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【書籍化決定】魔法学園の大罪魔術師  作者: 楓原 こうた
裏切り者の吸血鬼と大罪の弟子
55/69

馬車にて

 さて、国内での選抜戦が終わり現在ユリス達一行は武闘祭が行われるザガル国へと向かっていた。

 ラピズリー王国と隣接しているザガル国は海に面し、港を利用した交易が盛んなことからそれなりの大国として知られている。


 更に、この度は勇者がザガル国で召喚された────となれば、その認知度も発展も今まで以上。選ばれし存在がいる国は当然邪険にできず、各国は同盟を結びつつも一歩煽てている状況。

 その為、今回の武闘祭の開催場所もザガル国になったという訳だ。


 そして現在、馬車であれば1日で辿り着くザガル国に向かっているユリス一行。

 当初は準備と式の兼ね合いもある為、参加者と引率の面々はザガル国へと馬車で向かっていた。


「おっもい……空気がおっめぇよエミリアはん……」


 そんな中、ユリスは荷台の隅で蹲っていた。

 会話なし、笑顔もなし、皆緊張と気迫を撒き散らしてそれぞれ荷台で座っている状況。

 ラピズリー王国の象徴であるシンボルの旗を掲げ、豪華すぎる馬車の荷台は50人は余裕で座れるほどの広さ、加えて後ろを追従するのは何十人もの護衛の騎士。


 基本護衛なし、欲望の赴くままに個別行動をしていたユリスにとって、この状況は非常に肩身の狭い場所であった。


「まぁ、この場にいる人全員が同じ国の出とはいえ、皆が敵同士になる訳ですから……このような雰囲気になってしまうのも仕方ありません」


「エミリアは〜ん……」


 荒れ狂う戦場に咲く一輪の花。こんな張りつめた空気に中でも今まで通りに接してくれるオアシス。

 今のユリスにとっては、自分の隣に座るエミリアが天使に見えた。


(それに、ちょっとセシリアと離れるだけで不安になるとはなぁ……)


 現在、ユリスとセシリアは別行動。後に合流できると分かっていても、セシリアが隣にいないだけで不安に感じてしまう。

 それはセシリアに依存し始めているのか、はたまたセシリアの身を案じてなのか? それはユリス本人にもいまいち分からなかった。


「ふふっ、ユリス様でもこのような空気は苦手なのですね」


「いや、俺でもってなんだよ……俺は空気を読める男だと実家では評判だったぞ? こんな所でパーティーをするようなアホンダラ野郎じゃねぇよ」


「あら? いつもの傲慢は何処に行かれたのですか?」


「時と場所ぐらいは弁える。それが例えこの場にいる者全てが俺より弱かろうがな」


 ユリス、自称空気を読める男としてこんな場所で堂々と傲慢な態度はとらない。

 大人しくこうしてヒソヒソと小声で話すくらいだ。


「ふふっ、その言葉こそ傲慢なのでは?」


「うっさいエミリア」


 からかう様に笑うエミリアにユリスは小突く。

 エミリアの顔が一瞬嬉しそうなものになったのは、きっと気の所為ではないだろう。


「おや? そちらの二人はどうやら余裕そうだね」


 そんな時。隅っこでひっそりと話すユリス達に新しい声が介入した。

 ユリス達の正面。金髪を綺麗に揃え、整った顔立ちに爽やかなスマイル。足を投げ出してまったりと寛ぐ少年。

 その姿を一言で表すなら────


「イケメン……ッ!?」


 イケメンだ。そう、ユリスの目の前に座り声をかけてきた生徒はイケメンだったのだ。


「初めまして、かな? 僕はエリオット・ヘヴィス、四学年で一応生徒会長を務めさせてもらっているよ」


「自己紹介までイケメン……ッ!」


 金髪の少年────エリオットのセリフ一言一言が、ユリスに不快感を与える。

 それはきっと、ユリスが平凡な顔立ちで生まれてきたからだろう。


「私はエミリア・ラピズリーと申します。こちらのユリス様と同じ一学年の生徒です」


 一方で、エミリアは平然と自己紹介を返す。イケメンにも動じないその姿────流石は王女なのかもしれない。

 いや、もしかしたら違う理由なのかもしれないが。


「そんな固苦しいのはやめてくれ。王女様に敬われてしまっては、こっちが気まづいからね」


「ふふっ、では普段通りでいかせていただきますね」


 上品に笑う天使のように美しいエミリア。

 軽い苦笑を浮かべながらも、その姿は何処か魅入ってしまうエリオット。

 正しく美男美女。肖像画を作るなら、きっとこのような二人がモデルだと映えてしまうのだろう。


(ま、眩しいっ!?)


 その姿は、一般人のユリスにとっては目に毒だったようだ。


「君は確か……ユリス・アンダーブルクくんだったかな? 敵同士になっちゃうけど、同じ学園同士仲良くしてくれると助かる」


 そう言って、エリオットはユリスに手を差し出す。


「あ、俺イケメンアレルギーなんで」


 だが、ユリスは反射的に拒否。

 それは一重に毛嫌いから始まるものだろう。まるで子供のようだ。


「ユリス様? お気持ちは全く理解できませんけど、形だけでも仲良くした方がいいのではありませんか? 私も、ユリス様以外の殿方に手を差し出されたら反射的に拒んでしまいますが、この場では最低限の挨拶ぐらいは……」


「あはは……エミリア様は結構言うタイプなんだね」


「だけどエミリア!? この人、めっちゃイケメンじゃん!? 見てみろよ、あの苦笑いだけで醸し出されるイケメンオーラを! 同じ男でも「あ、こりゃ適わんわ」って思っちゃうんだよ!? あー、もう羨ましいなこんちくしょう! 俺にないものを全て持ってるイケメン嫌いっ! この人嫌いっ!」


「君も大概素直だよね……」


「大丈夫ですユリス様。人間、顔だけではありません……わ、私は……その、ユリス様の方が……す、好きですよ?」


「ははは……」


 イケメンを妬むユリスに頬をほんのりと染めたエミリア。

 その二人にエリオットはもはやから笑いしか出来なかった。


(別にここまで言われる為に話しかけた訳じゃないんだけどね……)


 愉快というか、個性が強いというか。

 少なくとも生徒会長を務めてきてからこれまでで、一番の言われようだったかもしれない。


 そんなさなか────


「なんじゃ、お前さんらは静かに移動もできんのか?」


「へぶしっ!?」


 ユリスの横は空いた荷台の入口であり、馬車のスピードについてこられれば乗り込めるようになっている。

 そこに黒を基調とした露出控えめなゴシックなドレスを身に纏った少女が登場。

 その際、見事にユリスの脳天に膝蹴りを加えたのであった。


「師匠……貴様ァ……!」


「うるさいわ。ちぃーとは空気を読んで静かにしとれ、我が弟子」


 脳天を押さえ、睨みつけるユリスにミュゼは臆することなく言い放つ。

 流石は英雄。更にユリスの師である。此度の引率としてこれ以上にないくらい相応しい。


「「……師匠?」」


 一方で、聞き捨てならない単語を聞いたエミリアとエリオットは首を傾げた。

 だがしかし、今は二人の会話に入る事が憚られる為、質問したい気持ちをぐっと堪える。


「だってイケメンだぜ師匠!? この世で最も羨ましい素質……『イケメン』。それを持っている奴を妬まずにはいられるかァ!?」


 ユリスは嫉妬が止まらない。

 本人が目の前にいるにも関わらず、その気持ちは声を大にしていた。

 故に、周りの注目を集めてしまったが────ユリスは気にしない。


「落ち着け我が弟子。そんな気持ちじゃと、武闘祭で勝ち上がれんぞ?」


「……む?」


 ミュゼの言葉に、ユリスが一瞬にして落ち着く。


「武闘祭はお前さんの力でも油断ならんものじゃ。だから今はゆっくり寛ぎながら集中すればよい。何事も、冷静さがものを言うからの」


 ミュゼは落ち着きを払って、ユリスの前で諭す。


「……ん」


 ユリスはミュゼに言われると、大人しくその場で正座をし、先程までの元気が嘘のように大人しくなった。

 その姿を見たミュゼは嬉しそうに頷くと、少しだけ身を屈めてユリスの頭を撫でる。


「お前さんは武闘祭に集中しとればいいんじゃ。邪魔する奴らは妾が蹴散らしてやる……だから、気負わず頑張れ」


 そう言い終わると、ユリスの言葉も待たずミュゼは入口から飛び出していく。

 その姿はどこに行ったのか? 馬車が駆けているのだが、その姿はもういない。


「「……」」


 未だその光景に言葉が出ない二人。

 それはかの英雄がユリスと親しげに語らっていたからなのだろう。


「……」


 そして、ユリスもまた口を閉ざす。

 ミュゼに言われた通り、己のすべき事に集中する為。


 そうしている間に、ユリス達を乗せた馬車は国境を越えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] エミリアもう既に相当ユリスに惚れ込んでるじゃねぇか どうすんだよ王女をたぶらかした責任取れんのかよ
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