169話 がんばる
「魔法を?」
思わぬ話に、ついつい首を傾げてしまう。
ソフィアも不思議そうにしていた。
アイシャが学びたいというのなら、特に危険なものではないし反対はしないけど……
でも、なんで魔法なんだろう?
アイシャは今まで、魔法に興味を見せたことはないのだけど。
「アイシャちゃん、どうして魔法なのですか?」
「わたし、すごい魔法を覚えられる……?」
「えっと……はい、そうですね。その可能性はあると思います」
「なら……おとーさんとおかさんと、リコリスの力に……なりたいの。わたしも、がんばりたい」
小さな手をぎゅっとして、アイシャはいつになく強い様子で言う。
守られるだけはイヤ……という感じかな?
その気持ちはわかる。
僕も最初はなにもできなくて……
色々なところでソフィアに助けてもらっていた。
でも、それじゃあダメ。
きちんと自立したいと思うし……
いざという時は、好きな人の力になりたいと思う。
守られるだけじゃなくて、互いに支え合う。
それが理想なんだと思う。
「とはいえ……うーん」
「おとーさん、ダメ?」
上目遣いは反則だよ。
なんでも、いいよ、って即答してしまいそうになる。
「反対はしないよ。アイシャががんばりたい、っていう気持ちは本物だろうから。なら、僕は応援したい」
「私も同じ気持ちです。ただ……」
「僕達、魔法を使えないからどうしようかな、って」
魔法を覚えるための教室はあるんだけど……
でも、アイシャから目を離したくない。
獣人によからぬ感情を持つ人はいる。
悪いことを企む人もいる。
そして、希少種ということが判明した今、片時も離れず一緒にいた方がいいはず。
「ふっふっふ」
どこからともなく得意げな声が。
リコリスだ。
彼女は腕を組み、アイシャの頭の上で得意そうに胸を張る。
「魔法といえば、このあたし! マジカルミラクルプリティピュア妖精、スーパーリコリスちゃんの出番ね!」
いつも思うのだけど、名乗るのに疲れないのかな?
「リコリスが教師になるの?」
「そういうこと」
「それは……」
「不安ですね……」
「なんでよ!?」
だって、
「「リコリスだから」」
僕とソフィアの声がシンクロした。
「このバカップル、めっちゃ失礼なんですけど」
ごめんなさい。
「あたし、こう見えても魔法のエキスパートなんですけど? めっちゃ頭いいんですけど? 人間で言うなら、賢者っぽいんですけど?」
「ごめんね、リコリスの魔法の腕は疑っていないよ」
「まるで、他は疑っているかのような言い方ね……ま、いいわ。それで、あたしなら教えてあげられるけど、どうする?」
どうしようか? と、ソフィアと顔を見合わせた。
リコリスなら良い魔法の教師になれると思うし……
アイシャに危険が及ぶこともないはず。
でも、変なことまで教えないか、それが心配だ。
同じことを考えているらしく、ソフィアも微妙な顔だ。
「リコリス」
「なによ?」
「なら、お願いしたいと思うのですが……魔法だけを教えてくださいね? くれぐれも、余計なことを教えないでくださいね?」
「ふふーん、任せておきなさい!」
「もしも余計なことを教えたら、その時は……ふふ、夕飯のおかずが一品、増えることになりそうですね」
「誠心誠意、お嬢さまに魔法を教えさせていただきたいと思います」
器用に空中で深くお辞儀をしつつ、リコリスは魔法の教師を引き受けた。
ソフィアがここまで釘を刺したのなら平気だろう。
たぶん、余計なことはしないはず。
「リコリス、魔法を教えてくれるの?」
アイシャがわくわくした様子で問いかけた。
「ええ、そうよ。このあたし、スペシャリテマジックマスターミラクルキューティーガール、魔法少女リコリスちゃんが教えてあげる!」
「わー」
ぱちぱちと、律儀に拍手をするアイシャ。
それが心地よかったらしく、リコリスはドヤ顔に。
「このあたしが、アイシャを一流の魔法使いに育ててあげる。でも、修行の道は険しいわよ? ついてこれるかしら?」
「がんばる」
「いい答えね! ならば、今日からあたしのことは、マスターと呼びなさい!」
「ますたーど?」
「マスターよ、マスター! あたしは調味料じゃないわよ!」
「おー」
「なんで拍手するのよ!? 今、どこに感心する要素があったの!?」
「ますたーど、かっこいい」
「だからマスターよ!!!」
二人のやりとりを見て……
「これなら問題なさそうですね」
「そうだね」
僕とソフィアは、微笑ましい顔をするのだった。
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