに言って、ちらりとこちらを見た。


 うん。

 僕にいいところを見せたいんだと思うけど……

 その意図がすぐにわかってしまったので、なんとも複雑で残念な気持ちだ。


「ま、まさか……ただの兵士ではなくて、私が吟味した精鋭だというのに。剣聖の力は、これほどまでに……くっ!」


 でも、ナナカは諦めてくれない。

 退いてくれない。


「ですが、ここに聖獣達がいることは好都合! 巫女もいます! 私は……私は、全てを手に入れてみせます!!! 今度こそ、失わないためにっ!!!!!」


 ナナカは、再び巨大な火球を生み出してみせた。

 それは、さきほどよりも大きい。


 さっきは、あれでも手加減していたらしい。

 たぶん、周囲に被害を出さないように配慮していたのだろう。

 でも、今はその枷を外した。

 思い切りの……全力を出すのだろう。


「フェイトは、アイシャちゃんとスノウ。マシュマロをお願いします」

「あのわからず屋の女は、ボク達がお仕置きしてあげる♪」

「うん、お願いするよ」

「ふぃー……リコリスちゃん、危機一髪」


 アイシャ達を背中にかばい、なにが起きても対応できるように身構えた。

 この子達を守る。

 なにがなんでも。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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