238話 またせたわね!
刃が半ばから折れて、くるくると宙を舞う。
その光景を、僕は呆然と眺めていた。
「あっ……!?」
すぐ我に返るものの、一瞬、遅れてしまう。
ここぞとばかりに煉獄竜が体を回転させて、尻尾を叩きつけてきた。
ギリギリのところで回避するものの、かすり、血が流れる。
煉獄竜の巨体から繰り出される攻撃は非常に強力だ。
かすっただけでも、運が悪いと致命傷になる。
幸い、致命傷は避けられたものの、大量に出血してしまう。
「このっ……!」
ポーションを飲みつつ、追撃を回避。
なんとか危機を乗り越えることができた。
相手は弱っている。
できればこのまま畳み掛けたいのだけど……
ちらりと後ろを見ると、ソフィアの回復は間に合っていない。
もう少しっていう感じだけど、間に合うかどうか。
そして僕は、肝心の武器がない。
これじゃあ、なにも……
「ふっふーん、またせたわね!」
ふと、戦場に似合わない声が飛んできた。
反射的に振り返ると、リコリスの姿が。
「リコリス!? どうしてここに……」
「コレを届けに来たのよ。ほら、受け取りなさい!」
「わっ」
魔法を使ったのだろう。
リコリスがなにかを投げてきた。
って、大暴投!?
慌てて追いかけて……
ジャンプをして、それをキャッチする。
「これは……雪水晶の剣?」
水晶のような輝きを放つ。
そして、雪のように白い刀身。
僕が知っているものと、いくらか形状が違うのだけど……
でも、それは間違いなく雪水晶の剣だった。
「修理が終わったから持ってきてあげたわ。ふっふーん、絶妙なタイミングだったでしょ? 実は、こっそりタイミングをうかがっていたの」
最後の情報はいらない。
「でも、まだ時間がかかるはずじゃあ? それに、この変化は……」
「細かいことは後! 今は……」
「……うん、そうだね」
やるべきことをやろう。
僕は雪水晶の剣を抜いて、構えた。
以前と変わらなくて、軽すぎず重すぎず。
手にしっくりと馴染んで、体の一部になるような感覚。
「……おかえり」
相棒の帰還を喜ぶ。
「さっそくで悪いけど、いくよ!」
今ならなんでもできる。
そう思えるくらいの力と勇気が湧いてきた。
「ガァアアアッ!!!」
まっすぐに突撃する僕を叩き潰そうと、煉獄竜が吠えた。
巨大な前足を叩きつけてくるのだけど……遅い!
ワンステップ、横に跳ぶ。
それから、体を半身にしてギリギリのところで攻撃を回避。
失敗したら致命傷になっていたかもしれないけど、でも、失敗していないから問題ない。
僕は、そのまま煉獄竜の懐に潜り込み、
「神王竜剣術、壱乃太刀……破山っ!!!」
ありったけの力でありったけの攻撃を繰り出した。
さっき使っていた剣は、煉獄竜の鱗を一度も突破することができなかった。
でも、今回は違う。
雪水晶の剣は、簡単に鱗を切り裂いてしまう。
煉獄竜が悲鳴をあげて、身をよじり、暴れる。
僕に傷つけられるわけがないと油断していたのか、相当な驚きっぷりだ。
うん。
大きなダメージは与えていないものの、とても良い攻撃になった。
これなら……
「ほれ、さらに追加じゃ!」
ホルンさんは、さらに二本の爆弾付きの剣を投擲した。
二つとも今までの戦闘でできた傷に突き刺さり、爆弾が爆発。
至近距離で炎と熱波と衝撃を浴びることになり、煉獄竜が悶える。
でも、これもまた本命の攻撃じゃない。
「はぁあああああっ!!!」
ダメージから回復したソフィアが、煙に隠れて突撃。
聖剣エクスカリバーを構えて、加速、加速、加速。
「蓮華っ!!!」
超高速の抜剣術。
宙を駆ける斬撃が煉獄竜の片翼を斬り飛ばした。




