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232話 修理開始

「よし」


 一階の工房に父さんの姿があった。

 仕事着に着替えて、気合を入れるはちまきを頭に巻いている。


 その後ろにリコリスとアイシャが。

 二人の姿はいつも通りだけど、表情が違う。

 まっすぐに前を向いていて、絶対に剣を修理するという、強い決意が感じられた。


「それじゃあ作業を始めるぞ。俺が剣を打つから、妖精の嬢ちゃんは、指示したタイミングで魔力を注ぎ込んでくれ」

「任せなさい!」

「アイシャちゃんは、妖精の嬢ちゃんの魔力がなくなってきたら補給してくれ」

「がんばる」


 三人はやる気たっぷりだ。


 でも、気合が入りすぎているということはなくて……

 ほどよい感じに緊張して、ほどよい感じに息を抜いている。


 うん。

 これなら、きっとうまくいくだろう。


 僕は雪水晶の剣の復活を確信するのだけど……

 事態は思わぬ方向に転がっていく。




――――――――――




「……時間がない?」


 剣の修理が始まって数時間したところで、ホルンさんが尋ねてきた。

 僕とソフィアで対応をして……


 そして、煉獄竜の目覚めが近いと告げられた。


「封印の状態を観測する魔道具を置いていたのじゃが……それによると、封印はあと半日で解けてしまうじゃろう」

「そんな……!?」

「どういうことですか? 封印は頑強なもので、まだまだ問題はないという話だったと思いますが」

「そう、問題はなかったはずなのじゃが……しかし、何度も確認したから間違いない。このままだと、半日ほどで封印が解けてしまうじゃろう」


 いったい、どうしてそんなことに……?


 なにが起きているのか。

 色々と考えてみて……


「「……もしかして」」


 ソフィアとピタリと声が重なる。


 本来ならありえないことを引き起こしてしまう。

 そんなことができる連中に心当たりがある。


「『黎明の同盟』……かな?」

「可能性はあると思います。また、あの泥棒猫でしょうか……?」


 今回、彼らの影はなかったはずなのだけど……

 でも、不思議とこの悪い予感は間違っていないと思えた。


 またレナがなにかやらかしているのだろうか?

 そう思えてならない。


「そういうわけじゃから、儂はすぐに出発しようと思う。お主らはどうする?」

「それは……」


 雪水晶の剣の修理は終わっていない。

 終わるのを待っていたら、先に煉獄竜が復活してしまうだろう。


 それなら……


「僕も行きます」

「フェイト!? ですが、剣は……」

「ソフィア、代わりの剣を貸してくれないかな?」

「……わかりました。確かに、こうなった以上、のんびりと修理を待っているわけにはいきませんね」


 できることなら、雪水晶の剣で戦いたい気持ちがあった。


 人と妖精の絆の証。

 その剣で戦えば、色々な想いを乗せることができるだろう、って。


 でも、この状況で無理は言えない。

 被害を出さないことが最優先で……

 今は煉獄竜の討伐だけを考えよう。


「では、すぐに準備をしてくれ。儂は街の入口で待っておるぞ」

「わかりました」


 ホルンさんを見送り……

 それから、僕とソフィアは互いの顔を見る。


「やることはたくさん」

「すぐに済ませてしまいましょう」


 互いに小さく笑みを浮かべるのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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[良い点] さて、竜退治となるか!
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