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199話 諦めてたまるものか

「再生能力だ!」

「しかも、なんてデタラメな速度……自然治癒というレベルではありませんね」


 ソフィアが険しい表情に。

 その理由はよくわかる。


 世界には色々な魔物がいて、中には自然治癒という特殊能力を持つ個体がいる。

 その名前の通り、自然に傷が治ってしまうという能力だ。


 ただ、どれだけ強力な力を持つ魔物でも、足を斬られれば、その治癒に数日はかかると言われている。

 今、スノウが見せたように、十秒足らずで治ってしまうなんてありえない。


「規格外すぎますねっ!」


 ソフィアは剣を振り、スノウの突撃を防いだ。

 その間に、僕はもう一度、スノウの足を斬りつける。


 今度は刃が通る。


 しかし、その後の結果は変わらず。

 ソフィアの時と同じく、スノウの傷はすぐに治癒されてしまう。


「これじゃあ、どうやって無力化すれば……」

「時間があれば、罠を作成するのですが、それは難しいですね」

「罠を作れたとしても、うまくかかるかどうか、ものすごい微妙なところだよね」

「まったくです」


 スノウの攻撃をなんとか防ぎつつ、攻略法を探す。


 僕一人だけだったら、一分と保たなかっただろうけど……

 でも、今はソフィアが一緒だ。

 彼女と一緒なら、何分でも耐えられることができそうだ。


 とはいえ、街の被害やその後のことを考えると、早々に決着をつけたい。


「それに、泥棒猫がやらかす前に、なんとかしたいところです」

「レナがなにか企んでいるの?」

「スノウをこのようにしたのは、泥棒猫の仕業です。このままスノウを放置しておくとは思えません。なにかしら、どこかのタイミングでちょっかいをかけてくるはずです」

「……レナ……」


 悪い子には見えなかった。

 常識とか足りないところはあるけど、でも、笑顔の綺麗な女の子だった。


 それなのに、どうしてこんなことを……?

 黎明の同盟って、いったいなんなんだろう?


 思うところは色々とあるのだけど……

 でも、今は考えるのはやめておこう。


 今、最優先に考えるべきことはスノウだ。


「魔法で眠らせるとか?」


 スノウの前足を避けて、カウンターを繰り出しつつ、相談を続ける。


「スノウはそこらの魔物とは違います。魔法に対する高い抵抗力を持っているでしょう。並の使い手では……ふっ!」


 ソフィアも器用にカウンターを放ちつつ、話を続けていた。


 ただ、彼女の場合は、一度に数回の斬撃を繰り出している。

 スノウの治癒能力のこともあって、あまり遠慮はしていないみたいだ。


「リコリスならどうかな?」

「可能かもしれませんが……今、アイシャちゃんの傍を離れてしまうのは、ちょっと困りますね」

「そっか……うーん、そうなると……うわっ」


 スノウがくるっと回転したかと思うと、尻尾を鞭のように薙ぎ払ってきた。


 予想外の攻撃に、少し反応が遅れてしまう。

 危ういところで回避に成功するものの……


「なんか……攻撃速度が上がってきていない?」

「私達の動きに慣れてきたのか、あるいは、自分の体の動かし方を理解してきたのか……」


 スノウがこの状態になって、まだ時間が浅い。

 生まれたばかりの雛のようなもの。

 だから、今までは思うように体を動かせていなかったのだろう。


 でも、時間が経つことで慣れてきて……

 100パーセントの力を発揮しつつある。


 恐ろしい話だった。

 今までが全力じゃなくて、まだまだ余力があったなんて。


 これで全力全開になれば、どうなるか?

 どれだけの被害が生まれるか?


「くっ……」


 本当なら、スノウを討伐しなくてはいけないのかもしれない。

 元に戻す方法はなくて、無駄なことをしているのかもしれない。


 それでも。


 諦めるなんてことはしたくない。

 全力であがいて、あがいて、あがいて……

 ギリギリまで追いつめられたとしても、それでも諦めることなく、みっともなくてもあがき続けたいと思う。


 僕はもう、理不尽なんかに負けたくない!


「スノウッ!!!」


 だから、呼びかけた。


 強く、ありったけの声で。

 みんなで一緒に考えた名前を呼ぶ。


「スノウ! 僕だよ、フェイトだ!!!」

「グルルルゥ……!」

「こんなことをしたらダメだよ! 思い出して、キミはとても優しい子で、アイシャの友達だったじゃないか! 僕達の家族じゃないか!!!」

「グゥ……!」

「だから、戻っておいで……スノウッ!!!」

「ウゥ……」


 それは奇跡なのか。

 あるいは、必然なのか。


 僕の声が届いた様子で、スノウは動きを止めた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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