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171話 才能

「じゃあ……簡単楽ちん大爆笑! アレをするだけで、今日からあなたも魔法使い! リコリスちゃんの魔法教育を始めるわ」

「なんか、怪しい商品を販売しているみたいだね……」

「そこ、うるさいわよ!」


 リコリスに睨まれてしまう。


「というわけで、さっそく魔法を使ってみましょう」


 即座に気持ちを切り替えた様子で、リコリスが明るく言う。


 そんな彼女の言葉に疑問を挟んだのは、ソフィアだ。


「さっそく、と言いますが、そんなに簡単に使えるものなのですか?」

「使えるわよ」


 僕も同じような疑問を抱いたのだけど、リコリスはあっさりと言う。


「魔法って、そんなに難しいものじゃないのよ。そこそこの魔力があって、詠唱を間違えなければ普通に発動するの」

「そうなのですか? 私は剣一筋だったため、詳しいことは知りませんでした」

「ま、簡単な魔法に限るけどね。難しい魔法になると、色々と制御が必要になってくるから大変なんだけど……簡単な初心者用の魔法なら、なんだったらソフィアでも発動できると思うわ」

「なるほど」


 リコリスの話を聞いて、ソフィアの目がキラリと輝いた。


「ソフィア、ダメだからね? 今は、アイシャのための練習なんだからね?」

「わ、わかっていますよ」


 すまし顔を作るのだけど……

 本当は心揺れているんだろうなあ。


 ちょっとかわいそうだけど、でも、今はアイシャを優先しなければ。


「というわけで……アイシャ、まずはこう、手の平に魔力を集めてみて?」

「えっと……?」

「目を閉じて、自分の体の中に意識を向けるの。体温とかそういうのとは別に、なにか温かいものを感じるはずよ」

「ん」


 言われた通り、アイシャは目を閉じた。

 そのまま集中して……


「……あ」


 リコリスが言う温かいものを見つけることができたらしく、目を開けて小さな声をあげた。


「見つけた? それが魔力よ」

「これが……」

「それを手の平に集めるの。実際に手で動かすことはできないから、ここは、そういうイメージをすることが大事ね。頭の中で、よこらせっと魔力を運んでいくのよ」

「うん、やってみる」


 アイシャは再び目を閉じて集中する。


 ふわっと、なにか温かい波のようなものを感じた。

 もしかして、今のはアイシャの魔力なんだろうか?


「フェイト、今……」

「う、うん。僕も感じたよ」

「それはアイシャの魔力ね。たくさん魔力を持っていると、他の人も感じることがあるらしいわ」

「へぇ」


 魔法に限って、リコリスは物知りだ。

 ちょっと失礼な感想を抱いていると、


「魔法に限り、リコリスは博識ですね」


 ソフィアが同じことを口にしてしまう。


「……それ、他のことはダメダメ、っていう風に聞こえるんだけど?」

「すみません、つい本音が」

「謝らないでよ! なんかこう、余計にムカつくわ!」


 そんなことをしている間に、アイシャは手の平に魔力を集めることに成功した。

 その手の平は、柔らかに輝いている。

 僕らでも見えるくらい、濃密な魔力が形成されているんだろう。


「あとは、詠唱をするだけね。熟練者になれば、初心者用の魔法は詠唱なしでもいけるんだけど、アイシャは初心者だからきちんと詠唱すること」

「うん、がんばる」

「じゃあ、あたしに続いて言ってみて」

「はい」

「光の精霊よ、ここに顕現せよ」

「光の精霊よ、ここに顕現せよ」

「汝の力は、深き暗黒を切り払う希望なり」

「汝の力は、深き暗黒を切り払う希望なり」

「優しい輝きを今ここに……ライト」

「優しい輝きを今ここに……ライト」


 瞬間、世界が白に染まる。


「うわっ!?」

「きゃっ!?」


 間近に太陽が出現したかのようだ。

 熱はないけど、でも、とんでもない量の光があふれる。


 目を開けていることなんてできなくて、すぐに閉じた。

 それでも眩しいくらいで、目が痛い。


「ぎゃー!? 目がー! 目がー!」


 強烈な光を直視したらしく、リコリスの悲鳴が聞こえてきた。

 見えないんだけど……たぶん、空中で転げ回っていると思う。


 ややあって光が収まり、目を開けることができた。


「あうー……おかーさん、おとーさん」


 アイシャも相当に辛かったらしく、泣きそうな顔でソフィアに抱きついた。


 抱きつくとしたら母親。

 ちょっと寂しい……


「アイシャちゃん、大丈夫ですか? 目、痛くありませんか? 私達のこと、ちゃんと見えますか?」

「うん、大丈夫……でも、ちょっと痛い……」

「えっと……うん。見た限りは問題なさそうですね。強烈な光を見たせいで、ちょっと混乱しているのかと。ただ、念の為に目薬を差しておきましょう。持っているので」

「はう……」


 アイシャのことはソフィアに任せておけば問題ないだろう。


「ぎゃー!? ぎゃー!? あたしの目がー! 目がー!」

「リコリス、大丈夫?」

「大丈夫じゃないわよ! めっちゃくちゃ目が痛いわ! あたしの宝石のように綺麗でかわいい目、ちゃんとある?」

「痛いとか言うわりに、元気だよね……大丈夫。おかしなことになってはいないよ」

「はあ、よかったわ。かわいいリコリスちゃんになにかあったら、世界の損失だもの」


 本気でそこまで言うことができるリコリスは、相当な大物だと思う。


「今のはどういうこと? 確か、ライトって小さな明かりを灯すだけの魔法だよね?」

「ええ、そうね。そのはずなんだけど……どうも、アイシャの魔力量が桁違いなせいか、制御に失敗したみたい。それで、あんなに強烈なものになった、っていうわけ」

「それは……」


 アイシャの魔力量は相当なものと聞いていたけど……

 まさか、ここまでなんて思っていなかった。


 きちんと練習しないと、とんでもないことになりそうだ。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
アイシャ「···バ○ス···」 サングラス付けたどこかの大将「目があああ!!」 って世界線ないかな((((え?
[良い点] やっぱり、リコリスとルナは性格が似ているから二人揃ったら気が合いそうな予感がするなあ。
[良い点] ・・・ 底知れない黄金の才能 ・・・ [気になる点] リコリスは妖精族の平民なんですよね? 上の階級ならば もっと重要な情報を知っているのかも? 女神の情報は 物語の根幹に関わって来る…
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