365話 怖いけど……
「……あ……」
どこをどう歩いてきたのだろう?
そして、ここはどこだろう?
気がつけば、僕は見知らぬ場所にいた。
王都のどこかであることは間違いないけど、場所がさっぱりわからない。
「いたっ」
ふらついて転んでしまう。
でも、鞘に入ったままの剣は離さない。
反射的に抱えていた。
でも……
「僕は……僕には、この剣は必要なのかな……?」
心が折れてしまったという自覚があった。
ゼノアスと戦い、剣を交わして……
そして、恐怖に負けた。
どうやっても勝てない。
死ぬのが怖い。
逃げるしかない。
そして、僕は逃げて……
どこをどう移動したかわからなくて、今、ここにいた。
「……」
疲れた。
疲れ果てた。
その場に腰を下ろして、剣を抱く。
その上で膝を抱えるようにして座った。
「……みんな……」
ソフィア、リコリス、アイシャ、スノウ、レナ、エリン、クリフ……
今、なにをしているんだろう?
いや、考えるまでもない。
たぶん、黎明の同盟と戦っているはずだ。
詳細な相手は想像できないけど、王都を守るために戦っていると思う。
それなのに僕は、こんなところで一人、膝を抱えて丸くなっている。
なんて情けない。
でも……動くことができない。
足が震えていた。
手が震えていた。
体に力が入らない。
怖い。
怖い。
怖い。
「あんな相手……どうやって戦えばいいのさ……」
どうすることもできない。
僕は身を縮こまらせて……
ドォンッ!!!
「え?」
ふと、少し離れたところから轟音が聞こえてきた。
なにかが爆発するような音。
ただ、魔法や火薬の類じゃないと思う。
なにか物を思い切り叩きつけたような音だ。
「……ゼノアス……」
すぐに彼の仕業ということを理解した。
一度剣を交わしたからこそ、そのことがよくわかる。
誰かが戦っている。
ソフィア? それとも、レナ?
誰なのかわからないけど、命を賭けて戦っている。
「……僕は……」
ふと、我に返った。
死にたくない、負けたくない、失いたくない。
でも、ここで丸くなっていたらなにも意味がない、奪われるだけだ。
なにかを守りたいというのなら立ち上がるしかない。他に方法はない。
ソフィアのことを想う。
彼女の笑顔を思い浮かべると、それだけで力が湧いてくるような気がした。
折れたはずの心が元に戻っていくような気がした。
「そうだ……こんなことをしている場合じゃない。思い切り負けた。殺されるところだった。怖い、すごく怖い……でも、大事な人を失うことの方がもっと怖い。それに比べたらなんだ。死ぬくらい、どうってことない。それよりもっと怖いことがあるんだ。絶対に避けないといけないんだ。なんとかするんだ。だから……だから!!!」
僕は剣を手に立ち上がる。
「僕は、戦う!!!」




