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174話 恩犬

「僕のせいだ……もっと、ちゃんとしっかり見ておけば……」

「いいえ、私のせいです……少しくらいならと、アイシャちゃんを視界から外してしまうなんて……」


 アイシャが迷子になったことで、僕達は顔を青くして慌てていた。

 もしもアイシャになにかあったら?

 誘拐でもされていたら?


 どうしよう? どうしよう? どうしよう?


「落ち着きなさい!」

「「っ!?」」


 慌てる僕達をリコリスが一喝した。


「あんた達がそんなんでどうするのよ? もっとしっかりとしなさい、シャキっとしなさい!」

「……そ、そうだよね」

「……恥ずかしいです」


 リコリスのおかげで冷静になることができた。

 感謝だ。


「フェイト、憲兵隊のところへ顔を出してくれませんか? もしかしたら、アイシャが保護されているかもしれません」

「うん、了解」

「リコリスは空から探してくれませんか? 見つけられるかどうか、難しいところですが……それでも、やれるべきことはやっておきたいのです」

「ふふん、この飛行マジカルフェアリーリコリスちゃんに任せなさい!」


 『飛行』ってつける意味、あったのかな……?


「ソフィアはどうするの?」

「地道な方法ですが、私は足を使い、アイシャちゃんを探します。私なら、一時間もあれば街全体を駆けることができると思うので」

「なるほど」


 デタラメな身体能力を持つソフィアだからこそできる探索方法だ。


 ただ、超高速で街中を駆けていたら、人々を驚かせてしまうかも……

 いや。

 でも、アイシャのため。

 悪いことをするわけじゃないから、我慢してもらおう。


「では、一時間後にまた合流して……」

「……さん……さん!」

「「えっ」」


 アイシャの声が聞こえたような気がした。

 慌てて周囲を見ると、


「……おとーさん、おかーさん!」

「アイシャ!」

「アイシャちゃん!」


 不安そうな顔をして、涙をポロポロと流していて……

 しかし、どこも怪我はなく無事な様子で、アイシャがこちらに駆けてくるのが見えた。


 僕とソフィアもほぼ同時に走り、アイシャを胸に抱く。


「よかった! 無事だったんだね、アイシャ」

「ああもう、どれだけ心配したか……!」

「あううう、おとーさん! おかーさん! リコリスぅ! うえええっ」


 よほど心細かったのだろう。

 僕達が抱きしめると、アイシャは大泣きしてしまう。


 でも、それは元気な証拠。

 よしよしと頭を撫でて、無事でいてくれたことを喜ぶ。


「うんうん、自力で帰ってくるなんてやるじゃない。あたし、見直しちゃったわ」


 ぱくり。


「ぱくり?」

「「えっ」」


 アイシャを落ち着かせて……

 妙な音に反応して振り返ると、子犬に噛まれ、すっぽりとその口に収まったリコリスの姿が!


 一拍遅れて自分が置かれている状況を理解したらしく、リコリスの顔がサァーっと青くなる。


「ぎゃあああああ!? た、食べられるうううううっ!!!?」

「リコリス!?」

「このっ、リコリスを離しなさい!」


 どこに携帯していたのか、ソフィアが剣を取り出すのだけど、


「ま、まって!」


 慌てた様子でアイシャが止めに入る。


「わたし、この子に助けてもらったの……」

「え? それは、どういうこと?」

「あのね」


 話によると、この子犬がここまでアイシャを連れてきてくれたらしい。

 恩人ならぬ恩犬だ。


「そっか……ありがとう」

「オンッ!」

「ぎゃー!? あたしを咥えたまま吠えないでー!?」

「えっと……その子は僕達の大事な仲間なんだ。食べ物じゃないから、離してくれないかな?」

「オフ」


 言われるまま、子犬は素直にリコリスを離した。

 賢い子だ。


「うえー……べとべとよぉ」

「よし、よし」


 すっかり落ち着きを取り戻したアイシャは、凹むリコリスを慰めていた。


「この子、犬ではありませんよね?」

「うん。銀色の毛や宝石みたいな瞳を持つ犬なんて、知らないよ」

「狼でもありませんし……しかし、魔物というには、あまりにも邪気がなさすぎる……なんでしょう?」

「なんだろうね?」

「クゥーン」


 僕達の訝しげな視線を受けて、自分に害はないよ? というような感じで、子犬が小さく鳴いた。

 すごくかわいい。

 ソフィアなんて、どういう存在なのか考えるのをやめて、子犬の頭を撫でていた。


「うーん」


 ものすごく気になるんだけど……

 でも、悪い子ではなさそう。

 それがわかっているのなら、いいのかな?

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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何だかこの子犬、ノルンみたいな雰囲気が・・?果たして??
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