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379話 果てしない憎しみの中で

「オォオオオオオオオ!!!」


 魔獣ジャガーノートが二度、吠えた。

 それは自身の誕生を知らせる産声のようだ。


 咆哮に飲み込まれるかのように王都から音が消えた。

 誰もが立ち止まり、空の彼方……

 王のように君臨したジャガーノートを呆然と見つめている。


 でも。


 すぐに悲鳴が王都を覆い尽くす。


 ゴッ……ガァアアアアアッ!


 ジャガーノートが炎を吐いた。

 それはドラゴンのブレスに匹敵……いや、それ以上の威力を持つ。

 超高熱の炎は、もはや極大魔法と同じだ。

 瞬間的に無数の建物が吹き飛び、たくさんの命が失われた。


 それは開戦の合図だ。


 己を誇示するかのように、ジャガーノートが三度吠える。

 そして、王都に住む人々は恐慌状態に陥り、我先に逃げ出した。




――――――――――




 目を覚ましたら人間の街の中にいた。

 長い眠りについている中で街が拡張されて、いつの間にか人間の活動範囲内に収まっていたのだろう。


 なんたる不愉快。

 なんていう屈辱。


 まさか人間がすぐ近くにいる状態で眠っていたなんて。

 大嫌いなものがすぐ近くにある。

 考えるだけで腸が煮えくり返るかのようだ。


 でも、ちょうどいい。

 都合がいい。

 これなら、すぐに人間を殺すことができる。

 街を壊すことができる。


 全てを奪われた。

 なら、奪い返してもいいだろう?

 そうやってプラスマイナスゼロにするのが道理というものだろう?


 遠慮はいらない。

 慈悲も情けもいらない。

 必要なのは、この身を焼くほどに激しい憎しみだけ。

 それがあれば他はいらない。


 噛み砕いて。

 叩き潰して。

 燃やし尽くして。

 思う限りの暴虐を繰り広げていこう。

 それこそが成すべきこと。

 魔に堕ちた者に残された、唯一の使命なのだから。


「ガァアアアアアッ!!!」


 空に吠える。


 自分はここにいる。

 再び大地を踏んでいる。

 故に、人間を殺そう。

 それこそが自分の正義なのだから。


 そうして、災厄となった魔獣は蹂躙を始めた。

 始めようとしたのだけど……


「やめろっ!」

「やめなさいっ!」


 二人の人間がジャガーノートの行く手に立ちはだかる。


 その人間の名前は……

 フェイト・スティアート。

 ソフィア・アスカルト。

 今を生きる人間で、そして、誰かのために戦うことができる剣士だった。

新作始めてみました。

『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』

こちらも読んでいただけると嬉しいです。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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