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110話 とあるトラブル

 リーフランドは緑の多い街だ。

 公園がいくつもあるだけではなくて、街の至るところに木や花が生えていた。


 個人の家にも、花壇などがたくさん飾られていて……

 街全体が緑に包まれていると言っても過言ではない。


 心地良い自然の匂い。

 虫の鳴き声に、花の香り。

 それらを感じていると、とても心が安らぐ。


 街を散歩して三十分くらい……

 僕は、すぐにこの街が好きになった。


 とはいえ……


「のんびり散歩なんてしていていいのかな?」


 ソフィアは、絶賛、エドワードさんと喧嘩中だ。

 夜まで終わらないだろうとエミリヤさんに言われ、散歩を勧められたのだ。


 ソフィアはおしとやかに見えるのだけど、本気で怒ると手がつけられない。

 僕でも、彼女を止めることはできない。


 そのことをよく知っているため、屋敷に残っても仕方ないと、アイシャとリコリスを連れて散歩に出たのだけど……

 でも、気になる。

 ソフィア、無茶をしていないかな?


「こら!」

「いた」


 僕の頭の上に乗るリコリスが、ぱかん、と頭を叩いてきた。


「なにするのさ?」

「子供の前でそんな顔するんじゃないわよ。親なんでしょ? なら、どんな時もどっしりと構えていないと、アイシャが不安になるわ」

「あ……」


 まさにその通りだ。

 僕の不安が伝わってしまったらしく、アイシャは落ち着かない様子で、こちらを何度も何度も見上げていた。


「アイシャ」


 僕は優しく笑い、彼女の頭を撫でる。

 気持ちよかったらしく、尻尾がぴょこぴょことうれしそうに揺れた。


「ごめんね、心配かけちゃった」

「おかーさん……大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。だって、ソフィアは世界で一番強いからね」

「……うん」

「それよりも、お腹は空かない?」


 そう問いかけた時、きゅるるる、というかわいらしい音が響いた。

 アイシャの顔が赤くなり、お腹を押さえる。


「あう……」

「お菓子だけじゃ、ちょっと足りないよね。まだ、お昼も食べていないし……ソフィアには悪いけど、ごはんにしようか?」

「うん!」

「あたし、肉が食べたいわ! 肉! 脂たっぷりのジューシーな肉がいいわ!」

「リコリスは妖精なのに、ものすごくガツガツとしているんだね」


 苦笑しつつ、適当な店を探す。


 ほどなくして、店頭にたくさんの花を飾る飲食店を発見した。

 店の中から、食欲を誘う香ばしい匂いが漂ってくる。


 昼のピークは過ぎているものの、それでも、それなりの人がいる。

 たぶん、この街の人気店なのだろう。


「ここにしようか?」

「うん」

「肉があたしを呼んでいるわ!」


 二人が賛成してくれたので、店の中へ。

 席に移動すると、店員が子供用のイスを持ってきてくれた。

 さらに、妖精用の小さなコップも用意してくれる。


 サービス満点だ。

 こういう店は、きっと料理もおいしいに違いない。

 期待を膨らませつつ、メニューを見る。


「えっと……僕は、レモンソースのステーキのセットと、オムレツにしようかな。二人は決まった?」

「あたしは、ステーキ特盛よ!」

「えっと、えっと……お魚おいしそう。でも、ハンバーグもおいしそう」

「迷っているなら、アイシャがお魚を頼んで、僕もハンバーグを頼もうか? それで、はんぶんこにする?」

「うん!」


 決まりだ。

 オーダーをして、料理ができあがるのを待つ。


「んー」


 アイシャがソワソワしていた。

 料理が楽しみらしい。


「きっと、おいしいと思うよ。匂いだけでお腹が空いてきちゃうくらいだからね」

「おとーさんも、お腹が、ぐーってなっちゃう?」


 ぐう、とリコリスのお腹が鳴る。


「……あたしで悪かったわね!」


 恥ずかしそうにするリコリスを見て、僕とアイシャはくすくすと笑った。


「なあ、いいだろ? この後、一緒に来いよ」


 食事を楽しみにしていた時……

 ふと、ねちっこい声が聞こえてきた。


 振り返ると、大柄な男が、僕と同じかちょっと下くらいの女の子に絡んでいるのが見えた。

 大柄な男は酔っているらしく、頬が赤い。

 馴れ馴れしく女の子の肩に手を回し、酒臭い息を吐きつつ、彼女を誘う。


「絶対に後悔はさせないぜ? 最高に気持ちよくしてやるよ。女に生まれた悦び、ってのを俺が教えてやるよ」

「お客さま、当店でそのような行為は……」

「うるせえ! 俺の邪魔をする気か、あぁん? 俺は、Aランク冒険者のギルさまだぞ!? 痛い目に遭いたくなければ、引っ込んでろ!」


 大柄な男……ギルの言葉にウソはないのだろう。

 Aランク冒険者と呼べるだけの威圧感を放っていた。


 ただの店員では、どうすることもできない。

 店員は、一度、店の奥に引き下がる。

 このままにしておくことは考えられないから、騎士団に訴えに行ったのだろう。


 でも、騎士が駆けつけてくるまでに時間がある。

 その間に、女の子は……


「……あーもう、この店の料理おいしいって評判だから、楽しみにしていたのに」


 ポツリと、女の子がつぶやいた。

 瞬間、ゾクリと背中が震えた。


 なんだ?

 今、なにが起きた?


 女の子から、すさまじい殺気が放たれたような気がしたのだけど……

 でも、今はなんともない。

 気のせいだろうか……?


 って、呑気に見ている場合じゃないか。


「そこまでに……」

「そこまでよ、このろくでなし!」


 僕が割り込むよりも先に、リコリスがビシリと言い放った。

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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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