聖女と勇者と対峙するのは
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「あははっ! じゃあ私から行っちゃうね~!」
水色の髪を靡かせ、悦が浮かんだ表情のままミカエラが魔族に向かって地を駆ける。
どこからともなく溢れ出した淡い光が少女の体を覆い、行く手を阻んだ魔族の群れがミカエラの持つメイスによって薙ぎ払われる。
それに続いて後ろに控えていた騎士達も、気合いの籠った叫びを上げながら魔族に向かっていく。
数では劣るものの、ここに集まったのは鍛え抜かれた兵士達。無傷とはいかないだろうが、それでも魔族に後れをとる者達ではない……そう、タカアキは思っている。
(それに、時間を稼げば同盟国からの援軍が到着するって話だし……最低目標として、時間稼ぎで十分かな)
もちろん、倒してしまった方がいいに決まっている。
だが、タカアキとしても犠牲を少なくして魔族を殲滅させたいと考えており、無駄に前に突っ込んで自軍の被害を大きくさせるのであれば援軍が来るまで待っていた方がいいと考えた。
まぁ、それでも国の――――この街の被害が大きくならないのであれば、の話だが。
(本当はミカエラと別れて殲滅に向かった方がいいんだけど……まぁ、仕方ないよね。こうして魔族と出会っちゃったんだし)
タカアキは鞘に手を添えて呟く。
「武具装着」
すると、タカアキを中心として閃光が湧き上がり、その身に光沢のある鎧が顕現した。
勇者としての力。異世界人だからこそ扱える女神からの恩恵。
その力は魔族と戦う為だけに与えられ、その身はより強固に、万物から守る為の防具を身に着け、魔族を切り裂く為の剣を与えた。
「これはこれは……噂に違わず、忌々しい力をお持ちのようで――――弱りましたなぁ……」
「その割には、随分と余裕そうに見えるけどね?」
「もちろん、人間相手に焦るわけがございませんので」
四魔将が一人、マドラセルは軽く頭を下げる。その所作からはありありと余裕が感じられた。
「だったら、私を楽しませてくれるんだよねぇ~!?」
行く手を拒む魔族を薙ぎ倒したミカエラがマドラセルの懐に入り込もうと、再び肉薄する。
「それは勿論、存分に。何なら、死というオプションもつけて差し上げましょう」
「あはっ! 嬉しいサービスありがとうねぇ〜! だったら、私もお礼しなきゃだもんね〜!」
目の前まで迫ったミカエラがメイスを勢いよく振りかざす。
「我が癒しは剛と化し、かの者に愛と苦を与えま〜す♪」
すると、ミカエラの体に覆われていた淡い光がメイスに集まり、並々ならぬ輝きを放った。
武を極めた聖女であるミカエラは『癒し』の力を剛の力に変える魔法を編み出した。
それは癒す事よりも力を欲したからであり、それによって多大な癒しを受けたミカエラは多大な力を身に付ける。
さながら戦闘狂。好んで聖女になったわけではないミカエラが苦悩と欲求を満たす為に作られた魔法。
その力は地面を砕き、魔を浄化させる。
「なんとも肌がヒリヒリするような魔法ですな!」
マドラセルが笑みを浮かばせ、背中に生えた骨を伸ばしメイスを防ぐ。
だが、女神の恩恵を受けたミカエラの魔力は骨をじわりと溶かし始める。
それ故、マドラセルはすぐさま背中から骨を切り離し、新たな骨をまた生やした。
「ふふふ〜! なんか気持ち悪いねその背中! 魔族ってそんな生き物ばかりなの〜? ううん、魔族って全員気持ち悪かったね〜!」
「いやいや、人間ほどではありませんぞ?」
恍惚とした表情で貶すミカエラに、マドラセルは皮肉で返す。
「では、今度は私の番ですかな?」
マドラセルがそう言うと、背中の骨が横に並ぶ建物まで伸び建物に突き刺さる。
すると、その建物の外装が一気に剥がれ色が変わり、質素な骨の色へと変色────やがて全てが骨へと変わっていった。
「我が魔神様より賜りし権能は、全てを骨へと変え、あらゆる骨を砕きます。ですので、こんな風に────」
ゴリッ、そんな聞こえるはずもない音がタカアキの耳に入った。
音のする方へ視線を動かすと、ダラりと首が後ろに下がっている────ミカエラの姿だった。
(うわぁ……この世界に慣れてなかったら絶対吐いてそう……)
見れば、明らかに首が逝ってしまっている。
常人であれば即死。どうやって骨を砕いたのか? それすらも分からないのだが……タカアキはその光景を見ても落ち着いている。
それは────
「くふっ……くふふふふふっ!」
首が後ろにぶら下がった状況でミカエラが嗤う。
首が逝っている筈なのに、その生命は尽きていなかった。
「痛い……痛いです……がッ! これこそ、至福、生きているという証なんだよ! 幾度潰えても立ち上がらせるこの忌々しい力……えぇ! 本当に、女神様には感謝だよ〜!」
ゆっくりとその首が元の位置へと戻り、いつもの彼女としての姿に。
彼女は本当に聖女なのか? まるで屍を見ているかのよう。
「残念だったね。ミカエラは常に癒しの魔法を身に纏っているから、即死レベルの攻撃でも首が離れない限りミカエラは死なないんだ────まぁ、僕としては可哀想ではあるけど……」
痛みだけ残り、死に至らない。
それがどれだけ残酷な事か、この世界で勇者になったタカアキは知っている。
だがミカエラだけは、それを喜ぶ。
痛みこそが至上だと、何度でも戦えるからと、笑みを浮かべて立ち上がる。
戦う為だけに生きている……なんて言われてしまえば信じてしまいそうだとタカアキは思った。
「なるほど……私の中で聖女のイメージが崩れ去りましたな」
「そんなイメージ捨ててしまってもいいんだよ〜? 私は私、戦えたら印象なんてどうでもいいからね〜」
「それはなんとも《《魔族らしい》》。あなたが聖女でなければ、是非とも我々の城にご招待したいところだ」
「あはっ! 一昨日来やがれってやつだよ〜!」
ミカエラが再びメイスを構えてマドラセルに肉薄する。
「それは残念。では、当初の予定通り────殺して差し上げましょう」
今度は骨を砕くのでは無く、骨に変えた建物を動かしてミカエラにぶつけようとする。
「僕もいる事を忘れないで欲しいね。これでも勇者だし────何より、女の子ばかりに戦わせるのは心が痛いんだよね」
タカアキが鞘から剣を抜く。
光輝く聖剣が等身を表し、ミカエラを襲わんとする骨の塊に向かって剣先を向けた。
「武具放射」
その瞬間、骨の塊が凄まじい閃光に呑まれた。




