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28話 追撃戦

「はっ……! はっ……! はっ……!」


 人気のない裏路地を、シグルドとレクターが走っていた。

 息が切れていて、体力もどんどん奪われている。


「シグルド、止まってください」

「どうした?」

「この先に、なにかの気配が……どうやら、魔法のトラップみたいですね。範囲内に侵入すると、大きな音を立てるというものです」

「解除できるか?」

「少し時間をください」


 レクターはトラップの解除を試みる。


 それを待つ間、シグルドは舌打ちをして、苛立たしそうに頭をかいた。


「ちくしょう……なんで、こんなことになるんだ!」


 今回の事件を計画するにあたり、裏の情報屋を使っていたのだけど……

 その情報屋から、ミラが失敗して逮捕されたと知らされた。


 それだけではない。

 シグルド達が共謀していることがバレて、冒険者資格は剥奪。

 三件の殺人事件と領主の暗殺未遂で指名手配されることに。


「くそっ、完璧な計画だったはずだ。現に、誰も気づかなかった。俺達を捕まえることはできなかった。後は、あの無能に罪を被せるだけだったっていうのに……くそくそくそっ、ちくしょう!!!」

「……その無能が、ミラの逮捕に貢献したらしいですよ」


 トラップの解除を終えたレクターは、苦い顔で言う。


「なんだと、それは本当か?」

「本当かどうか、わかりませんが……最後に、あの情報屋がそのようなことを言っていました」

「バカな!? あの無能が、いったいどうやって、俺達の犯行を見破ったっていうんだ! 俺達の計画は完璧だ。あの剣聖ならともかく、無能ごときに、俺達を捕まえられるわけがねえ!!!」

「それは、私も同意見なのですが……しかし、情報屋は……」

「くそっ……あのガキ! 俺達が使ってやっていた恩も忘れて、こんなことをするのかよ! ふざけやがって!!!」


 フェイトは、シグルド達に感謝したことはない。

 逆に、無理矢理奴隷にされたことを恨んでいる。


 そのことは、ハッキリと伝えていたはずなのだけど……

 シグルド達は、自分達に都合の良いことしか考えることができない。

 そんな思考回路しか持っていない。


 故に、破滅を迎える。


 今まで好き勝手してきたツケが回ってきたのだ

 その引き金となったのがフェイトというのは、なんとも皮肉な話ではある。


「この俺が、こんな惨めな思いをするなんて……!」

「今は辛抱の時です。遠くに逃げて、再起を図りましょう。いずれミラを助け出して、あの無能に礼を返して、逆襲してやりましょう」

「……ああ、そうだな。いつか、後悔させてやる。覚えていろよ、フェイト・スティアート……この借りは、絶対に返すからな」

「悪いけど、そういうわけにはいかないよ」

「「っ!!!?」」




――――――――――




 ソフィアと一緒に街を探すこと、しばらく……

 裏路地で、シグルドとレクターを発見した。


 剣を抜いて構える。


「ソフィア、冒険者と憲兵隊に連絡を」

「はい、わかりました」


 ソフィアが笛を鳴らす。

 ピィイイイと甲高い音が響き渡る。

 五分もすれば応援が駆けつけてくるだろう。


「さて……おとなしく投降してくれませんか?」


 ソフィアも剣を抜いた。

 たったそれだけで、空気がビリビリと震える。


 剣聖の境地に至る者が闘気をまとった結果だ。

 並の者ならば、これだけで失神しているだろう。


「ふざけんじゃねえっ、誰がてめえらなんかに投降するかよ!」

「剣聖とはいえ、無能が足を引っ張っているため、大したことはできないはず。シグルド、コンビネーションでいきますよ」

「ああ、いいぜ」


 シグルドとレクターも戦闘態勢に入る。


 そして、戦闘が始まる……まさにその瞬間。


「レクター、後は頼んだぜ!」

「ぐっ!? し、シグルド、なにを……!?」


 シグルドがレクターを蹴り飛ばした。

 まったくの予想外だったらしく、レクターはまともに吹き飛ばされて、こちらに飛んでくる。


 シグルドの行動は、こちらも予想外だ。

 彼を避けることができず、僕とソフィアは、折り重なるようにして倒れてしまう。


「お前の献身は忘れないぜ!」

「シグルド、まさか、仲間である私を……そんな、どうして!!!?」


 レクターは悲痛な叫び声をあげるものの、無視して、そのまま走り去る。


「……」


 見捨てられた。

 それだけではなくて、捨て石にされた。


 相当にショックだったらしく、うなだれている。


「邪魔なので、どいてくれませんか?」

「うぐっ」


 ソフィアは容赦なくレクターを蹴り飛ばして、どかす。


「ソフィア、容赦ないね……」

「邪魔をする方が悪いのですよ」


 ソフィアも鬱憤が溜まっていたのだろう。

 なかなかに怖い笑顔をしていた。


「援軍が到着するまで、ソフィアはレクターを頼める? 茫然自失、っていう感じだけど……さすがに、見張りは残しておかないと」

「フェイトは、シグルドを追うのですか?」

「うん」

「……」

「どうしたの?」

「うまく言葉にできないのですが、なにかイヤな予感がするのです」


 ソフィアは深刻そうな顔で言う。

 ただ、具体的な言葉は見つからないらしく、もどかしそうだ。


 そんな彼女の言葉を無視するなんて、ありえない。


「最大限に警戒するよ」

「できることなら、私が向かいたいのですが……」

「……ごめんね。今回だけは、僕にやらせて。完全に僕の都合でしかないんだけど……シグルドと決着をつけるのは、僕じゃないとダメなんだ。模擬戦とかじゃなくて、しっかりとした戦いで過去に決着をつけたいんだ」

「わかりました。もう引き止めることはしません。ただ……」


 ぎゅうっと、ソフィアが抱きついてきた。

 ちょっと痛い。

 でも、彼女は僕のことを心配してくれているわけで……


 とてもじゃないけれど、離れて、なんて言うことはできない。


「がんばってくださいね」

「うん」

「……よし」


 どこか納得した様子で、ソフィアが離れた。


「この男を援軍の方に引き渡したら、私もすぐに追いかけます。なので……」

「無理は禁物、だね」

「先に言われてしまいました」

「ソフィアのことだから、なんとなくわかるんだ」

「ずるいです」

「じゃあ、行ってくるね」

「はい……気をつけて」


 過去に決着をつけることは大事だけど、ソフィアを泣かせないことは、もっと大事だ。

 絶対にそんなことにならないように、細心の注意を払わないと。


 そう決意して、僕はシグルドの追撃に移行した。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] ソフィアって本当に良い子だよね。
[一言] 何処まで行ってもばかな連中だなあ。 何回も顧みるチャンス有ったのに、完全に犯罪者に落ち、おそらくは死刑だろうなあ。
[一言] 透明マントが領主も知らない位、希少な魔道具だとしても、暗殺対策の魔道具ぐらい有ってしかるべきであり、暗殺に用いられ易いだろう魔道具への対策が無いのは不可解です。
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