勇者と聖女の対峙は終わり、そして────
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剣の切っ先から溢れる閃光は、その剣を薙ぐ事によって向きを変えていく。
それは敵味方関係なく。周囲で戦っている兵士やミカエラをも巻き込みながら、タカアキは横一線に剣を振るった。
勇者に与えられた光は、聖女と同じで女神から与えられた恩恵。魔族を浄化し、滅する為に振るわれる力。
故に、味方をも飲み込んだとしても魔族のみにしか力は振るわられない。
「おっと、いけませんね」
マドラセルは先程骨に変えた建物を自身の前に持ってきて、その閃光を防ぐ。
防ぎれなかった魔族は悲鳴を上げて一瞬にして浄化、マドラセルが盾にした骨は徐々に溶けていく……が、
「これじゃあ、通らないのか。やっぱり、君だけは他の魔族とは違うようだね……アニメとかだと、四天王とか幹部みたいなポジションにいる魔族なのかな?」
「伊達に四魔将を名乗っておりませんので。現れたばかりの未熟な勇者の力程度に、私は倒される訳にはいかないのです」
閃光が消え、残ったのは瓦解しかけた骨の塊と、五体満足のマドラセル。
本人の言う通り、この程度の威力では倒せないようだ。
(いやぁ……今の、割かし本気でやったんだけど……。駆け出し勇者には、強すぎる相手じゃない?)
その光景に、タカアキは内心焦りを残す。
だけど────
「あははっ! じゃあ、《《私達》》だとどうかなぁ〜!」
マドラセルの後ろ、目も眩むような閃光に紛れて背後をとったミカエラがメイスを思いっきり振り下ろす。
それを見た瞬間、タカアキは地面を思いっきり蹴った。
「ふんっ!」
マドラセルがミカエラの存在に気づくと、拳を握りしめる。
すると、ミカエラの両腕の骨が粉砕され、握っていたメイスは地面に鈍い音を残して落ちてしまう。
だが────
「とりゃぁ!」
すぐ様ミカエラはメイスを諦めて、マドラセルの横っ腹に思いっきり蹴りを放つ。
痛みは感じていないのか、怯む様子もなく繰り広げられた蹴りを避けられなかったマドラセルは後方へ思いっきり吹き飛ばされた。
そして、その先。
「武具放射」
タカアキが剣を構えながらマドラセルを迎え撃っていた。
今度は一点、濃縮された閃光はマドラセルのみに牙を向こうとする。
「これは、いけませんなぁ」
顔色一つ変えずマドラセルは吹っ飛ぶ勢いを殺さないまま拳を握る。
狙うは勇者の頭蓋骨。内部だろうが外部に露出していようが、一点のみであれば無条件で砕くことができるマドラセルの権能は、勇者の命を狩り取ろうとしていた。
がしかし────
「なぬっ!?」
砕けない。握りしめた筈の拳に手応えがない。
頭蓋を粉砕されて絶命する筈の勇者が、未だにこちらに向けて剣を振り被っている。
「僕の鎧は外敵から身を守る為に用意されたものなんだ。鎧が立ち向かわない以外の攻撃は、そもそも通さない」
勇者の鎧は万物から身を守る物。
それは鎧自身が、外敵よりも強固である事を証明したい為に守る物であり、物理的に鎧に立ち向かい、敗北したのであれば傷がつく。
だが、戦わずして与えられる攻撃など証明にならない。故に、《《装着者本人のみに攻撃する物は土俵に立てない》》。それ即ち、通さない。
「僕らの連携を舐めないでよね」
勇者が勢いを殺さなかったマドラセルの首を跳ねる為に横凪に剣を振るう。
マドラセルは背中の骨を地面に突き立てる事によって何とか軌道からそれたものの、溢れ出る閃光からは逃れる事はできず、右腕が一瞬にして溶けてしまった。
そして、マドラセルは状況が不利と考えたのか、その場から離脱しようと空高く舞い上がる。
だが、それを逃すタカアキ達ではなかった。
「逃げるなんて許さないからねぇ〜?」
「そうだよ、ここで逃げられちゃ困るんだ」
ミカエラが舞い上がったマドラセル目掛けて飛び上がり、タカアキがその閃光の高さをより一層伸ばした。
「いやはや、これは本当に参りましたなァ!」
マドラセルは初めて焦りの表情を二人に見せながら、翼の骨を二人に向かって伸ばす。
空中でそれを食らってしまったミカエラは地面に激突し、タカアキはお構い無しにマドラセルに向かって剣を振るった。
骨は鎧に弾かれ、マドラセルに向かって光の奔流が襲いかかる。
「此度の勇者は少し厄介ですなぁ! 人間風情が、調子に乗らないで頂きたいっ!」
「いやいや、魔族相手だったら調子ぐらい普通に乗るよ」
マドラセルは再び翼を広げて逃れようとするが、寸前遅く左足に思いっきり直撃してしまう。
右腕左足を負傷したマドラセルが地面に落ちる。負傷した箇所のダメージが相当辛いのか、すぐ様起き上がる様子もない。
「畳み掛けるよミカエラ!」
「はいは〜い♪」
タカアキとミカエラが留めと言わんばかりにマドラセルに肉薄していく。
相手は負傷、こちらは無傷。四魔将相手に、勇者と聖女が圧倒している状況は、その光景を見ていた兵士達の心が震え上がらせていた。
だが────
「などと、調子に乗っていると痛い目を見るのですよ?」
ぐちゃり、と。
マドラセルがそう呟いた瞬間、そんな何かが潰れるような、貫かれる音が兵士達の耳に入った。
見れば、ミカエラの胴体に地面から飛び出ている尖った大きな骨らしきものが突き刺さっており、タカアキはその鎧の隙間目掛けて何本もの骨の杭が地面から貫いていた。
「ごふっ」
「ッ!?」
ミカエラが口から大量の血を吐き、タカアキが苦悶の表情を浮かべる。
それに対し、マドラセルは嗤った。
「どうです? 見えない場所にも目を向けず、弱った敵相手に慢心していたからこその現状。少しは学習していただけたでしょうか?」
マドラセルが背中の翼を杖変わりにして立ち上がる。
未だに右腕と左足は溶けているものの、致命傷には至っていないように見えた。
「タカアキくん……ごめんねぇ……」
ミカエラはタカアキに謝る。ミカエラの特質によって体を癒そうとするものの、胸を貫く骨が残ってしまい傷が塞げない。
「いや、僕の方こそ油断しちゃったからね……ッ!」
一方のタカアキは、骨を抜こうとするものの貫いた骨の先端が返し状になっている為に、上手く抜けなかった。
二人は動けない。
それぞれがたった一度の攻撃を食らってしまったが故に。
『お、俺達も勇者様達に続くんだ!!!』
『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』』』
タカアキによって魔族を相手しなくても良くなった傍観者の兵士達が立ち向かおうと走り出す。
自分達は守られてばかりでいいのかと、俺達よりも若い奴が体を張ったんだぞと、今度は自分達が戦う番だと。
「いやはや、それは勇気ではなく無謀と言うものですよ。愚行と言っても差し支えなさそうですが……」
その兵士達を見て、マドラセルは肩を竦める。
こんな相手ではすぐ様命を散らすだろうにと。それが分からないなんて……やはり人間は愚かだと、そう思った。
「では、己の愚行を悔いながら砕けてもらいましょう」
(……や、めて……お願い、だからぁ……)
涙を流しながらミカエラが声に出ない懇願するものの、マドラセルは構わず兵士の集団に向かって拳を向ける。
このままでは皆が殺られてしまう。
逃げて、そう叫びたくても口から出るのは血のみ。タカアキも必死に抜け出そうとするものの、抜け出せずにいた。
聖女は血と共に涙を流す。
それは聖女だからか、仲間だからかは分からない。
すると────
「勝てると慢心し、見えない場所に目を向けないなんて────それは傲慢で怠惰じゃないのか?」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
そんな轟音が響き渡った。
見ればマドラセルの体は宙に浮き、兵士達のいる場所とは反対側にある建物まで吹っ飛んでいた。
「き、君は……」
ミカエラが顔を上げる。
そこには、学生服を翻し不遜な態度で佇む銀髪の少年の姿があった。
「さぁ、第二ラウンドといこうじゃないか、傲慢に浸ったクソ魔族」
次に対峙するのは、聖女でも勇者でもなく────
大罪の魔術師、ユリス・アンダーブルクであった。




