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253話 いざ獣人の里へ

 準備を終えて家を出る。


 僕とソフィアとクローディアさんは、背中に大きなリュックを背負い……

 そして、アイシャとスノウは小さなリュックを背負う。


 それぞれ旅に必要なもの。

 それと、獣人の里へ持っていくものが詰め込まれていた。


 本当は僕達だけで荷物を運ぶつもりだったんだけど……

 自分達もお手伝いする、とアイシャとスノウが言って聞かなかったので、ちょっとだけ手伝ってもらうことにした。


 リコリス?


 まあ……なにもしていない。

 うん。

 彼女はいつも自由だ。


「じゃあ、行ってくるね」


 父さんと母さんと、ルーテシアに出発の挨拶をする。


「おう、がんばってこいよ」

「体に気をつけてね」


 父さんと母さんは笑顔で送り出してくれて、


「あー……うー?」


 ルーテシアはよくわかっていない様子で、小さな手をこちらに伸ばしてきた。

 その手を握ると、妹も僕の手を握る。


「行ってくるね」

「うあー」


 にっこりとルーテシアが笑う。

 がんばれ、と言ってくれているみたいで、すごくやる気が出てきた。




――――――――――




 スノウレイクを出て、半日ほどが経った。


 まずは街道沿いに歩いて……

 特に何事もなく時間が経過して、日が暮れ始める。


 先頭を歩くクローディアさんが足を止めた。


「みなさん。日も暮れてきたので、今日はこの辺りで野営にしましょう」

「あ、待ってください」


 荷物を下ろそうとするクローディアさんにストップをかけた。


「どうしたんですか?」

「この辺りはやめておいた方がいいと思います」

「え?」

「魔物の気配はないですけど、そういうところって、逆に獣が寄ってくることが多いので。だから、適度に魔物の気配があるところの方がいいです。それでいて、見晴らしの良いところ。そこがベストです」

「……」


 クローディアさんは目を丸くして固まる。


「どうしたんですか?」

「いえ、その……獣人である私よりも野営に詳しいので、びっくりしてしまいました。その知識は、いったいどこで?」

「えっと……色々とあって」


 奴隷にされていた頃に学びました。

 ……なんて言うと引かれてしまうかもしれないので、笑ってごまかしておいた。


 なにはともあれ、少し進んだ場所でテントを設置して、焚き火を起こして、魔物よけの簡易結界を作り……

 野営の準備を終えた。


「ソフィア、リコリスとアイシャとスノウと一緒に荷物番をお願いできる?」

「それは構いませんが、どうして私なんですか?」

「えっと……」

「ソフィアに近寄る命知らずの魔物とか獣、いるわけないじゃん。向こうからしたら化け物がいるようなもんだし。最適の魔物、獣除けね! あはははいだだだだだぁ!!!?」

「リコリス、口は災いのもと、という言葉を知っていますか?」


 調子に乗ったリコリスが、こめかみをグリグリとやられていた。

 あれは痛い……


「じゃ、じゃあ、行ってくるね」

「気をつけてくださいね」


 ソフィアに見送られつつ、クローディアさんと一緒に川の水を汲みにいく。

 食料は色々と用意しておいたけど……

 水は重いため、たくさんは用意していない。

 だから、こうして現地調達が基本だ。


「……フェイトさん」


 水を汲みつつ、クローディアさんが小さな声で言う。


「はい?」

「フェイトさんは、姫様のことをどう思っているのですか?」

「どう、というのは?」

「娘として迎えられたということは理解しております。それを引き裂くつもりはありません。ただ……たまに、不安になってしまうのです。フェイトさんに心変わりが起きて、姫様が悲しむようなことになったら……と。とても失礼な考えなのですが」

「いえ、その心配は当たり前のものだと思います」


 結局のところ……

 人間と獣人の間にある溝は大きい。

 仲良くできたと思っても、表面上だけという場合もある。


 クローディアさんは、僕達を信じてくれているみたいだけど……

 でも、完全に信頼することは難しいのだろう。


 それも当然だ。

 出会ったばかりなのだから仕方ない。

 だから……


「僕達のことを見ててくれますか?」

「え」

「これからの行動で、そんなことは絶対にないって証明してみせますから……だから、近くで見ててほしいです」

「……」

「絶対に裏切りません。今は、言葉だけしか並べることはできませんけど……でも、何度だって、いつでも言えることができます」

「……はい」


 クローディアさんは、どこかスッキリとした顔でこちらを見る。


「ありがとうございます」


 そして、にっこりと笑った。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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