255話 里を脅かすもの
「どうしたのだ、騒々しい。客人の前だぞ」
「す、すまない長老。でも一大事なんだ!」
若い獣人はとても焦っているみたいだ。
ここまで全力疾走してきたらしく、息が切れている。
「ま、魔物が現れた!」
「なんじゃと!?」
「かなりの数だ! 今、みんなで防いでいるものの避難が間に合っていない!」
「くっ、なんという……」
魔物に襲われたことがないのだろうか?
長老の苦い顔を見る限り、かなりのピンチなのだろう。
だとしたら、僕達のすることは決まっている。
「ソフィア」
「はい」
ソフィアも同じ気持ちだ。
「リコリス、アイシャとスノウをお願い。ここにいてね」
「はーいはい、あたしに任せておいて」
「うん、頼りにしているよ」
「フェイト、行きましょう」
「お二人共、なにを……?」
戸惑う長老に、ボクとソフィアは同時に言う。
「「魔物を倒します!」」
――――――――――
魔物が現れたという、村の最南端へ向かう。
すると、そこは戦場になっていた。
「怯むなっ、押し返せ!」
「し、しかし、あまりにも数が多く……」
「グルァ!」
「ぎゃあああ!?」
たくさんの獣人が戦い。
たくさんの血が流れて。
そして……彼らに迫る魔物の群れ。
「このっ!!!」
血が沸騰するかのような怒り。
それを魔物にぶつける。
剣を縦に振り下ろして。
それから横に薙いで。
最後に下から上に跳ね上げる。
狼のような魔物を三匹、まとめて退けることに成功した。
牽制のために刃を魔物に向けつつ、怪我をしている獣人を背中にかばう。
「大丈夫ですか?」
「あんたは……」
「援軍です! 今は後退を」
「わ、わかった、助かる!」
信じてくれるかどうか不安だったけど、助けたからか、なんとか信頼を得られたようだ。
怪我をした獣人は素直に後方へ下がる。
よし。
この間に、どうにかして戦線を押し返して……
「神王竜剣術、仇之太刀……」
ソフィアが前に出る。
「閃っ!!!」
ソフィアが大上段に構えた剣を一気に振り下ろした。
極大の斬撃。
そして、圧倒的な闘気。
それらがまとめて解き放たれて、魔物の群れを百単位でまとめて吹き飛ばす。
魔物は抗う術を持たない。
一瞬でその命を刈り取られ、体を塵と化す。
彼らの運命は、ソフィアがここにやってきた時点で決していた。
「……やっぱり、すごいなあ」
僕の幼馴染は剣聖だ。
剣を極めていて、見ての通り、とんでもない力を持っている。
その隣に並んで、対等になるまで何年かかるだろう?
というか……どれだけの時間をかけたとしても、対等になれるかどうか。
そんな迷い、悩みを抱いてしまう時がある。
でも。
「僕もがんばらないと」
手が届かないと、諦めたくない。
無理だと決めて、足を止めたくない。
やっぱり……
僕は、ソフィアのことが好きだから。
彼女と、ずっとずっと一緒にいたいから。
だから、なにがあろうと。
どんなことがあろうと、がんばり続けるだけ。
「よし!」
というか……
今は僕のことよりも、ここにいる獣人の力にならないと。
改めて気合を入れ直して、僕は魔物の群れに立ち向かう。




