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41話 一緒に来ない?

「はい、これがフェイトとソフィアが探していた、あたし達妖精が鍛えた剣よ」


 リコリスが案内してくれた先に、一振りの剣があった。


 刀身は水晶のように透明で、宝石のように綺麗だ。

 ただ、脆いという印象はなくて、逆に力強く感じた。


 柄はシンプルなデザインで、使い勝手を重視しているのかもしれない。

 宝石が一つ、セットされている。


「あら、とても綺麗な剣ですね」

「ふふーん、そうでしょそうでしょ。なにしろ、あたし達妖精が鍛えた剣だからねー」

「これ、名前はなんていうの?」

「雪水晶の剣よ。名前の通り、雪水晶っていう鉱石を材料にしているの」

「まんまだね」

「切れ味はけっこうあるんじゃないかしら? あと、かなり頑丈で、よほどのことがない限り折れたり刃こぼれすることはないわ。壊れたとしても、勝手に修復されるみたいよ」

「自己修復機能なんてものがあるのですか? それはすさまじいですね……フェイト、私にも見せてくれませんか?」

「うん、どうぞ」


 ソフィアに雪水晶の剣を渡した。


 「これは……」「なんて綺麗な刀身」「切れ味はなかなか……」なんていう独り言が聞こえてきた。

 そんなソフィアの目は、子供のようにキラキラと輝いている。


 剣聖だから、剣が好きなのだろうか……?

 そういえば、メインに使うエクスカリバーだけじゃなくて、他にも色々と剣を持っていたっけ。


「あの、フェイト。お願いがあるのですが……」

「うん? なに?」

「たまにでいいのですが、この剣、貸してくれませんか? じっくりと眺めたくて……あとあと、手入れは私にさせてもらえるとうれしいです!」

「えっと……うん、それくらい別にいいけど」

「ありがとうございます!」


 幼馴染の意外な一面を知るのだった。


「ありがとう、リコリス。雪水晶の剣、大事に使わせてもらうよ」

「ええ、そうしてちょうだい。あたし達妖精が人間に贈り物をするなんて、滅多にないんだからね? 感謝してよ」

「うん、ありがとう」

「え? いや、その……ありがとうとか、本当にそんなこと言わないでよ。本来なら、あたしがそう言う立場にあるんだから。まったくもう、気が効かない人間ね」

「えっと……なんで僕、怒られているの?」

「ふんだっ」


 リコリスは頬を膨らませつつ、ぷいっと顔を背けてしまう。

 ただ、その頬は赤い。


 照れ隠し?


「あ、そうそう。せっかくだから、他のお宝も持っていっていいわよ」

「え?」

「ここに置いていても、埃を被らせるだけだもの。なら、有意義に使ってもらった方がいいわ」

「えっと……」


 ソフィアと顔を見合わせる。


 僕に任せます、という感じでソフィアは小さく頷いた。


「リコリス」

「なに?」

「うれしい話だけど、遠慮しておくよ」

「え? なんでよ。ここにあるお宝、けっこうなレアものよ? 全部売れば一生遊んで暮らせるし、二人は冒険者なんでしょ? 冒険に役立つものもたくさんあるわよ」

「でも、リコリスと友達が一緒に集めたものなんだよね?」

「あ……」

「二人の思い出を持ち出すようなこと、できないよ」

「……バカなんだから」


 そんなことを言いながらも、リコリスはどこかうれしそうにしていた。

 鈍いと言われることのある僕だけど……

 なんとなく、彼女の性格を掴むことができた。


 素直じゃないけど……

 でも、とても優しい妖精なのだろう。


 そんなリコリスと、これからも一緒にいたいと思う。

 そう思った僕は、気がつけば口を開いていた。


「ねえ、リコリスはこれからどうするの?」

「んー、どうしようかしら? ここにあるお宝を使って、今度こそ、侵入不可能な結界を展開してお墓を守って……その後は、適当に旅でもしようかしら? あたし、ずっとこのダンジョンにいたから、そろそろ外が恋しいのよね」

「なら、僕達と一緒に行かない?」

「は?」


 リコリスの目が丸くなる。

 それから、体全体を傾けて、全身で疑問をアピールしてみせる。


「どういうこと?」

「いや、そのままの意味だけど」

「あたしが、フェイトとソフィアの仲間になる、っていうこと」

「うんうん、そういうこと」

「……はぁ?」


 ものすごく呆れた顔をされてしまう。

 言葉にしないものの、あんたバカ? と言われているかのようだ。


「あんたバカ?」


 あ、言われてしまった。


「妖精が人間の仲間になるなんて、聞いたことないわ。ありえないでしょ。そもそも、あたし達妖精は、人間のせいで数が減ったのよ? そんな人間の仲間になんて、なると思うの?」

「うーん……そう言われてみると、そうかも」

「考えてなかったわけ……?」

「思いつきみたいなものなんだ。リコリスと一緒なら、きっと楽しい旅ができるだろうな、っていう。それと……」

「それと?」

「一人よりは二人。二人より三人。旅は、たくさんいた方が楽しいと思うんだ。一人は……寂しいよ」

「……」


 リコリスは再び目を丸くして……


「あはははははっ!!!」


 大爆笑。


「オッケー、オッケー! うんうん、いいわ。フェイトってば、最高なんだけど。こんなおもしろい人間、初めてかも」

「フェイトですからね」


 なぜか、ソフィアが誇らしげになる。

 そんなソフィアにリコリスの視線が移動した。


「ソフィアは、あたしが一緒でいいの?」

「はい。リコリスと一緒なら、とても楽しいと思います」

「ふーん……フェイトと二人きりじゃなくてもいいの?」

「それは、正直悩ましいですけど……ですが、リコリスなら歓迎ですよ」

「ふーん」


 ちょっと考える仕草を見せて……

 それから、リコリスはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。


「それって、あたしが妖精だから安心してる、ってこと? フェイトをとられる心配はない、とか?」

「……そのようなことはありませんよ?」

「今の間はなにかしら? でも、まあ……」


 リコリスは、ふわりと飛んで、僕の隣に。

 そして、そっと顔を寄せてきて……


「んっ」


 頬にキスをしてしまう。


「えっ」

「なぁっ!!!?」

「くふふ」


 リコリスは悪人のような笑みを浮かべて、ソフィアは愕然とした。


「あたしも、これくらいのことはできるんだけどねー?」

「……フェイト。そこの悪い虫を切り捨てようと思うので、少し離れてください」

「あはははっ、余裕がぜんぜんないじゃない。そんなんで、あたしが一緒にいても平気なのかしら?」

「やっぱり、リコリスは一緒に来てはいけません。反対です!」

「だーめ。もう遅いんだから。すごく楽しそうだから、あたしも一緒してあげる」

「フェイト! リコリスをここに封印して、立ち去りましょう!」

「ふふっ。これからよろしくね、フェイト。ソフィア♪」


 にっこりと笑うリコリス。

 ひとまず……

 これから騒がしい日常を迎えることになりそうだ、と苦笑する僕だった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] リコリス・・どこかの作品の妖精の「ルナ」を彷彿とさせるな・・。「〜なのだ!」みたいな雰囲気漂うね。面白くなってきたな。
[一言] 便利な妖精(収納庫)を手に入れた! ……あれ?この妖精は収納魔法使えないの?(´・ω・`)
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