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303話 作戦会議

「まずは、感謝を述べさせてもらいたい」


 翌日。

 僕達はアルベルトに呼ばれて、大きい客間に集まった。


「ソフィア・アスカルト殿。フェイト・スティアート殿。リコリス殿。アイシャ殿。スノウ殿。私の無茶な要請に応えていただき、深く感謝したい。ありがとう」


 アルベルトは一人一人の顔をしっかりと見て、最後に頭を下げた。


 貴族は民の上に立つ者だ。

 そうそう簡単に頭を下げてはいけないし……

 プライドが高く、そんなことができない者も多い。


 でも、アルベルトは違う。

 彼は真摯に僕達に向き合ってくれている。


 ……なんか、彼に嫉妬していた自分がひどく小さな存在に思えてきた。


「現在、この街は父の……いや、グルド・ヒルディスの圧政で悲鳴をあげている。民は苦しみ、財は溶けて、人々は他の街へ逃げている。このような状況を放置したら、どれだけの涙が流れることか……それを止めるため、あえて、私は罪を犯そうと思う」


 革命とか、救世とか。

 そんな良い言葉を使わないで、あえて悪い言葉を使う。

 そこにアルベルトの性格が現れているような気がした。


 それに比べたら僕は……


 って、ダメだダメだ!

 色々と思うところはあるけど、でも今は、目の前のことに集中しないと。

 協力するって決めたんだから、迷惑をかけないようにがんばろう。


 やるべきことはやる。


「それ、具体的にどうするのです?」


 ソフィアがそんな質問を投げかけた。


 アルベルトは、前々から今回の計画を考えていたみたいだ。

 でも、詳細を知らされていない僕達は、自分の役割を知らない。


「グルドが悪事に手を染めていることは間違いない。その証拠を掴むことができれば、領主の座を蹴落とすことも可能だろうが……それはしない」

「時間がかかるから、ですね?」

「ああ、その通りだ」


 まっとうな手段を取れば、必ず領主を追い落とすことはできる。

 それだけの悪事を積み重ねている、と聞く。


 ただ、それでは遅い。

 どうしても時間がかかってしまうから、その間に、どれだけの人が苦しむか……


 それを許せないからこそ、アルベルトは簒奪という最終手段に出ることにした。


「取るべき方法は一つ。そして、とても単純なもの……クーデターだよ」

「……」


 とても物騒な話に、自然とこちらの気持ちが引き締まる。


 ちなみに、アイシャとスノウには聞かせられない話なので、最初の挨拶を終えた後、二人は部屋の後ろでリコリスと遊んでもらっている。


「物理的にグルドを拘束して、私が領主の座につく。その後、不正の証拠を見つけることで、国に正当性を主張する」

「それ……けっこう、危うい作戦では?」


 物理的に領主を排除するなら、なんとかなると思う。

 ソフィアがいるから、こちらの戦力は十分だ。

 もちろん、僕も全力で戦う。


 ただ……


 その後の正当性を主張する、というのはうまくいくのかな?

 下手をしたら、簒奪を正当化するため証拠をでっちあげた、と判断されるかもしれない。

 あるいは、不正の証拠を見つける前に国が動いてしまうとか……こちらは、色々な不安要素があって、それを完全に拭い取ることができていない。


「うむ、スティアート殿の言いたいことはよくわかる」

「なら……」


 もっと慎重に作戦を考えた方がいいのでは?

 そう言うよりも先に、アルベルトが言葉を続ける。


「私が領主の座につけなかったら、その時はその時だ」

「え?」

「一番の目的は、グルドを領主の座から排除することだ。そうすれば、レノグレイドの状況は大きく改善される。もちろん、私が領主となって正しい方向へ導いていきたいが……それが叶わなくても、グルドを排斥できれば、まずはそれでいい。結果、私が反逆者として処罰されようが構わない」

「……」


 僕は、アルベルトのことを小さく考えていたのかもしれない。


 街のために自分が犠牲になって構わない。

 そうすることが務め。


 まさか、ここまで強い決意と覚悟を持っていたなんて……


 いつの間にか、アルベルトに対する嫉妬は消えていた。

 代わりに、憧れに近い感情が生まれる。


 彼のように……

 強い決意と覚悟を持つ、そんな人になりたい。

 そうやって強く大きく成長したい。


 そう思うようになっていた。


「わかりました」

「フェイト?」

「僕は、ソフィアみたいな力はないけど……でも、全力であなたのサポートをしたいと思います」

「ありがとう。スティアート殿を頼もしく思うよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします。アルベルトさん」


 アルベルトさんが手を差し出して……

 僕は笑みを浮かべつつ、その手を握る。


「……」

「……」


 言葉は必要ない。

 そんな感じで、しっかりと握手をした。


「む? なにやら私の知らないところで二人の仲が……なんだか、ジェラシーですね」


 一人、ソフィアが妙な方向で拗ねてしまうのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ソフィアはフェイトに対しては言葉でも態度でも過剰なまでに好意を示してはいるけれど、アルベルトから向けられる好意を完全拒否するわけでもなく、好感度はどちらかというと割と高めで、フェイトよ…
[一言] フェイトに政治はむかない。 彼はあくまで剣士であり只の冒険者…。 だがしかし―――
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