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286話 マッチポンプ

「水神が犯人……? どういうことですか?」


 ソフィアが疑問顔に。

 それも仕方ない。

 僕の推理は、けっこうな暴論になるから、普通は思い浮かばないはず。


「水の神様がいたのか、それはわからないけど……それに近い存在はいたと思うんだ。でないと、伝承に残らないからね」

「そうですね……それについては賛成です」


 災厄を神様などに例えて、後世に伝えるという話はよく聞く。


 ただ、今回の場合、やけに具体的だ。

 災厄を例えていたわけじゃなくて、それに等しい存在がいたと考えるのが自然だろう。


「一応、水神っていう呼称をそのまま使うけど……水神は、無意味に人と争うつもりはなかったと思うんだ」


 人は弱いようで強い。

 個ではあっさりとやられてしまうけど、多になると数で押し切ることができる。


 それだけじゃなくて、時に、突出した存在が現れる。

 それは英雄と呼ばれる人で……


 その力は一騎当千。

 時に、想像を絶する力を発揮する。


 そんな人を敵に回したら厄介だ。

 だから、敵になってはいけない、味方になるべきだ。

 きっと、水神はそう考えたのだろう。


「でも、空腹は満たしたい。そこで、水神は一計を案じた」

「まさか……」

「うん。自分で嵐を引き起こして、そして、生贄を求めた。そうすれば嵐を収めることができる、って言ってね」


 そうすれば人と敵対することなく、生贄を得ることができる。

 要するに、自作自演だ。


「それが本当だとしたら、今回の嵐も……」

「水神の自作自演かも」


 どうして、今になってそんなことを再開したのか、それは謎だけど……


「フェイトの推理が正しいとしたら、許せることではありませんね」

「うん。でも、あくまでも推理だから、それを裏付ける証拠が欲しいんだよね」


 実は間違いでした、なんてことになったら目も当てられない。

 行動を起こすには、確実な証拠が欲しいところだ。


「でも、調べるにしても時間がないんだよね……」


 街が沈むまで二日か三日くらい。

 おまけに、外は暴風雨。


 そんな状態で調べ物をしてもはかどるわけがない。


「その水神とやらを探し出して、切り捨ててしまいましょう」

「え? でも証拠が……」

「後で探せばいいんですよ。フェイトの言うことなら、間違ってなんかいません」


 どうしよう。

 ソフィアの僕に対する信頼度が高すぎて、ちょっと怖い。


 いや、まあ。

 信じてくれるのはうれしいんだけど、そのために、冤罪覚悟で水神を切り捨ててしまうのは……それはアリなの?


「話は聞いたわ!」

「わっ!?」


 突然、リコリスが飛び出してきた。

 たぶん、ヒマになって追いかけてきたのだろう。


「いきなり現れないでよ」

「アイシャちゃんとスノウはどうしたんですか?」

「二人なら寝ちゃったわ。ここまでの旅で疲れていたんでしょうね。それよりも、あたしに任せなさい!」


 リコリスは得意そうな顔をして、自分の胸をどーんと叩いた。


「けほっ、こほっ」


 強く叩きすぎたらしく、むせていた。

 不安でしかない。


「なにか考えがあるの?」

「その水神っていうの、たぶん、魔物でしょ? 長年生きたことで知恵をつけて、言葉をしゃべるヤツとか、たまにいるし」

「そうなの?」

「そうよ。だから、あたしが話をつけてあげる」

「リコリスが?」


 大丈夫かな?

 余計に話がこじれたりしないかな?


 頼もしさよりも不安が先行してしまうのは、彼女の日頃の行いが原因かもしれない。


「あたしに任せておきなさい!」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] なぜだろう・・、少しばかりの不安がある。 リコリス、頼むよ本当に・・・。
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