312話 突入
「いきます」
「ああ、いつでも」
顔を見合わせて、頷く。
それから、心の中でカウントダウン。
3……
2……
1……
「「っ!!」」
心の中でゼロを刻むと同時に、僕とアルベルトは物陰から飛び出して、一気に駆けた。
同時に抜剣して、その切っ先を敵に向ける。
「なっ!?」
「こいつら、どこから!?」
「敵……がっ!?」
最初にアルベルトが飛び出した。
彼は必要最小限の動きで剣を振り、兵士の足を斬る。
兵士はぐらりとよろめいて……
そこに追撃の蹴りが顔に叩き込まれて、そのまま気絶した。
残り二人が慌てて武器を構えるけど、遅い。
僕は一人目の懐に潜り込む。
ゼロ距離で剣の腹で殴りつけて、二人目に向けて吹き飛ばした。
二人はもつれあって倒れて……
そこを狙い打撃を叩き込み、意識を刈り取る。
「ふう」
うまくいってよかった。
敵だけど、仕方なく領主の味方をしているだけかもしれない。
そう考えると、できるなら命は奪いたくない。
甘いって言われるかもしれないけど……
でも、これが僕だ。
「このまま中へ突入しよう」
「あ、ちょっと待ってください」
ぐるりと倉庫を回り……
ところどころにある扉の前に廃材を置いて、開かないようにしておいた。
逃亡防止だ。
窓から飛び降りたりしたら防ぐことはできないけど、なにもしないよりはマシだろう。
「おまたせしました」
「君は色々と機転が効くね。逃亡防止とか、考えていなかったよ」
「ソフィアのおかげです。彼女には、色々なことを教えてもらいましたから」
「……なるほど」
そう言うアルベルトは、どこかまぶしそうな顔をしていた。
ただ、すぐにキリッとした真面目な表情になる。
「私は領主を探す。危険を押しつけてしまい申しわけないのだけど、フェイトは、魔剣を使う者を頼めるかい?」
「わかりました、やってみます」
レナクラスの魔剣使いが出てきたら、けっこうまずいかもしれない。
ただ、そこまでの圧は感じないし……
出てきたとしても、なんとかしてみせる。
こんな状況、放っておくことはできないからね。
「では、いこう」
「はい」
「もう一度、カウントダウンをして……」
と、その時。
ゴガァッ!!!
轟音と共に倉庫の扉が吹き飛んだ。
「なんだ!?」
「魔法による爆発? でも今の感じは……」
なにが起きてもいいように剣を構える。
アルベルトも、油断なく扉の先を注視する。
すると、吐いてしまいそうになる嫌な匂いが漂ってきた。
「この匂いは……」
「血……なのか?」
一人分の血で、これだけ濃厚な死の匂いはしない。
数十人分の血の匂い、死の気配。
そして……
「ふむ、来客か」
漆黒の剣を持つ男が姿を見せた。




