291話 伝承の終わり
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
水神は荒い吐息をこぼしつつ、敵を探して視線を走らせた。
周囲の水を集めて、圧縮。
それを一気に解き放つ。
岩や鉄を紙のように砕く、水神の必殺技だ。
体力の消費が激しいため、連射はできないが……
まともに直撃すれば、人間は欠片も残らないだろう。
「……倒したカ」
水神は安堵した。
人間と見下していたが、とんでもなく強い相手だった。
妙な剣を持ち。
妖精と一緒で。
そして、とんでもない身体能力。
下手をしたら、負けていたのは自分だったかもしれない。
紙一重の勝利だ。
「忌々しイ……」
人間ごときに負けるところだった。
その事実が水神のプライドを傷つける。
苛立ち、舌打ちをして……
しかし、ほどなくして喜びの感情が湧いてくる。
「忌々しいガ……これでもウ、我の邪魔をする者はいなイ」
餌の時間だ。
もう一度、街の人間に生贄を催促しよう。
ここまで追い詰めているのだ。
何度か催促することで、ダメ元で生贄を捧げる者が現れてもおかしくはない。
そうすれば、再び人間の肉を味わうことができる。
これからも、定期的に餌を楽しむことができる。
「はははハ!」
笑いが止まらない。
水神の気分は最高潮に達して……
ザッ!!!
「……ハ?」
一気に最低に落ちた。
――――――――――
リコリスに魔法を使ってもらい、幻影を用意。
水神に僕達を倒した、と勘違いさせて……
その間に、風の足場を使い、さらに上昇。
一気に下降して、ありったけの一撃を水神の頭部に叩き込んだ。
「……ハ?」
完全に油断していたらしく、水神は間の抜けた声をこぼした。
そんなヤツの頭部に突き刺さる流星の剣。
防御力が高くて、刃は根本まで埋まっていない。
それなら……!
「これで……」
「き、貴様!? 死んだはずでハ……!?」
「終わりだよ!!!」
「ガッ!?」
全力で剣を押し込んだ。
根本まで流星の剣が埋まり、水神がビクンと全身を震わせる。
でも……まだだ!!!
「破山っ!!!」
逆手で剣を持ち、刃を埋め込んだ状態で技を放つ。
ゴガァッ!!!
岩が砕けるような音が響いて……
水神の頭部が吹き飛んだ。
巨体が力を失い、ゆっくりと倒れる。
僕は剣を引き抜いて、
「よし!」
一人、勝どきをあげるのだった。




