271話 また
「ボクは……」
レナは少し声が震えていた。
そこで言葉が止まっていた。
でも、焦って促すようなことはしない。
あくまでも彼女の自主性に任せたい。
「ボクは……!」
「うん」
「うぅ……くううう!」
どこにそんな体力が残っていたのか。
レナは大きく後ろへ跳んで逃げてしまう。
「レナ!」
「どうしたらいいか、わからないよ……」
「……レナ……」
「ボクは使命があるはずなのに。ボク達から全部を奪った世界に復讐しなくちゃいけないのに。でも……」
レナは泣きそうな顔でこちらを見る。
「フェイトと戦うのは……嫌だよ」
「なら!」
「でも、ボクは……ボクは!」
レナはうつむいた。
ぽつりと、涙が落ちる。
「……またね」
魔道具を隠し持っていたのだろう。
彼女の足元に魔法陣が展開されて……
そして、そのまま姿が消える。
最後、レナがどんな顔をしていたのか?
それはわからなかった。
――――――――――
「いたたたっ」
獣人の里に戻り治療を受ける。
最後まで立っていられたものの、実はあちらこちらがボロボロで、かなりの重傷だったらしい。
まずは、リコリスの魔法で治療を。
それから獣人が使う特製の秘薬を分けてもらい、ソフィアに塗ってもらっているところだ。
「まったく、こんなになるまで無茶をするなんて……私が駆けつけていなかったら、どうなっていたことか」
「ありがとう、ソフィア。本当に感謝……あいたたたっ」
「しているのなら、あまり心配をかけさせないでください!」
「ごめん……」
もっともな話なので、頭を下げることしかできない。
「まーまー、そんなに責めたらかわいそうよ」
意外というべきか、リコリスが間に入ってくれた。
「突発的な遭遇だったんでしょ? なら、どうしようもないじゃない。里の場所を知られるわけにもいかないし、あそこで食い止めるのは正解よ」
「それはそうかもしれませんが……」
「というか、ソフィアは嫉妬してるだけでしょ? あの女とフェイトが密会してた、許せないー、って」
「うっ!?」
図星だったらしく、ソフィアが苦い表情に。
「そうなの?」
「……」
ソフィアは顔を背けてしまう。
代わりにリコリスが答える。
「そうなのよ。ソフィアったら、『泥棒猫の匂いがします』とか言って、いきなり飛び出していったんだもの。里を守るとか、そういうことは考えてなかったわね。嫉妬よ、嫉妬」
意外……でもないのかな?
ソフィアって、わりと独占欲が強い。
そういう行動に出ても不思議じゃないと思う。
「そっか……ありがとう、ソフィア」
「え? ど、どうしてお礼を言うのですか? 私は……」
「でも、ソフィアのおかげで助かったから」
理由はどうあれ、ソフィアが駆けつけてくれなかったら僕は死んでいたと思う。
それに……
「身勝手な話だけど、嫉妬してくれるのはうれしいよ」
「っ……!」
ソフィアは顔を赤くして、
「……その言い方、ずるいです」
唇を尖らせるのだった。




