146話 女の子は王子さまに憧れる
「はっ、はっ、はっ……」
雪の街を駆ける。
息が切れて、体が重い。
それでも一生懸命に走った。
正直なところを言うと、そこまで急ぐ必要はない。
ただ、少しでも早く彼女に会いたくて……
「ソフィア!」
「あっ……フェイト」
公園に到着すると、先に来ていたソフィアがにっこりと笑う。
花が咲いたような笑顔で、とても綺麗だと思う。
「ご、ごめんね。遅れちゃったかな……?」
「ううん、そんなことはありませんよ。私が早く来ただけです」
そう言って、ソフィアは公園の時計を指差した。
約束した時間の五分前。
確かに、遅刻はしていないみたいだけど……
「ソフィア、いつから待っていたの?」
今日は、ちょっとだけど雪が降っている。
だからなのか、ソフィアの頭に少し雪が積もっていた。
「ほんの少し前ですよ」
「えっと……」
ウソだ。
絶対にウソだ。
たぶん、三十分は待っていたに違いない。
なんでそんなに早く来ているのか、それはわからないんだけど……
雪が積もるくらい待たせてしまったことを後悔する。
「えっと……」
ごめんね、と言おうとして、ふと思い直す。
彼女と友達になって、一週間。
まだ短い付き合いだけど、ソフィアはとても優しくて、思いやりがある女の子だということを知った。
だから、謝っても気を使わせてしまうだけ。
なら……
「よいしょ」
「フェイト?」
「よしよし」
そっと、ソフィアの頭を撫でた。
撫でるついでに、積もった雪を払う。
「……」
「あ」
しまった。
女の子に気軽に触るなんて……
「ご、ごめんね。つい……」
再びしまった。
結局、謝ってしまった。
「……ふふ」
ソフィアが笑う。
今度は、ちょっと困ったような笑みだ。
うう、失敗だ……
気を使わせてしまった。
「きょ、今日はなにをして遊ぼうか?」
失敗した分、ソフィアをたくさん楽しませないと。
そう思って、やりたいことはないか問いかける。
「フェイトは、なにかやりたいことはないんですか?」
「うーん、特には。ソフィアが遊びたいことでいいよ」
「そう言って、いつも私を優先してくれますけど……本当にないんですか?」
「僕は、ソフィアと一緒にいられるだけで楽しいから」
出会って、まだ一週間。
それなのに、どうしてそんなことが言えるのか、と思われるかもしれないけど…・・
でも、本当のことだ。
ソフィアと一緒にいると、自然と笑顔になれる。
すごくワクワクした気持ちになれる。
あと、よくわからないけど、ドキドキする。
それら全部が楽しくて……
ずっとずっと彼女と一緒にいたい、って思う。
「……」
ソフィアは、ぽかんとして……
次いで、頬を染める。
「どうしたの?」
「え?」
「顔が赤いよ?」
「えっと、その……」
ちらっと、ソフィアがこちらを見る。
また顔が赤くなる。
それから、小さな声でつぶやいた。
「……フェイトは、私の王子さまなのかもしれませんね」
「うーん?」
「そんな風に言ってくれる人、フェイトが初めてです」
「そう、なの?」
だからといって、なんで王子さまになるんだろう?
というか、王子さまってどういう意味?
「ふふ、女の子は単純なことで心惹かれるものなのですよ」
「えっと……ごめん、よくわからないや」
素直に言うと、ソフィアはくすくすと笑う。
よくわからないことに代わりはないのだけど……
でも、ソフィアが楽しそうだからいいや。
「では、雪遊びでもしましょう?」
「うん!」
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