177話 慌ただしいギルド
翌日。
事前に話して決めた通り、僕はリコリスと一緒にブルーアイランドの冒険者ギルドを尋ねた。
冒険者は、なんでも屋のようなものだ。
人々の生活に深く関わり、なくてはならないものになっている。
この国だけじゃなくて、ほとんどの国で冒険者制度が採用されている。
だから、ギルドがない街はないと言ってもいい。
ブルーアイランドにも、当たり前のように冒険者ギルドがあるのだけど……
「なんだろう?」
ギルドに入ってみると、やけに慌ただしかった。
職員らしき男女が忙しそうに走り回り……
冒険者らしき人々も、険しい顔であちらこちらを移動している。
「なーんか、きな臭い雰囲気ね」
「きな臭い、というか……ピリピリしている感じだね。事件でもあったのかな?」
忙しそうにしているところ、声をかけるのはちょっとためらわれる。
「えっと……」
「ねーねー、ちょっといい?」
怯む僕と違い、リコリスはガンガン前に行く。
こういうところは、素直にすごいと思う。
「あ、はい。なんでしょうか?」
僕達に気がついて、女性のギルド職員が足を止めた。
「この街での冒険者登録でしょうか? でしたら、あちらのカウンターで……」
「あ、ううん。それもあるんだけど、それだけじゃないというか……」
「なんかやたら忙しそうなんだけど、どうかしたの? 事件? 事故? それとも、このセクシー美少女アイドルリコリスちゃんがやってきて、慌てているの?」
「それは……」
リコリスのボケは無視されて、ギルド職員は難しい顔に。
それから、なにかに気がついた様子で、ハッとした顔に。
「あの……もしかして、剣聖のパートナーの方ですか?」
「え? あ、うん。そうだけど……でも、なんでそのことを?」
まだ、この街では冒険者登録はしていないんだけど……
「剣聖にもなれば、とても注目されますからね。自然と情報が入ってきますし……ちょっとやり方は悪いのですが、こちらも軽く探りを入れます」
「なるほど」
有名税みたいなものかな?
探りを入れられることも、まあ、仕方ないのかなと思う。
僕も、こんな風になれるのかな?
なれるようにがんばりたい。
「僕は、フェイト・スティア―トです」
「あたしは、ハイパーミラクルワンダフルダブルスカイ……」
「妖精のリコリスです」
「あたしの超かっこいい自己紹介!?」
かっこいいと思っていたんだ、それ。
「私は、ブルーアイランドの冒険者ギルドの職員、ファーナといいます。よろしくお願いいたします」
ファーナさんは、ペコリと丁寧に頭を下げた。
慌ててこちらもお辞儀をする。
「スティアートさんは……」
「あ、フェイトでいいですよ」
「わかりました。フェイトさんは、どのような用事で当ギルドへ?」
「今、獣人について調べてて、それでなにか情報ないかな……って思ってやってきたんだけど……」
軽く周囲を見る。
「なんだか、すごく慌ただしいけど、なにか事件でも?」
「……はい」
ファーナさんは、その場で説明をしてくれる。
人払いをしないということは、ここにいる誰もが知っているようなことなのだろう。
「実は……暴行、強盗、殺人事件が多発していまして」
意外な話だ。
ブルーアイランドは観光地だから、そういう事件が起きないように、厳しい取り締まりがされていると思ったのだけど。
「治安が悪化しているんですか?」
「はい。それも、急激に……」
「急激に? どういう意味ですか?」
「そのままの意味です。この一週間で、事件が十倍に増加しました」
「十倍!?」
例えば、隣国が崩壊したとする。
その場合、難民や元騎士などが一気に押し寄せてきて、治安が悪化してしまうことがある。
でも、それでも十倍はありえない。
多く見ても三倍くらいだ。
「どういうことなんですか?」
「わかりません……本当に前触れもなく、いきなり犯罪件数が増えているんです」
「そんなこと……」
ありえるのだろうか?
でも、実際に起きている。
だから、ファーナさんも困惑して、慌てているのだろう。
「今、ギルドは対応に追われていまして……ちらっ」
手伝ってくれませんか?
そんな感じで、ファーナさんがこちらを見た。
ちょっとあざとい。
「う、うーん……」
こんな事件が起きているのなら、協力したいと思う。
ただ、ファーナさんが求めているのは、ソフィアの力だろう。
僕が協力をすれば、ソフィアもセットになると思っているはず。
でも……
そんな状況でアイシャを一人にするわけにはいかない。
安全を考えるなら、ソフィアに一緒にいてもらうのが一番だ。
そうなると彼女は動けないわけで……
「ちょっと、戻って相談してみますね」
今は、そう返すのが精一杯だった。
次回の更新は来週月曜になります。




