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115話 一つの依頼

 エドワードさんに認めてもらうため、まずは、大きな手柄を立てることを考えた。

 そのために、リーフランドの冒険者ギルドを訪ねる。


「うわぁ」


 リーフランドの冒険者ギルドは、他のところと違い、たくさんの自然にあふれていた。

 至るところに観葉植物が飾られていて、とてもおしゃれだ。

 冒険者ギルドの看板がなければ、カフェかなにかと勘違いしていたかもしれない。


「ふーん、なかなか良いところじゃない。あたしの別荘にしてあげてもいいわ」

「ここは冒険者ギルドで、家ではありませんよ」

「お花……良い匂いだね」

「はい、そうですね。アイシャに似て、とてもかわいいお花ですね」

「ソフィア、あんた……あたしとアイシャで、扱いの差が激しすぎない……?」


 リコリスが唖然とする中、カウンターへ。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。依頼でしょうか? それとも、冒険者の方でしょうか?」

「冒険者だよ。ここで活動をしたいから、その登録をしたいと思って」

「かしこまりました、登録ですね? では、冒険者カードをお願いします」


 新しい街で活動をする時は、そこの冒険者ギルドで登録をしないといけない。

 事前に登録を求めることで、問題行動のある冒険者を排除できる。

 さらに、後々で問題が起きた時、スムーズに解決することができるし……


 そのような感じで、登録が義務づけられているのだ。


 ちなみに、ソフィアのような、限られた人しか与えられていない称号を持つ人は、登録は免除されている。

 有名すぎるから、そのようなことをしなくても問題はないだろう、という判断らしい。


「……はい、登録が完了しました。フェイト・スティアートさんですね? しばらくは、リーフランドで活動を?」

「うん、そのつもりだよ」

「なるほど。スティアートさんの活躍、お祈りしています。そして、パーティーメンバーは……そ、ソフィア・アスカルトさん!?」


 さすが、剣聖。

 ソフィアのことは知っているらしく、受付嬢は目を大きくして驚いていた。


「アスカルトさん、リーフランドに戻ってきていたのですね」

「まあ、色々とありまして」

「……本当に色々とありそうですね」


 受付嬢の目が、チラリとアイシャとリコリスに向いた。

 ただ、深くは突っ込まないでくれて、次の話に移る。


「今日から活動を開始されますか?」

「うん。ちょっと理由があって、できるだけ大きな手柄を立てたいんだけど、なにか良い依頼はないかな?」

「そうですね……それなら、連続殺人事件の調査なんていかがでしょう?」


 既視感を覚える依頼だ。


 以前は、シグルド達が逆恨みで起こした事件だったのだけど……

 リーフランドでも、似たようなことが起きているのかな?


 ひとまず、疑問はそのままにして、話を聞くことに。


「最近、リーフランドで殺人事件が多発しています。検死の結果、魔物などによる被害ではなくて、人の犯行によるものだということがわかりました。目撃情報もいくらかあり、全身黒尽くめの者が、同じく黒い剣を手に、街の裏路地に消えていくところを見た……という人がいます」

「今度は目撃者がいるんだね」

「今度は?」

「あ、ごめん。こっちの話だから、気にしないで」

「続きを聞かせてくれませんか?」

「はい。騎士団は、捜査本部を設置。犯人を、『漆黒の剣鬼』と名付けて、捜査を開始したのですが……なかなか尻尾を掴むことができません。そのうち、犠牲者は三人に。このままでは、被害は拡大するばかり。管轄にこだわっている場合ではないと、冒険者ギルドに依頼が回ってきた……ということになります」

「なるほど」


 以前と状況が似ているのだけど……

 さすがに、シグルド達は関与していないだろう。


「漆黒の剣鬼を捕まえればいいのですか?」

「はい。場合によっては、斬り捨てても構いません」

「それはまた、過激だね……」

「すでに、犠牲者は五人。犯人の人権なんて、尊重していられる状況ではありませんからね」


 犠牲者が五人も出ているのなら、納得だ。


 犯人の命と、これから出るかもしれない犠牲者の命。

 どちらを選ぶのかと言われれば、間違いなく後者を選ぶ。


「ただ、漆黒の剣鬼の正体は未だわからず、神出鬼没。その目的も不明でして……なので、漆黒の剣鬼に関する情報提供も求めています。逮捕、もしくは討伐に繋がる有力な情報があれば、そちらも高価で買い取りますよ」

「そんなに困っているの? もしかして、漆黒の剣鬼は、情報を掴ませないような特殊な能力を持っているとか?」

「いえ、そのような話は、まだ聞いていないのですが……まあ、判明していないだけかもしれませんけどね。ただ、恐ろしく腕が立つみたいです」

「恐ろしく……」

「被害者の中には、Bランクの冒険者もいまして……しかも、ほとんど抵抗できずにやられてしまったらしく」

「それが本当なら、確かに恐ろしい話ですね」


 仮に、ソフィアがBランクの冒険者と戦ったとしよう。

 圧倒的な力の差があるから、勝負はすぐに終わるだろうけど……

 Bランクにもなれば、少しは粘ることができるはずだ。


 それすらもできないなんて、漆黒の剣鬼はよほどの力があるに違いない。


「フェイト、どうしますか?」

「うーん」


 迷う。

 危険度の高い依頼ではあるものの、解決できたのなら、その手柄は大きい。

 もしかしたら、エドワードさんに認めてもらえるかもしれない。


 いや。

 この際、手柄とかどうでもいいや。

 エドワードさんのことも、ひとまず保留。


 五人も犠牲者が出ている。

 一人は、同じ冒険者仲間。

 会ったこともないのだけど……でも、とても悔しかっただろうな、って思う。


 その無念を晴らしてあげたい。


「僕は、請けたいと思う。僕にとって、リーフランドは関係ない街じゃない。ソフィアの故郷だから、そこが荒らされているとなると、なんとかしたいよ」

「フェイト……ふふ、ありがとうございます」


 ソフィアの笑顔があれば、やる気百倍だ。


「というわけで、この依頼、請けるよ」

「はい、わかりました。すでに、いくらかの冒険者がこの依頼を請けており、漆黒の剣鬼が討伐された場合は、早いものがちになりますが……よろしいですか?」

「うん、いいよ」

「では、こちらをどうぞ」


 受付嬢からファイルを渡された。


「こちら、事件の情報をまとめたものになります。全ての情報が載っているわけではありませんが、なにかしら役に立つのではないかと」

「ありがとう」

「では、健闘をお祈りしています。そして、このリーフランドに平和を取り戻してくれることを期待しております」


 受付嬢に見送られて、僕達は冒険者ギルドを後にした。


「良いタイミングで依頼がありましたね。この依頼を解決できれば、きっと、お父さまもフェイトのことを認めてくれるでしょう」

「うん……そうだね」

「どうしたのですか? 暗い顔をしていますが……」

「依頼があったことはうれしんだけど、でも、犠牲者がたくさん出ているから、それは喜べないかな……って」

「フェイトは優しいですね……その優しさは、犠牲のためにとっておいて、そして、怒りは犯人にぶつけてやりましょう」

「うん、そうだね! がんばらないと」


 リコリスが、「またイチャついてるし……」とぼやくのが聞こえたけど、聞こえないフリをしておいた。


「さてと、それじゃあ、まずはこのファイルを読んでみて……」

「おとーさん、おかーさん」


 アイシャが、僕とソフィアの服の端を掴んだ。


 どうしたのだろう?

 不思議に思って視線を落とすと、耳をぺたんと沈めて、怯えた様子のアイシャが。


「あっちの方で……怖い感じがするの」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] NG集 アイシャが、僕とソフィアの服の端を掴んだ。 どうしたのだろう? 不思議に思って視線を落とすと、耳をぺたんと沈めて、怯えた様子のアイシャが。 ア「あっちの方で……怖い感じがするの」…
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